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「子や孫たちの幸せ」を考えれば、私たちは75歳まで働く覚悟を持つべきである

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90年代半ばが転機だった

政府も将来世代へのツケ回しを抑制するため、社会保障制度の改革を掲げる。だが、一向に追いつかない。

政府が毎年公表する「財政の中長期展望」は、高い成長シナリオを達成できれば、基礎的財政収支(プライマリーバランス)をゼロにできるとする。しかし、「展望」の描く高成長は滅多に実現せず、政府の借金は増え続けてきた。真の問題は、成長が実現しないことでなく、「高望み」の成長率を仮定しないかぎり財政収支の均衡を描けないことにある。

曇天の国会議事堂※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

将来の世代にツケを回さないためには、社会保険料の払い込みと、保険給付のバランスを回復させる必要がある。そのためには、一人ひとりが長く働いて、給付を受ける側から保険料を納める側に回るほかない。

厳密な試算は他に譲るとして、ここでは大づかみに、何歳ぐらいまで働けばよいかをイメージしてみよう。

財政の悪化を端的に示すのは、赤字国債の発行である。赤字国債は1970年代半ばから十数年間発行されたあと、いったんゼロになった。しかし、1990年代半ばに発行が再開され、その後急激に増加した。1990年代半ばといえば、生産年齢人口(15~64歳)が減少に転じた時期である。生産年齢人口の総人口に占める比率も同時期から一貫して低下を続け、赤字国債の発行も増え続けてきた。

これは偶然ではない。1990年代半ば以降、税金や保険料を納める側の人口が減り、保険の給付を受ける側の人口が増えた。制度が「伸びきった」状態のまま、人口構成が転換点を過ぎ、世代間の負担の転嫁が始まったように見える。

70歳代半ばまで働くこと

重要なことは、働く人の割合を1990年代半ばの水準に引き戻すことである。そうすれば、「働く人」と「働いていない人(乳幼児や学生および引退後の高齢者)」のバランスが回復し、財政も改善する。

ここでは、生産年齢人口を潜在的な「働く人」とみなし、生産年齢人口比率を1990年代半ばの水準に引き戻すことを考えてみよう。ただし、15~64歳という生産年齢人口の定義を残したままでは、実現できない。そこで、将来に限って、生産年齢人口の定義を拡張し、上限をどれぐらい引き上げれば計算が合うかを試算してみる。

ちなみに、従来の定義である15~64歳人口の総人口に占める比率の推移は、図表2のとおりである。ピークは1990年代半ばの約7割だった。これが足もとでは6割弱まで低下している。この水準は戦後最も低い。さらに、「脚の長い凧形」がほぼ完成する2045年には、5割強まで低下する。ただし、その後はおおむね横ばいで推移する。若い世代だけでなく、高齢者の数も減り始めるからだ。

したがって、2045年をターゲットに、潜在的な「働く人」の比率を90年代半ば並みの約7割に戻せれば、安定した財政状態を展望できるだろう。

生産年齢人口の対総人口比率推移

以上を踏まえ、2045年をターゲットに、生産年齢人口の上限を何歳まで引き上げれば、約7割となるかを試算してみる。結果は75歳前後となった。大づかみにいえば、一人ひとりが70歳代半ばまで働く社会とすれば、子どもや孫の世代に大きな負担をかけずに、社会を回していけることになる。

健康寿命を超えてしまうが

もちろん、健康状態は人それぞれに違うので、すべての国民に求めるべきことではない。また、そもそも健康寿命はまだ70歳代半ばに達していない。健康寿命は、2016年時点で男性72歳、女性74歳だ。

しかし、試算結果の意味は重い。私たちは、健康寿命を超えても、なお相当に長生きする社会に生きているということだ。そうした長寿の恩恵にあずかる以上、一人ひとりができる限り長く働く努力が欠かせない。そうしなければ、若い世代は、いまの高齢者ほどには、長寿の恩恵を受けられない。負担に耐えられず、いまの若者たちが高齢者になるころには、寿命の伸びが止まったり、短くなってもおかしくない。

医療費の負担割合などのさらなる見直しは、避けて通れないだろう。定年制も、単に廃止するだけでは足りない。能力に応じた賃金が徹底されなければ、企業は立ちいかなくなる。

社会を貫くパラダイムの一大変革となる。勝負の時は「脚の長い凧形」が完成する45年ごろまでだ。残された期間は20年強しかない。

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山本 謙三(やまもと・けんぞう)
オフィス金融経済イニシアティブ代表、日本銀行元理事
1954年、福岡県生まれ。1976年、東京大学教養学部教養学科(国際関係論)卒業後、1976年、日本銀行入行。金融市場局長、米州統括役兼ニューヨーク事務所長、決済機構局長、金融機構局長、理事などを歴任。2012年、NTTデータ経営研究所取締役会長。2018年、オフィス金融経済イニシアティブを設立し、代表を務める。
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(オフィス金融経済イニシアティブ代表、日本銀行元理事 山本 謙三)

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