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「自粛要請を拒否したら黒字に転換」緊急事態宣言に従う人ほど損している

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東京・大阪などの6都府県に、3度目の緊急事態宣言が出されている。だが、1年前の緊急事態宣言時とは街の様子が違う。文筆家の御田寺圭さんは「今回の緊急事態宣言は失敗に終わるだろう。この1年で国や自治体への忠誠心が使い果たされてしまったからだ」という――。

2021年5搈12日、3回目の緊急事態宣言が延長された東京・渋谷のファッション街を、マスクをして歩く人々。2021年5月12日、3回目の緊急事態宣言が延長された東京・渋谷のファッション街を、マスクをして歩く人々。 - 写真=アフロ

「無観客なら営業可能」という謎の要請

4月25日から発令され、その後に期間や対象地域を拡大しながら継続している緊急事態宣言——その宣言のある内容について、ざわめきの声があがっていた。

というのも、遊園地などの娯楽施設に対して「無観客で開場するのであれば営業可能」という通達が含まれていたことだ。

いちおう断っておくが、私が文章を書き間違えているわけではない。実際にそのように書かれていたのだ。人入りが前提となっているような業態である娯楽施設は「緊急事態宣言中は人を入れなければ営業してもよい」ということなのである。

これに対して、「なにを言っているのかよくわからない」と関係各所から疑問の声があがっていた。そのような反応は至極当然だ。客を呼ばなければ利益の生じえない事業者に向かって「無観客でなら営業してよい」というのは、たちの悪い冗談か、あるいは馬鹿にしているのかと思われても仕方がないものであった。

「経済活動の自由を尊重している」建前を崩したくない

25日に発令される緊急事態宣言を踏まえ、各地の商業施設や娯楽施設が営業休止や縮小に乗り出した。関係者からは「要請の中身が意味不明」「あまりに急」といった戸惑いと不満の声が聞かれた。
日本最古の遊園地「浅草花やしき」(東京都台東区)は24日朝、緊急事態宣言期間中の休園を決めた。都は遊園地への「無観客開催」を求めており、事実上の休業要請と受け止めた。肥後修施設運営部長は「うちは遊園地。お客さんがいてこそ意味がある」と都の要請に首をかしげ「あまりに急な決定で、来園者にも迷惑がかかる。もう少し早く決めてほしかった」と漏らした。
毎日新聞『遊園地に「無観客開催を」? ナゾ過ぎる「都の要請」に施設困惑』(2021年4月24日)より引用

5月12日からの緊急事態宣言延長で、政府からの大型商業施設やイベントに対する制限は一部緩和された(浅草花やしきは「2021年5月12日(水)より、一部のアトラクション・施設を除き、十分な感染予防対策を実施した上で再開(浅草花やしき公式サイト)」としていることは付言しておきたい)ものの、一見すれば不可解で理解不能としか言いようがない当初の言動には、実際にはそれなりの意味があった。

すなわち、国や自治体側はあくまで「条件を守ってもらえるかぎり、こちらは皆さんの経済活動の自由を最大限尊重しています(自由を制限していません)」という建前を堅守したいからこそ、このような奇怪な 表現を用いていたのだ。

「最終的責任」を取りたくない国や自治体

もっとわかりやすく言えば、緊急事態宣言において「休業しろ(休業命令/営業禁止)とはいっさい言明しておらず、あくまで『無観客でなら開場可能』であると言ったのだから、事業者が休業したり営業自粛したりしたとしても、それはあくまで事業者側の自主的な判断によるものであり、われわれは一切関知していない」と主張できる余地を残し、その後の事業者たちから結果責任を追及されることがあっても、究極的な責任は事業者側にあると強弁できる根拠を残しておきたいのだ。

国や自治体が現在行っている補償は、あくまで「道義的責任(≒温情)」として行っているものであり、憲法で国民に保障された基本的人権を公権力が制限・侵害したことによる「賠償」の名目で行っているわけではない——という建前を、かれらはなんとしても守り抜きたいという考えがあった。この1年間の感染対策においては、あくまで「自粛」「要請」という「お願いベース」の姿勢を徹底して守ってきたのは、この建前を潰さないためだ。

緊急事態宣言に従う店の一時閉鎖を知らせる張り紙※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Fiers

全責任を負わずに済む「要請」という便利な言葉

感染対策のために国民の人権(移動の自由や経済活動の自由)を制限する「命令」を下してしまえば、それにともなう損害の補償は「義務」として国や政府に100パーセント課せられることになる。しかし、たとえ実質的には命令しているのと相違なかったとしても(今回の『無観客なら開場してもOK』はまさにそれだが)、明文化されている文言が「命令」ではなくて「要請」であれば、それにともなう損害の補償は「自己責任である」と突き放す文脈が生まれ、必ずしも100パーセントの責任を負うことが求められない。

今後のコロナ禍の状況次第ではさらに補償や経済政策を行う必要に迫られ、財政的に追い込まれてしまうようなことがあったとしても、しかし究極的には「あくまで皆さんの自主的な判断に委ねたのですから、すべての責任がわれわれにあるわけではないのですよ?」と言ってのけるためのとっておきのカードがまだ国や自治体には残されている。

この「切り札」を手元に残しておきたいからこそ、国はこの1年間にわたって、「命令」「禁止」など憲法上の人権侵害を行ったとする言質がとられうる表現をなにがなんでも回避してきたのだ。

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