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  • WEDGE Infinity
  • 2021年05月21日 17:17 (配信日時 05月21日 16:22)

パレスチナ戦争、勝ったのは誰か?イスラエル対ハマス、衝突の総決算

イスラエルとパレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスは5月21日未明をもって停戦に合意した。11日間の戦闘でパレスチナ側232人、イスラエル側12人の犠牲者が出た。エジプトが仲介した今回の停戦が「恒久的な停戦」に結びつくかは分からないし、過去の停戦同様、すぐにも破られる恐れも強い。衝突を振り返り、勝ち組、負け組は誰なのか、総括してみた。

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停戦合理を喜ぶガザ地区の人々(REUTERS/AFLO)

一番の負け組はネタニヤフ首相

イスラエルのネタニヤフ首相は「国の安全が確保されるまで戦闘を続行する」と強調していたが、米国のバイデン大統領に事実上の“最後通告”を突き付けられ、目標を達成できないまま停戦に追い込まれた。最大の負け組と言えるのではないか。

攻撃に踏み切った首相の狙いは第一に、ハマスの軍事的な脅威を一掃することだった。イスラエル側の発表などによると、イスラエル軍は航空機数百機や戦車などを投入して計200時間に及ぶ猛攻撃を加え、ハマスや過激派組織「イスラム聖戦」の戦闘員約130人を殺害。ハマスがガザ全体に建設した地下トンネルのうち96キロ相当を壊滅し、ロケット発射装置約80基を破壊した。

しかし、電気、水道といったインフラ施設や住宅、病院なども含め、事実上無差別攻撃したものの、ハマスの軍事的脅威を完全に除去することはできなかった。確かにハマス保有のロケット弾貯蔵庫を狙い、トンネルを集中的に攻撃し、甚大な損害を与えたのは事実だろう。

ただ、ハマス保有のロケット弾は1万発から3万発と言われており、無傷で残ったロケット弾も相当数あると見られている。米国のロス元中東特使は米紙に対し「ハマスがロケット弾を保有している限り、停戦は不可能」と指摘、イスラエル国内でも「何のために戦争したのか」と戦果を疑問視する声がある。

第二は首相が密かに抱いていたと思われる政治的な狙いも思惑通りに運ばなかった。刑事被告人でもある首相は先月、選挙後の新政権樹立に失敗し、窮地に追い込まれていた。そうした時にハマスとの戦闘が始まった。イスラエルのメディアなどによると、首相はこの武力衝突を政治的な苦境から脱するために利用、「テロリストに立ち向かう強い指導者」(ベイルート筋)の姿を国民に示し、政権維持を狙ったと見られている。

だが、国民がこぞって首相の指導力を支持するところにまではいっていないようだ。首相の組閣失敗の後を受け、現在連立工作を行っているラピド元財務相は「軍は成功したが、ネタニヤフ政権は失敗した。許し難い外交と安全保障の失策だ」と非難のトーンを強めている。エルサレム・ポスト紙によると、ラピド氏の連立工作は進展しており、首相の思惑とは逆の展開だ。

軍事的敗北、政治的勝利のハマス

一方の当事者のハマスは「軍事的には敗北、政治的には勝利を手に入れた」といったところではないか。軍事的には、イスラエルの発表通り、多数の戦闘員が殺害され、ロケット弾や発射装置の多くが破壊されて甚大な損失を被った。対イスラエル戦の武器となってきた「メトロ」(地下鉄)と呼ばれるトンネル網も壊滅的な打撃を受けた。

確かにロケット弾の一部は70~80キロ離れた商都テルアビブや聖地エルサレムにまで到達し、イスラエル国民に恐怖を与えた。しかし、発射したロケット弾約4000発の90%以上がイスラエルの防空網「アイアンドーム」に破壊され、思うような軍事的成果を挙げることはできなかった。トンネルの再建などには長い時間が必要だ。軍事的には空軍力など圧倒的な差があるイスラエルの前に、敗北したという評価になるだろう。

しかし、政治的にはパレスチナ人社会やアラブ世界でのハマスのプレスティージは上がった。パレスチナ自治区はガザを支配するハマスと、ヨルダン川西岸を統治する自治政府に分断しているが、パレスチナ人社会の人気はハマスの方が高い。現にパレスチナ評議会(議会)の第1党はハマスである。

自治政府のアッバス議長は15年ぶりの選挙を5月22日に予定していたが、イスラエルが東エルサレムの選挙を認めない恐れがあるとしてこのほど、選挙を無期限延期した。延期の本当の理由はハマスの勢力拡大を懸念したためとされる。パレスチナ人の間では、今回もイスラエルに対して武力闘争を挑んだハマスの人気は一段と高まったと見られている。

ハマスはまた、アラブ世界でも、忘れていた「アラブの大義」「パレスチナの大義」を思い起こさせたとして評価されている。特に、トランプ前米政権の仲介でイスラエルとアラブ諸国との関係改善が進んできたが、パレスチナ問題やイスラエルの無差別攻撃をクローズアップさせたことで、こうした動きにストップをかけたと一部で評されている。アラブの大国サウジアラビアがイスラエルと国交を結びにくくなったのは間違いない。

バイデン大統領も負け組か

米メディアによると、バイデン大統領はネタニヤフ首相と停戦まで4回にわたって電話会談した。元々、中東和平の優先度が低かったバイデン氏だが、戦闘が激化しても対応は鈍かった。調停のためブリンケン国務長官を派遣することもなく、会談後のホワイトハウスの発表はバイデン氏が「イスラエルの自衛権を支持した」ということが強調された。

国連安保理でも都合4回開催された会合では、停戦を求める声明が米国の反対で出すことはできなかった。バイデン氏は国際協調や人権を重視することを強調してきたが、国連の場での国際協調を軽視するような姿勢に非難の声が上がった。さらに、こうしたバイデン氏の停戦調停に消極的で、イスラエルに配慮しすぎる対応に身内の民主党からも批判が噴出した。

特にイスラエルに対する7億3500万ドルの武器売却について、リベラルな議員を中心に反対する意見が強まった。米紙によると、大統領選挙の党候補指名争いで、バイデン氏と最後まで戦ったサンダース上院議員は「米国の兵器がガザを破壊し、女性や子どもを殺害している時、新たな兵器売却を認めるわけにはいかない」などとして、兵器の売却差し止め決議を準備中だ。

バイデン氏のイスラエルに甘い姿勢に異議を唱えているのはリベラル系の議員だけではなく、これまでイスラエルの立場を強く擁護してきたシューマー上院院内総務やメネンデス上院外交委員長らも疑問を呈するようになった。こうした党内からの批判を受けたバイデン氏は19日のネタニヤフ首相との電話会談で、「停戦に向けた大幅な緊張緩和を今日期待する」と期限を切って事実上の“最後通告”を突き付けた。

翌日、ネタニヤフ首相がやっと停戦を受け入れ、バイデン大統領はなんとか面目を保った。しかし、大統領に対する国内外の懐疑論の高まりはバイデン氏のイメージを傷つけることになったのは間違いない。こんな中、最大の勝ち組は調停をまとめたエジプトのシシ大統領だ。かつてのアラブの盟主も最近、影が薄くなっていたが、これをきっかけに発言力を増すかもしれない。

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