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哲学や死生観、生命倫理にかかわる審議を国民へ公開することに意味がある - 「賢人論。」第138回(後編)黒川清氏

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新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生して、もうじき1年半。いまだ終息する気配はなく、日本では第4波、第5波の襲来が懸念されている。こうした中、日々の感染防止対策はもちろん重要だが、これまでの対策結果を改めて検証し、そこから得た教訓を次の一手に活かす努力も必要だと思われる。かつて「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」(以下、国会事故調)や臓器移植専門委員会の委員長として辣腕を振るった黒川清氏は、国民の関心事に関する議論・決定をどのように行っていくべきだと考えているのか。過去を振り返りながら語っていただいた。

取材・文/盛田栄一 撮影/丸山剛史

25年前の公衆衛生審議会・臓器移植専門委員会を振り返る

みんなの介護 黒川さんは、国会事故調以前にも、脳死関連の諮問委員会で委員長を務められた経験がありますね。

黒川 はい。1997年「臓器移植法」が施行されましたが、そのために行われた厚生省(現・厚労省)の公衆衛生審議会・臓器移植専門委員会で委員長を務めました。メンバーは移植医、救急医、移植コーディネーター、法律家など、私を含む合計17人。私に白羽の矢が立ったのは、アメリカ時代での経験があったり、移植医とも救急医とも利害関係がなかったりしたからでしょうか。

みんなの介護 詳しく聞かせていただけますか。

黒川 誤解を恐れずに言えば、移植医の人たちは移植手術を速やかに開始したい、という立場。対する救急医の人たちは、でき得る限り患者さんの蘇生と延命措置を続ける立場になります。委員長はどちらにも与しない、公正中立の立場でなければいけません。私はもともと日本でも内科医として腎臓移植に立ち会った経験もあります。また腎臓の専門医であり、人口透析を早期に立ち上げた一人でもありました。米国に移ってからは長く日本の医学界を離れていたので、大学医局とのしがらみもありません。そして、米国でも腎不全や移植患者さんの診療もしていましたので、適任であったのだろうと思います。

ただし、委員長を引き受けるにあたって、厚生省に一つ条件を出しました。それは、委員会のすべての審議をメディアに公開すること。脳死と臓器移植は、哲学や死生観、生命倫理に関わるきわめて重いテーマです。そのため密室でコソコソと話し合うのではなく、審議を広く公開し、多くの国民の皆さんにも自分事として考えてほしいと思ったからです。この手法は、国会事故調のときも踏襲しました。

「脳死」「臓器移植」に関してメディアを巻き込んだ議論を

みんなの介護 臓器移植専門委員会では、具体的にどのような審議が行われたのでしょうか。

黒川 例えば、臓器移植法の法案では、脳死したドナー(臓器移植の提供者)本人の意思が不明な場合、「家族の承諾があれば臓器を取り出すことができる」と書かれていました。しかしそれ以上の細かなシナリオがないわけです。

そこで私は、「何親等以内の家族であれば良いのか」「遠い親戚しかいない、あるいは何年も連絡を取っていない親戚の場合でも判断してもらうのか」など質問を投げかけました。具体的に話を詰めていけば、聞いている人もイメージしやすいし、脳死や臓器移植を身近なこととして考えやすくなると思いました。また、委員長がくだけた話し方をすれば、他の委員もいろいろ発言しやすくなります。委員会の対話はできるだけ活発なほうが良いに決まっています。

みんなの介護 確か、国内初の脳死判定例はニュースになりましたよね。

黒川 はい。1例目は高知県で出ました。そしてそのドナーの臓器は、大阪府、長野県、宮城県、長崎に運ばれました。私は厚生省と「その過程もすべて公開する」と約束を交わしていたので、メディアでも報道されたのだと思います。

ですが、2例目の報道の仕方は新聞社ごとに異なりましたね。脳死判定の2例目が出て、新聞社2社はドナーが出たことをその日の夕刊で報道し、残りの新聞社はレシピエント(臓器移植の受容者)も決まってから翌日の朝刊で報道しました。そこで私は両者の違いについてメディアの人たちに「なぜそうしたのか」と、公開の委員会で発言をしたのです。その後記者の方たちもいろいろ答えていましたが、そうやって言葉を交わすうちに、脳死判定に関するメディアの公表の仕方も整っていったのだと思います。

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