前回の投稿からの続きです。以前の記事は下からどうぞ。
第一回: イコールフッティング:オンラインゲーミング業界の次なる課題
第二回: 大前提:オンライン賭博は違法である
前回の投稿で、それがたとえ海外サービスであっても日本国内からオンライン賭博に参加することは違法であると述べました。しかし、その原則的なルールが実態として通用していないのは皆さんもご存知のとおり。そして、これがオンラインゲーミング業界が次に課題としなければならない「イコールフッティング」の話に繋がるわけです。
繰り返しになりますが、イコールフッティングとは「産業内で市場競争を行なうにあたって、双方が対等の立場で競争できるように周辺環境を同一化すること」です。この原則は、多くのリアルの世界における産業競争では「国境」という物理的な境界線が存在することによって比較的容易に保たれてきたのですが、殊に現在のようにインターネット上でのグローバルな産業競争が激化すると、その原則を維持するのことが難しくなってきています。その象徴が、現在の日本におけるオンラインゲーミング業界の現状であるともいえます。
例えば10~15年ほど昔になりますか、Yahooだのexiteだのniftyだの検索ポータルの全盛期において、各ポータルが例えば「Yahoo!ゲーム」などと銘打って、オンライン上で様々なゲーム機能を競って設置した時代がありました。ポーカーやら大富豪やらなど様々な対人ゲームが、チャットや掲示板などのプレイヤー間のコミュニケーションツールと共に提供され、麻雀の「東風荘」などスマッシュヒットを出しましたね。ある意味、今のソーシャルゲームの原点ともいえる時代でしょう。
実は海外でもこの時期に同様にオンライン上での対人ゲームが流行し、その潮流が現在まで続いた結果が、現在の国際的なポーカーブームと「ポーカースターズ」などに代表される海外版ソーシャルゲーム企業の存在に繋がるわけですが、日本では当時そこまでの盛り上がりは出ませんでした。その理由は簡単で、日本で当時提供されていたゲームは、当然のことながら「現金をかける」という行為が禁止されており、同時に国内事業者と海外事業者の間でのイコールフッティングな競争環境が確立されていなかったからです。プレイヤー達は、日本のゲーム業者の提供する「賭けられない」サービスではなく、すぐ隣で営業をしている海外の「賭けられる」サービスに容易に移行する。
実は日本におけるポーカーコミュニティは、そのような海外事業者の提供するサービスの中で育ち、現在に至っています。一方、そのような環境の中で、国内ソーシャルゲーム産業が育つワケもなく、結果として日本におけるソーシャルゲームの興隆は2004年のGREEの誕生を待つことになるワケです。
ここまでを読むと、皆さんは「その結果、日本独自のソシャゲ産業が生まれたのだから良いではないか」と思うかも知れません。しかし、恐らく事態はそうはいかなくなるかも知れないのが、グローバルな競争でありながらイコールフッティングが成立していない産業の難しさです。
現在、日本の各ソーシャルゲーム事業者は米国をはじめとして世界の各市場に対して「日本型のソーシャルゲーム」をもって進出をし始めており、徐々に成功への道筋が見え始めているところ。一方で、そのような日本企業の進出および、ガチャシステムの収益性の高さを見て、海外企業も同様のビジネスモデルに参入し始めているワケで、これら外資の企業が育ってきた場合には以下のような事が起こります。
例えば、同様にガチャシステムを搭載したA, Bの二つの類似したゲームが存在するとして、Aは日本のルールの元で提供される和製ゲーム、Bはオンライン賭博が合法とされる地域から提供されるオフショアゲームです。Aは当然、日本の法律およびソーシャルゲーム協会のガイドラインに則ったゲーム提供を行なっており、皆様に馴染みのあるゲーム仕様です。一方、Bは日本のルールに拘束をされる事がないため、例えばゲーム内の公式システムとしてRMT(アイテムの現金売買行為)を組み込むことも可能です。
いや、RMTなどと生温い事をいわず、僕ならこうします。一回300円のガチャに対し、レアアイテムは2万円、スペシャルレアは5万円、ウルトラレアは10万円で「デジタルアイテムの現金化」が出来る機能を設けます。また、ゲーム内で争われるランキングでは、一定期間内に最高ポイントを獲得したプレイヤーに100万円、2位に50万円、3位に20万円の賞金を出すようにしましょう。これらはオンライン賭博を合法としている地域に事業の主体を置く企業にとっては、それほど無理なく提供可能なゲーム仕様ですが、日本では刑法上の賭博開帳図利罪にあたるサービスであり、日本をベースに事業を行なっている企業には実現不可能なゲーム仕様です。
さて、このような二つのゲームが、例えば現時点でソーシャルゲーム協会に加盟していない(恐らくするつもりもない)google社の提供するスマフォ用のアプリ提供プラットフォームgoogle playで配信された場合、日本のプレイヤーはどのような消費行動を起こすでしょうか。和製のソーシャルゲーム企業はどのようにこれらオフショアゲームと戦ってゆくのでしょうか…。産業の競争環境の同一化、すなわちイコールフッティングがいかに重要であるかをご理解頂けるものと思います。
次回は「じゃぁ、どうやってイコールフッティングを実現するのよ?」というお話に移ります。
つづく
記事
- 2013年01月09日 12:54