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「バンカー経営者」東芝・車谷前社長の大失態が招いた新たな火種とその行方

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車谷前社長が糸を引いていた?憶測飛び交いドタバタの展開

東芝が再び揺れています。きっかけは日経新聞のスクープ記事でした。「東芝に買収提案、英投資ファンドなど 2兆円超で非公開化」~英国の投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズ(以下CVC)から、東芝に対して上場廃止をめざした買収提案があったというもの。

この報道には様々な憶測が飛び交い、結果、一週間後には車谷暢昭社長が突然辞任するという事態に展開。さらに一週間を経て、CVCは買収提案を取り下げるというドタバタが続きました。

日経新聞のスクープ時に最も注目されたのは、買収提案をしたCVCが車谷氏の東芝要職入り前の古巣であるという点でした。

共同通信社

車谷氏は元々三井住友銀行副頭取からCVC日本法人の会長に転じ、そこから不正会計問題に加えて米国原発事業で巨額損失を出し東証一部から二部に降格させられ苦境に立たされていた東芝の再生役として、2018年4月会長兼CEO(後に社長兼CEO)に就任しました。

このような経歴を踏まえ、CVCの提案は車谷氏が後ろで糸を引いているのではないかとの疑念を持たれることとなり、その疑念が東芝内部で確信に変ったことで車谷氏は実質更迭と言える辞任に追い込まれたのです。

大幅増収益後も「物言う株主」は厳しい視線

車谷氏の東芝での実績は、財務再建請負人としてはお見事の一言でしょう。CEO就任後に早速東芝再建策に着手し、海外原子力事業からの撤退、半導体事業(現キオクシア・ホールディングス)の一部売却による2兆円の資金調達、白物家電およびパソコン部門の売却、約7000人の大規模リストラの断行、などを強行することで実質無借金経営を実現。

2020年3月期には営業利益で前期の約4倍となる1305億円を計上。2021年1月に、同社の念願であった3年半ぶりの東証一部復帰を果たしているのです。

一方で氏が抱えた問題は、アクティビスト(物言う株主)との対立関係です。大半の東芝のアクティビストたちは、東芝が経営危機に瀕していた2017年巨額損失の処理のための6000億円の増資を引き受け株主に名を連ねることになったという経緯があり、人一倍株主利益追求姿勢での物言いが強いわけなのです。

車谷体制下では、リストラ効果で目先の損益は回復し一部上場復帰を果たしたものの、株価は一連の不祥事発覚前の水準に比べ1000円以上低い状況に甘んじていたことには、不満が募っていました。

結果として昨年の株主総会では、大幅増益決算後にもかかわらず車谷氏再任に対する株主の賛成票が信任ギリギリの57%にとどまるという異常とも言える事態に陥っていたのです。

"反対勢力"に危機感を募らせ上場廃止を図ったとも見える状況

Getty Images

車谷氏の苦境は社外だけにとどまらず、社内では2015年の不祥事以降毎年実施されている幹部社員による役員の信任調査で、過半数が「不信任」という状況にもありました。

このような状況下で株主総会を控えたこの時期に、車谷氏の古巣CVCからの「現体制維持時」を前提とした買収提案報道ですから、「車谷氏が自作自演で延命を図った」との見方が取締役会で主流を占めたのは、至極当たり前の流れであったと言えます。

東芝の永山治取締役会議長は社長交代を発表した4月の記者会見で、CVCの提案を「内容が乏しく」「唐突であり」「現時点では評価することは不可能」と切り捨てたように、CVCに対する同社の反応は至って冷たいものでした。

そして会見への同席すら許されなかった車谷氏の社長としての最期は、会社の危機を救った財務再建の功績すら帳消しにするほどの、あまりに無残なものであったと言えます。

”バンカー経営者”である車谷前社長の限界

先にも述べたように、車谷氏は三井住友銀行出身のバンカーです。車谷氏の失敗は、バンカー経営者としての自身の限界を見誤ったことにある、とみています。

銀行一筋のバンカー経営者に、リストラによる経営再建はできてもモノづくり企業の成長戦略を描くことなど、常識的にはできないということです。

事業の切り売りによる債権圧縮、人員削減、設備統廃合によるコスト削減はお手のものであり、氏が瀕死の東芝を利益が出る企業体によみがえらせ東証一部上場に復活させたのは、一流バンカーの証であることは間違いありません。

しかし、それだけでは株価は上昇しません。必要なのは、机上論に終わることのない生きた成長戦略です。金融界一筋の車谷氏には、事業が多岐にわたる日本を代表するモノづくり企業の成長戦略策定役として、力不足だったと私は思います。

バンカーは製造業の現場経験を積んでいない限りはどこまでいってもバンカーであり、生粋のバンカーである車谷氏がその役割を越えて背伸びをしようとしたことが、今回の東芝の失態につながったと思えます。

そして同時に、東証一部復帰の立役者でありながら、コスト削減、リストラばかりを振りかざし続けたバンカー気質が社内での求心力を失わせていったことも想像に難くありません。

財務再建役としての自らの分をわきまえるなら、いささか結果論的ではありますが、今年の1月に東証一部復帰を果たした際に、今年度限りでの退任を発表し勇退すればよかったと残念に思うところです。

外部から緊急登板した経営者にとって、自身に課されたミッションに対する正しい理解と、引き際の認識がいかに重要であるのか、今回の件から思い知らされるところでもあります。

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