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もう限界! - 鈴木耕

もうカンベン、オリンピックむり!

 最近の新聞紙面で「もう限界です」という言葉をよく目にする。まるで悲鳴のような叫びを発する人が増えているのだ。

 東京・立川市の立川相互病院の窓には「医療は限界 五輪やめて!」「もうカンベン オリンピックむり!」との悲痛なメッセージが掲げられた。途切れることなく運び込まれるコロナウイルス感染者の治療に追われて、疲労と消耗の極限にある医療関係者たちの、これが偽らざる気持ちなのだろう。

 マガジン9の読者であれば、連日のように悲鳴が届く現実を、雨宮処凛さんのルポルタージュでご存知の方も多いだろう。生きていくことに疲れ果てながら、食品などを無償で配る活動をしている「大人食堂」にすがって、なんとか生をつないでいる人たちがこれほど多くなってしまったのが今なのだ。

 敗戦直後の「焼け跡闇市の時代」ならばともかく、ビルが林立しきらびやかなファッションを身にまとった人たちの行き交う都会のはざまで、飢え寸前にまで追い込まれている人たちが「大人食堂」を頼って来る……。それこそ、もう限界、だ。

「絆」という言葉のまやかし

 菅義偉氏が首相就任時に発した言葉は「自助・共助・公助」だった。「まずは自分で努力し、足りぬところは民間で助け合い、それでも足りなければ行政が助けてやる」という、何とも尊大な言い分だった。

 当然ながら「順序が逆だろう!」という手激しい批判が沸き上がった。すると菅氏は「そして絆」を付け加えてごまかした。「絆」なんて言葉は優しげだが、結局、具体的には何の意味もない。まあ、みんなで手を結び合って……という「共助」の言い換えに過ぎない。政府が政策的に国民を助けようとするつもりはないのか。

 菅首相が真っ先に挙げた「自助」は、ほんとうにもはや限界なのだ。その悲鳴に呼応する「共助」だって限界に近付きつつある。となれば当然「公助」の出番のはずだが、これが惨憺たるありさまだ。

 コロナ禍で、いわゆる雇止めにあった人(労働者)の数は、政府統計でも軽く10万人を超えている。しかし、雇止めでアパートを追い出され、住む場所を失って路上に出た人に職は回ってこない。だから、求職することすら諦めてしまった人も多い。つまり、10万人どころではない多数の人たちが「自助の限界」を超えているのだ。

 最終的には「公助」のひとつ「生活保護」にすがらなければならないのだが、そこにはさまざまな壁が立ちはだかる。一例が「扶養照会」というもの。

 役所へ生活保護申請に行くと、「あなたには援助してくれる肉親がいるでしょう。その方に、あなたへの援助が可能かどうか問い合わせをします」というシステムだ。役所から肉親(親や兄弟姉妹)あてに「Xさんが生活保護を申請していますが、Xさんへの援助は不可能ですか?」という問い合わせが届く。肉親に知られるのがイヤで保護申請を出さない人が多いのだという。

 なるべく「生活保護申請」を受け付けないように窓口の職員を指導している役所もあると聞く。つまり、「公助」は機能していないのだ。そうなると話は元に戻る。菅首相が言う「自助・共助・公助、そして絆」である。

 もし「絆」などと言うのなら、それはまずコロナの終息を見極めてからのことだろう。だが「ワクチン敗戦」と言われるように、まさに菅政権は敗戦の泥沼でもがいているだけだ。先の見えない戦いは「インパール菅」とも揶揄されている。

日本のワクチン接種状況は世界110位

 菅首相、「1日100万人のワクチン接種」とか「7月中には全高齢者(3,600万人)に2度のワクチン接種を実現する」などとぶち上げるのはいいのだが、各地方自治体からは「そんな無茶な……」という嘆き節しか聞こえてこない。

 それでも菅首相は「各自治体の85%は7月中に接種を終了できるという調査結果が出ている」と胸を張る。何のことはない、政府筋から「早くやれ」とケツをひっぱたかれて、仕方なく「7月中までに頑張ります」と、仕方なく自治体は答えているだけで、ほんとうに終了できるかどうかはやってみなきゃ分からない、というのが本音だ。それが菅首相の言う「85%」の実際の中身なのだ。

 その証拠に、総務省職員が自治体へ執拗に接種を早めるように電話していたという。17日の国会審議でそこを突かれると、武田良太総務相は「決して圧力をかけたのではない」と強調した。だが、中央省庁官僚から繰り返し強要されれば地方自治体の職員は「頑張ります」としか答えようがない。それを「圧力」と言わずして何と言うか!

 しかも呆れたことに、この85%は「自治体数の85%」なのであって「対象人数の85%」ではない。小さな自治体、離島や過疎化の進む田舎の数千人規模の自治体ならば、7月中も可能だろう。自治体数を積算しての85%だ。対象人数が圧倒的の多い大都市からは「7月中に終了」という声は聞こえてこない。これは算数のトリック、もっと言えば「ごまかし」でしかない。

 共同通信(5月16日配信)によれば、日本の接種率の遅れは致命的だ。

 日本の新型コロナウイルスワクチン接種の遅れが際立っている。英オックスフォード大などによる16日までの調査で、少なくとも1回投与された人の割合は約3%にとどまり、世界平均の約9%に及ばない。接種体制の遅れから、発展途上国レベルの世界110位前後に低迷。接種が進み、普段の生活を取り戻しつつある欧米とは対照的だ。

 政府は東京五輪開催を目指しワクチン入手と接種加速を強調するが、欧米からは「一大感染イベント」になりかねないとして中止を求める論調が強まっている。

 世界の接種回数は同大などの14日時点の調査で約14億回。日本は13日時点で約560万回にとどまる。

 恐るべき数字である。そんな状況下でも、政府は「東京オリンピック」推進に固執する。IOCバッハ会長の使いっぱしりか……。

「鉄壁のガースー」から「壊れたレコーダー」へ

 国会では、野党から五輪開催が可能かどうかを何度問われても、菅首相は「安心安全な大会が実施できるよう全力を尽くすのが私の責務」という、具体的な対策のまったくない無内容な答弁を際限もなく繰り返すだけ。菅氏の若かりし頃の言葉なら「壊れたテープレコーダーか、溝の飛んだレコード盤」である。

 もはや、国会で議論を行うという姿勢は、菅氏にはカケラも見いだせない。つまり「絆」と同じで、内容の伴わない精神論ばかり。まさに、戦時中の「進め一億火の玉だ」で突っ込んでいった軍部政権と同じだ。

 官房長官時代の答弁で「鉄壁のガースー」などと呼ばれていい気になっていた人物の中身が、実はこんなちゃちな言い逃れ術だけだったことがバレちまった。

 そんな菅首相の言い草を、丸川珠代五輪担当相がまるで口移しのように「オリンピックで絆を取り戻す」などと繰り返す。この首相にしてこの大臣あり……。大臣なんか要らねえよ、と言いたくなる。

 更に追い打ちをかけたのが、高橋洋一内閣参与の「日本はこの程度の『さざ波』。これで五輪中止とかいうと笑笑」という愚劣極まるツイートだ。むろん、立川相互病院の悲痛なメッセージなんか知らないだろうが、さすがに大炎上。それでも言い訳はグズグズで、謝ろうともしない。政府首脳も「個人的意見に政府としてのコメントは差し控える」と、例の「差し控え論法」で逃げの一手。それにしても、こんなのが菅首相のブレーンだというから恐れ入る。上が腐れば下も腐る。

「青木の法則」の信憑性

 さすがに菅内閣の支持率は、報道各社の5月に入ってからの調査では、軒並み過去最低を記録し始めた。主なものを挙げてみようか。

 不支持はそろって10~5ポイントほど上昇、支持はすべてが5~11ポイントほども下がっている。コロナ対応とオリンピック執着の無惨な様子を見れば、この数字はまだ甘いなあ、というのがぼくの感想だが、菅政権は末期症状を呈しているとみていいだろう。

 自民党には「青木の法則」というのがあるそうだ。自民党参院議員会長だった青木幹雄氏が生み出したとされるもので、「内閣支持率と自民党支持率を足した数が50を下回れば、もはやその政権は死に体だ」という。菅政権の支持率下落に伴って、自民党支持率も下落傾向が強まっている。

 朝日新聞を例にとれば 〈内閣支持率(33)+自民党支持率(30)=63〉

 かろうじて「63」であるが、それがいつまで続くやら。

 自民党も「もう限界です」だろう。

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