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「質確保」への特別な配慮と覚悟

警察官の採用試験にポリグラフ(うそ発見器)検査を導入することが検討されているという報道がされています(1月8日付け朝日新聞朝刊)。盗撮やわいせつ行為を行った人間が、警察官にならないにするために、この検査で、その手の「資質」をあぶり出そうということのようですが、さすがに警察もここまでしなければならないところまできたか、という印象は持ちます。もっとも、逆に言えば、不祥事予防策として、ここまでやる、ここまでやっているということを示す効果を狙った案とはとれます。

この手段を採用することの妥当性はひとまずおくとして、これを伝えた朝日の報道には、この案の推進派のコメントとして、次のような言葉が掲載されているのに目が止まりました。

「市民の安全を守る警察官の採用には特別な手段が必要」

前記したような、「ここまでやる」という意味への自覚を示した言葉ととれますが、このこと自体は、市民に伝わりやすく、また受け入れやすいものだと思います。同紙別面の解説記事には、「質確保に危機感」という見出しも踊っていますが、「安全を守る」という職責からは、「質確保」に特別な配慮が求められるという自覚ととれます。警察官の不祥事というものは、当然、その危険度においても、また守るべき市民に対する裏切りの度合いとしても、深刻な事態として扱われるべきものということだと思います。

そして、この言葉を見た時に、本来、弁護士という存在にも、当然にこれと同様の覚悟と扱いがあっていいように思えたのでした。弁護士という存在の「質」が確保されないことの影響の大きさ、それがもたらす危険性を考えれば、それこそまず、第一に、それを踏まえた採用あるいは資格維持への特別な手段が、それこそ法曹界側の覚悟としても、また社会的な要請としても求められていいように思うのです。

弁護士の増員と質の低下が取りざたされていることを知った市民からは、「なぜ、狭き門をやめたのか」「なぜ、数を無理矢理増やしたのか」ということを尋ねられます。旧司法試験が「狭き門」であったことは多くの人が知っていますが、この世界の人間が当然のごとく、それを「改革」の対象としてきた理由については、意外なほど理解されていないことに気付かされます。

合格まで極端に時間を要する難関が志望者にとって有り難いものであるわけもなく、また、その現実によって、多くの有為な人材が失われるという主張もありました。しかし、そのことよりも、どうしても、ことこの「狭い」ということに手をつけなければならなくなった最大の理由は、この「改革」の「数」の決定であったことは間違いありません。法曹の量産には、どうしてもこれは避けて通れない。この時、ことさらに「質」ということが並べて強調されたのは、当然に門の拡大が、それを脅かしかねないことが想定されたからということでもあります。

ただ、今にしてみれば、「質」を下げずに、大量に「受かりやすくする」という目標をこの「改革」が描き込んだところから、ボタンの掛け違いが始まったとみることもできます。結果は、数としては以前より多数の弁護士が生み出されたものの、目標は大幅に達成できないばかりか、そもそも志望者にとって「受かりやすい」どころか、法科大学院という新たなプロセスの時間的経済的負担は、司法試験というものを、より「チャレンジしにくい」ものにしてしまいました。量産による経済的な影響は、むしろ既存の弁護士の不祥事の呼び水となり、弁護士という資格の「質」への信頼は急下降しているといっていい状態です。

そもそも「狭き門」かどうかは、別に国民にとってはどちらでもいい、ことだったといってもいいと思います。むしろ、そうした難関を突破し、その後に特別な研修を施された資格者であるところに、弁護士という存在に対して一定の質の確保を信じた人が沢山いたといってもいいものです。「狭き門」を通った弁護士たちの質も問題にされました。もちろんそれも重大な問題であり、放置していいわけはありません。ただ、少なくとも旧司法試験・修習体制が抱えたその問題を、量産を目的とした新体制が解決しようとしている風には見えません。

すべては弁護士の「独占的な環境」のせいであり、要は門の拡大がもたらす競争激化が、問題を解決するという見方もあります。ただ、質の確保を「資格」の責任ではく、競争に期待するということが現実的にどういうことで、それに本当に市民が期待するのかは、もう一度投げかける必要があると思います。

警察官採用でのポリグラフ検査導入に対しても、これによる志望敬遠の傾向への懸念がいわれる一方で、本当は既存警察官にこそ、質確保という意味では適用さるべきではないのか、という意見もありました。

デメリットをフェアに示すことなく強調される弁護士量産のメリットの話よりも、今、市民が本当に聞きたいのは、弁護士の「市民の人権を守る」という職責、そして一つ間違えれば、その「安全」を危険にさらすその特殊で危険な資格者であることから、新人採用と既存弁護士の適格性チェックには、まず第一に特別な配慮が必要という、「資格」の質確保への強い覚悟の言葉のように思えます。

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