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古畑任三郎は「100%田村正和さんです」 河野圭太監督が語る撮影秘話と感謝

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●スタジオの一角にあった「正和チェア」

4月3日に亡くなった俳優の田村正和さん。その代表作として知られるのが、三谷幸喜脚本の大ヒットシリーズドラマ『古畑任三郎』(フジテレビ)だ。

田村さん演じる警部補・古畑任三郎が、完全犯罪をもくろむ犯人たちの難解なトリックを卓越した推理力で解いていくもので、94年に『警部補・古畑任三郎』としてスタート。連続ドラマとして3シーズン続いたほか、数々のスペシャル、スピンオフなど、12年間にわたって国民から愛され続けた。きょう21日(20:00~21:58)には、最後の作品「ラスト・ダンス」(ゲスト:松嶋菜々子)が田村さんの追悼番組として放送され、FODやTVerでその他の作品も配信されている。

この全43回の放送のうち、約半数を演出したのが、共同テレビ取締役の河野圭太監督。「正和さん」と慕う田村さんとの思い出やエピソードなどを聞いた――。

『古畑任三郎』に出演する田村正和さん=2004年1月3日放送「すべて閣下の仕業」より (C)フジテレビ

■「天下の二枚目にコミカルな作品を…」という不安

田村さんの訃報に「こんなに早くこういうことになるとは思っていなかったので、実感がわかないです」という河野氏。出会いは、この『古畑任三郎』だった。

画面を通してと、実際に会っての印象は「あまり変わらなかったですね。あのダンディなスタイルを崩さない、“あの田村正和だ!”という感じでした」とのこと。94年のスタート時、30代中頃だった河野氏は「あんな大御所の方と、演出としてご一緒できると思っていなかったので、怖いというか、大丈夫かな…という思いと、天下の二枚目がこんなコミカルな作品を本当にやってくれるのだろうか…という思いがありました」と、不安を抱えていたという。

ドラマのスタジオ収録では、普通の役者はスタッフたちの準備の時間になると一旦楽屋に戻るのだが、田村さんは「正和チェア」と呼ばれていた専用のイスを、スタジオの一角に設置。照明に肘掛けとテーブルが付いており、そこに海外の炭酸水を置いて、ほとんどしゃべらず台本を読んでいたそうだ。セット横の暗い場所で、田村さんのいる場所だけ明るくなっているその光景は、まるで『古畑任三郎』のオープニングや、解決編前のよう。そこに、打ち合わせをするスタッフが1人ずつやってきて、話をするというスタイルが確立されていた。

一方でロケの際は、一般の人から見られることが苦手なため、空き時間はすぐ車の中に入っていたという。

『古畑任三郎ファイナル「フェアな殺人者」』より=2006年1月4日放送 (C)フジテレビ

■しぐさ、口調は田村正和さんのアイデア

古畑と言えば、額に手を当てて考えたり、犯人を見ずに話しかけたりするしぐさなど、独特の動作が印象的で、多くの人がマネをしたキャラクターだが、この役作りは「100%田村正和さんです」と断言する。

「お芝居がしっかりあるシーンはリハーサルをやるんですが、そのときにはもう動きを考えて来られていて、具体的に『こうしたい』と言うのではなく、とにかくやって見せてくれたんです。リハーサルは、いろいろ試行錯誤して本番の動きを詰めていくんですが、1回目でほぼすでにあんな感じの動きをやってくれたので、『あ、こうなるんだ!』『面白いなあ』と思って見ていましたね」

独特の動きを象徴する場面と言えば、第2シーズンの風間杜夫のゲスト回「間違われた男」で披露したボウリングのフォーム。ゆったりとした投球で超低速ながら、見事なスローカーブを描いてストライクをとってしまうシーンだ。台本には「変な動き」と書いてあったが、「田村さんに丸投げしてみたら、ああいう形になったんです(笑)」と、一発目で見せたフォームだったという。

このシーンはストライクを出さなければならないため、プロボウラーを吹き替え用に手配していたが、古畑のフォームから繰り出される球速と全く合わないため、なんと河野氏が投げたのだそう。

「ギリギリのところで曲がってストライクになるんですけど、遅すぎてガーターになっちゃうんです(笑)」と苦労したものの、2~3回でOKテイクに。ただ、そのままではストライクにならないため、ピンの側にテグスを張っておき、球が当たった瞬間に引っ張って倒すという仕掛けで対応したそうだ。

「え~~…」と、ゆったり間を置いたあの口調も台本には書かれておらず、田村さんのアイデア。「犯人をじらしながら攻めていく、回りくどい言い方も、ほぼ正和さんですね」と、貴重な台本を見返しながら確認してくれた。

●口では言わない田村正和さんの“演出指導”

「フェアな殺人者」より=2006年1月4日放送 (C)フジテレビ

第1シリーズの当時、カメラ・音声・照明など技術スタッフに田村さんと長年組んできたベテランがそろっている中、河野氏ら演出家が一番若いチームだったといい、田村さんからは演出術を学ぶことも多かったと打ち明ける。

「正和さんがずっとカメラに背中を向けて犯人に話し、最後に振り返るシーンがよくありますよね。こっちとしては、役者の顔を撮りたいので、リハーサルのときに正和さんの向く先からカメラを撮るという意思表示をするんですけど、そっちに回ると正和さんがまた違う方を向いて背中を見せるんです。なので、こっちはまた顔を狙う意思表示をするんだけど、それも背けてしまう。そのとき、これは正和さんが『ここはまだ背中を撮れ』と言っているんだと気づいて。口では言わないんですが、背中を長く見せておいて、“最後に振り返る一番いいセリフはここだ”というのが、あうんの呼吸のようにだんだん決まってきて、それがうれしかったですね。こんな駆け出しの僕にも語りかけてくれたような気がして」

■“舞台的”な撮影手法――NGを出さない理由

古畑はあれだけの長セリフであるにもかかわらず、田村さんはNGを出さないことで知られていた。そこにも、こだわりがあったという。

「特に『古畑』のときがそうだったのかもしれませんが、正和さんは長いセリフを話しているテンションが、カットが細切れになることによって合わなくなってしまうのを嫌ったんです。NGを出したら途中から撮り直すということになるので、せっかく高揚した芝居をしていたのに、そこにつながらなくなってしまう。この考え方はすごく“舞台的”で、カメラを何台か使って同時に撮っていき、多少アングルが悪くても芝居のテンションを優先していくという意識でやっていました。スタジオはともかく、ロケのときは大変でしたけどね(笑)」

ちなみに、遅筆で知られる三谷氏の脚本だが、台本が上がってから撮影まで最低1週間は空けるという約束があったため、セリフを覚える時間は確保されていたそう。

だが、第3シリーズの最終回(江口洋介ゲスト回「最も危険なゲーム」)は前・後編の放送で、前編の台本しかでき上がっていない状態で撮り始めることになってしまったそうで、「後編分は1週間空けられなかったのですが、正和さんはやってくれましたね」と柔軟に対応してくれたそうだ。河野氏にとっても、「長い演出家人生の中で、前・後編のもので後編の最後のオチを知らないまま撮り始めるなんていうのは、最初で最後です(笑)」という異例の経験だった。

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