記事
  • WEDGE Infinity
  • 2021年05月20日 09:19 (配信日時 05月20日 06:00)

LINEだけの問題か? データ利用を感情で議論するな 「中国は入っていない」ZHD川邊社長の回答の意味 - 櫻井俊 (Wedge編集部)

「個人情報保護法違反なのか、通信の秘密を侵害したのか、データ処理を委託した国が悪かったのか、さまざまな指摘が入り乱れている。このままでは問題に対応するための適切な議論が行われない」。国内の月間ユーザー数が8600万人を超える対話アプリ「LINE」における個人情報の取り扱いが問題になったことについて、中央大学国際情報学部・小向太郎教授はこう語る。

[画像を元記事で見る]

LINEは4月、電気通信事業法に基づき総務省から、そして個人情報保護法に基づき個人情報保護委員会から二つの行政指導を受けた。双方から指摘されたのは、国外拠点での開発業務において国内へのデータアクセスが可能だったことの安全管理措置と、利用者への周知についてだ。

LINEのトークのテキストは暗号化され、同社のサーバー管理者でも閲覧できない。しかし、同社がモニタリングツールの開発・保守業務を委託しているShanghai LINE Digital Technology Limited(大連)の開発者は業務の過程で、ユーザーから同社に通報されたトーク内容を閲覧しうるURLに32回、そして、画面操作次第で閲覧しうる他のURLに19回、アクセスしていた。

総務省、個人情報保護委員会はいずれも明確な法令違反とはしていない(5月7日時点)。しかしデータガバナンスに詳しい有識者は「LINEの対外的な説明と内部の処理が〝異なっていたこと〟が問題だ」と指摘する。

LINEは新型コロナワクチン接種予約や、新型コロナ自宅療養患者の健康観察など、地方公共団体におけるさまざまな業務に活用されている。しかし、同社は外部への説明資料の一部で、「LINEの個人情報を取り扱う主要なサーバーは、日本のデータセンターで管理されています」と記載していた。

確かに、LINEのトークのテキストや会員登録情報は日本のデータセンターで保管されていたが、動画・画像・ファイルについては韓国のデータセンターで保管されていた。同社には個人情報を扱うリスクについて指摘する情報セキュリティ部門が存在するが、「認識が不足しており対応が後手にまわった」(広報)という。

前出の小向教授は「個人情報の利用に際して、プライバシーポリシーなどであらかじめ包括的に同意をとっておく『同意一本足打法』の悪い側面が表れ、LINEとユーザーとの間で認識の〝ズレ〟を生んでしまったのではないか」と指摘する。

個人情報保護法では個人情報の収集、利用、外国にある第三者へのデータ提供などについて、本人の同意を得れば行うことが可能になる。LINEもプライバシーポリシーで「利用者から同意を得た場合を除きパーソナルデータを第三者に提供することはない」と記載し、事前同意もとっていた。

「欧州連合(EU)が2018年5月に導入した『一般データ保護規則』(GDPR)では、個人データを処理するには厳格な同意か、『個人データを利用しなければサービスが提供できない』といった、その個人情報を利用することが適法である根拠の立証責任を事業者に課している。日本でも事前に同意さえとれば、個人データを利用したり提供したりできるままでいいのか、再考する必要がある」(小向教授)

また、行政指導の中で総務省は「外国の法的環境による影響等にも留意しつつ情報の取り扱いに係るリスク評価を実施し、必要に応じ所要の措置を講ずること」とした。これは何を意味するのか。小向教授は「現地政府による強制力のあるデータ収集はどこの国でもありうる。せめてその履歴が残る透明性(トランスペアレンシー)を備えた国に預けるなど、できることをよく『考えろ』という意味だろう」と語る。まるで総務省は責任を企業に押しつけているようにも見える。

LINEの親会社であるZホールディングス(以下、ZHD)の川邊健太郎社長は4月の決算発表の会見で「(データ処理を委託するのは)保護法制レベルが日本と同等の地域、例えばアジア太平洋経済協力(APEC)の越境データ移転ルール『CBPR』の基準に基づく認証を受けた企業に限ったほうがいいのではないかと議論している。CBPRには日米韓など9カ国が入り、中国は入っていない」と語った。この「中国は入っていない」という回答は、一連の騒動を象徴している。

今後、日本のデータガバナンスをどうしていくべきか。ZHDが開催するLINE問題に関する特別委員会で座長を務める宍戸常寿・東京大学大学院教授は「どのような情報を、どういった法規制や司法手続きの信頼性を備えた国になら出していいのかについて、国民的議論が必要だ」と指摘する。

デジタル社会において情報を守るためには、政府が企業やユーザーに対して一方的に法律を作り、企業はそれを守り、ユーザーはサービスを享受するという縦の関係では守り切れない。われわれユーザー自身も、データをどうやって利活用するのかを主体的に考え、企業や政府に対してそのあり方を要望していくことが必要だ。ある大手IT企業のセキュリティ担当役員も「国民感情、企業の電気代等のコスト、安全保障などの観点を踏まえて議論を深めてほしい」と語る。

今回の問題は、GAFAのようなデータプラットフォーマーを持たない日本の弱みを露呈した。普段は、LINEなどのサービスの利便性を享受しているにもかかわらず、中国や韓国という国名が出ると、騒動が巻き起こり、政府はその都度「対応」する。そうではなく、日本は国際的なデータ流通にどう向き合うかの国民的議論を早急に行わなければ、いつまでもデータ後進国から抜け出すことはできない。

Wedge6月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■押し寄せる中国の脅威 危機は海からやってくる
Introduction 「アジアの地中海」が中国の海洋進出を読み解くカギ
Part 1    台湾は日米と共に民主主義の礎を築く    
Part 2    海警法施行は通過点に過ぎない 中国の真の狙いを見抜け 
Column  「北斗」利用で脅威増す海上民兵
Part 3    台湾統一 中国は本気 だから日本よ、目を覚ませ!
Part 4   〖座談会〗 最も危険な台湾と尖閣 準備なき危機管理では戦えない
Part 5    インド太平洋重視の欧州 日本は受け身やめ積極関与を
Part 6    南シナ海で対立するフィリピン 対中・対米観は複雑
Part 7    中国の狙うマラッカ海峡進出 その野心に対抗する術を持て

◆Wedge2021年6月号より


あわせて読みたい

「LINE」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    日本人はナゼ「貧乏になったこと」に気が付かないのか?

    内藤忍

    06月21日 14:24

  2. 2

    年上の高齢男性から告白されるということについて

    紙屋高雪

    06月21日 09:11

  3. 3

    共同通信『慰安婦謝罪像、東京で展示を検討』 とんでもないことで許せぬ

    和田政宗

    06月21日 08:22

  4. 4

    「反ワクチン」言説は支持しません。が、Amazonなどからの一斉排除はいささかの懸念が残る

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    06月21日 08:18

  5. 5

    60歳以上の約3割「家族以外の親しい友人がいない」孤独に長生きして幸せなのか

    毒蝮三太夫

    06月21日 09:31

  6. 6

    ワクチン接種の義務付けをめぐる「公共の福祉」と「個人の自由」日本とアメリカで違い

    中村ゆきつぐ

    06月21日 08:35

  7. 7

    小川彩佳アナと離婚へ ベンチャー夫の呆れた一言「今からなら、遊んでも…」

    文春オンライン

    06月21日 19:30

  8. 8

    日本政府、アストラゼネカのワクチンをタイに寄付へ

    ロイター

    06月21日 20:44

  9. 9

    尾身氏らが提言した無観客開催 五輪ファンの生きがいが奪われるリスクは検討したのか

    山崎 毅(食の安全と安心)

    06月21日 10:53

  10. 10

    10年前は有事の国会閉会を批判 国会軽視の態度に変わった菅首相

    野田佳彦

    06月21日 17:43

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。