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トヨタ社長が記者会見で「日本らしいカーボンニュートラル」の実現を訴えた理由

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トヨタ社長が会見で示した”大切なメッセージ”

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日本自動車工業会(自工会)の4月22日の定例会見で、トヨタ自動車の社長も務める豊田章男会長が、カーボンニュートラルについての考えを示した。豊田会長がカーボンニュートラルに言及するのは昨年12月、今年3月に続いて3度目であり、このテーマをかなり重視していることがわかる。

昨年12月の会見では、一部のマスコミが「電動化=EV(電気自動車)化」と報道する姿勢に触れ、仮に1年間に国内で販売される乗用車400万台をすべてEV化すると、夏の電力使用ピーク時には電力不足となるという試算まで公開して反論したことが記憶に新しい。

さらに、今回の会見ではもうひとつ、大切なメッセージがあった。生産から廃棄まで、モノの一生の流れの中で発生するCO2など温室効果ガスをゼロにする、LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)に言及したことだ。

従来の考え方では、EVは走行中はCO2を出さないので、すべてEVにするのがカーボンニュートラルの早道と言われた。しかし、LCAに基づくと、同じクルマでも生産国のエネルギー事情により値が変わってくる。

安易なLCA推進で自動車産業90万人の雇用が危機に

少し前まで、日本はこのLCAについて、誤った解釈をする人が多かった。

「EVはたしかに、走行中はCO2は出さない。だが、日本は発電の4分の3を火力でまかなっている以上、電気を作る際にCO2を発生するので、EV化しても温暖化対策にはならない」という主張が目立っていた。

しかしそれは日本国内限定の話であり、グローバルで考えれば国ごとの温暖化対策も重要になる。

たとえばトヨタのコンパクトカー「ヤリス」は日本だけでなくフランスでも作っているが、原子力と自然エネルギーを合わせれば9割に達するフランス産ヤリスのほうが、LCAで考えるとはるかにカーボンニュートラルに近い。

もしこのLCAに基づいて税金が算出されたり罰金が科せられたりすると、日本で作る自動車は軒並み成績が悪くなってしまうわけで、欧州で作ったほうが得になる。メーカーがこの数字をもとに動けば、日本の自動車産業は空洞化が始まる。

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自工会の調べでは、製造部門に従事するのは約90万人。これだけの人々が一気に職を失う可能性があることを、豊田会長は警鐘を鳴らしている。

そして4月の会見では、カーボンニュートラルは「EV化」ではないということを、もうひとつの角度から説明した。

「電動化=EV化」の論調を政府は明確に否定している

実は日本政府も、カーボンニュートラルはEV化でないことは、昨年12月の豊田会長の会見後に発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で明記しているのだ。

遅くとも2030年代半ばまでに乗用車新車販売で電動車100%実現を目指すとしつつ、電動車については注釈としてEV・燃料電池自動車・プラグインハイブリッド車・ハイブリッド車としており、「電動化=EV化」という一部の論調を明確に否定するとともに、エネルギーについてもいくつかの政策を提言している。

また、燃焼してもCO2を排出しないアンモニアを燃料とする火力発電、燃料電池にも使われる水素の活用、CO2と水素を合成して作るカーボンニュートラルな燃料「e-fuel(イーフューエル)」の開発についても言及がある。ちなみにこのe-fuelは、既存のエンジンでも利用可能と言われている。

豊田会長の4月の会見でも、こうした言葉が並んでいた。そして、日本の強みである優れた技術の組み合わせ、つまり複合技術を生かした、日本らしいカーボンニュートラル実現の道筋があるのではないかと提案していた。

トヨタ社長が会見で日本の姿勢を”再確認”した意味

筆者は昨年12月の国の発表を他の媒体で記事にもしているので、豊田会長の4月の発言は特に驚きはなかった。ではなぜこの点に言及したのか。それは、記者会見という場だったからだ。

記者会見とはその名のとおり、新聞やインターネット、テレビなどで報道に従事する記者向けの会見だ。記者たちは当然ながら、その分野で先進的な事例を参考に報道することが多い。新型コロナウイルスでは台湾の対策が何度も報じられている。

温暖化対策と言えば、やはり欧州が先進地域だ。これは筆者も認める。しかも多くのメッセージは明快で主張がうまい。それこそが正義であると思いがちになる。

しかし欧州がモビリティに関して、こうした一本足打法を取ることは異例である。

自動車に過度に依存した社会からの脱却を図るべく、既存の公共交通と新しいモビリティをシームレスに統合したMaaSを提案したり、物流についてもトラックから鉄道や船舶に切り替えるモーダルシフトを進めたりしており、複合の考え方が主流だ。

よって、自動車も状況に応じて多彩なエネルギーを使い分けるという発想になるはずであり、実際に欧州でも燃料電池やe-fuelの開発は進めている。なのにそのような話になっていないのは、戦略的な要素が多分に含まれているからである。

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