- 2021年05月16日 15:26 (配信日時 05月16日 11:15)
「日本式の漫画は韓国・中国に惨敗」大ヒット『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』のカリスマ編集者が挑む"ある試み"
1/2現在TBS系列で放送されヒット中のドラマ「ドラゴン桜」。原作漫画『ドラゴン桜』『ドラゴン桜2』を、作者・三田紀房氏との二人三脚で成功に導いてきたのが、編集者で株式会社コルク代表の佐渡島庸平氏だ。三田作品のほかにも『宇宙兄弟』などの人気作を生みだしたあと講談社を退社し、日本のコンテンツビジネスを世界に通用するものとすべく、クリエイターのエージェンシー「コルク」を起業。最前線を走る佐渡島氏が、日本のコンテンツビジネスの現状と、その先に見据えるビジョンについて語った──。
「日本の漫画」は韓国・中国に惨敗した
漫画アプリ「ピッコマ」などを展開する韓国企業カカオエンターテインメントが、ニューヨーク市場での上場を計画しています。その際の企業評価額として、同社は約2兆円を見込んでいるとのこと。
日本で漫画を手がけている大手出版社と比べると、事業規模が文字通りひとケタ違う。この一事を見るだけでも、日本の漫画は韓国、それから中国とのデジタル化・国際化競争において、完全に後れを取っているのは明らか。
僕は「日本の漫画を世界的なコンテンツにする!」という目標を掲げて2012年に起業したけれど、この10年の結果を見れば自分も含めてやはり、現時点では、韓国・中国のコンテンツ産業に「惨敗」したと言うしかありません。
そこは潔(いさぎよ)く認めて、現在は作戦を練り直して再スタートを切った、というのが現状です。

日曜劇場「ドラゴン桜」第1話より - ©TBS
世界標準は「縦スクロール・オールカラー」のスマホ漫画に
他のエンターテインメントと同じように、今は漫画もスマートフォンで読むのが世界の主流。紙の漫画誌やコミックが根強く残る日本の状況は、例外中の例外と言っていいでしょう。
スマホで読まれている漫画は、フォーマットも従来の日本のコミックとは違っています。スマホの仕様に合った「縦スクロール・オールカラー」の形式が開発されていて、これは「ウェブトゥーン(Webtoon)」と呼ばれている。日本以外ではたいてい世界中の誰もが、そのフォーマットで漫画、いやウェブトゥーンを読んでいます。
ウェブトゥーンと聞いてパッとイメージできない人でも、動画配信サービスNetflix(ネットフリックス)で世界的にヒットしたドラマ「梨泰院クラス」の原作漫画『六本木クラス』が連載されていたと聞けば、「ああ、あれか」となるのではないでしょうか。また最近では、漫画『女神降臨』が全世界累計40億PVを叩き出すなどしています。
まさに世界の漫画コンテンツビジネス界を席巻している存在といえます。
圧倒的な「読みやすさ」と「スピード感」
なぜそんなに「縦スクロール・オールカラー」が受け入れられているのか。単純な話で、圧倒的に読みやすいから。スマホで最も見やすいかたちが、シンプルに追究された末に選ばれたのです。
韓国や中国のコンテンツメーカーはこの「世界標準」のフォーマットに、ケタ外れのスピードで大量に作品を投入しています。肌感覚としては、「これ!」という企画があったら、3カ月後には連載を始めている。
これまでの日本の漫画制作現場だったら、本気でいいものをつくろうと思えば、漫画家と企画を練(ね)り上げていって1~2年後にようやく1話目が上がるかな、というところなのに……。
良しあしや好き嫌いを云々(うんぬん)する以前に、ウェブトゥーンが世界標準なのは事実なのだから、僕らもそのしくみの中で面白いものをつくる努力をしたほうがいい。冷静になればそう思うのはごく自然なことなのに、僕も正直なところ、そこの考えを改めるのに時間がかかってしまった。
日本には長くて厚い漫画文化の蓄積があるのだから、時代が変われど、これまでのやり方をアップデートすれば何とかなる。そんな発想にこだわり過ぎてしまったのが原因です。
コンテンツづくりの「しくみ」で勝負
現在は気持ちを切り替え、漫画をつくるクリエイターが集う「コルクスタジオ」の運営を核に据(す)え、時代に則したコンテンツを安定供給するしくみづくりを進めているところです。
コルクスタジオに属しているクリエイターはすでに20~30人。お互いがコミュニケーションを密にとりながら、最高のものをつくろうとしている。もちろん皆「縦スクロール・オールカラー」で作品を描いています。
これまで日本の漫画コンテンツづくりを担っていたのは出版社ですが、そこでは“メディアのしくみをどうつくるか”に主眼が置かれていました。それに対して僕らは今、“コンテンツづくりのしくみをどう築くか”にフォーカスしています。
新しいしくみを模索するのだから、クリエイターの才能の生かし方も変わってきます。これまでの漫画界は歯を食いしばって努力を重ねてほかと競争し、生き残ったヤツだけが表現活動できるといった、根性論ベースの考え方があったと思う。
これからはもっと「持続可能」なかたちを目指すべきです。仲間内でコーチングし合ったり仕事をシェアしながら、誰も取り残さずものをつくっていく。そのほうがいいものを量産できるようになるはずだし、そうなるようなしくみをつくりたいということです。
「リアル・ドラゴン桜」スタイルで事業を展開
コルクスタジオというしくみをつくって世界に追いつこう! その方向に舵(かじ)を切るに際しては、僕の中で『ドラゴン桜』の影響が大きかったと感じています。
『ドラゴン桜』は自分にとってすごく重要な作品です。僕の人生はいつも『ドラゴン桜』とともにあるなとよく思います。
『ドラゴン桜』には、2003年に連載が始まったパート1と、2018年連載開始のパート2があり、内容やテーマ設定はかなり違っています。「1」では、落ちこぼれ生徒の水野直美と矢島勇介が野心家の弁護士・桜木建二に導かれて東大を目指し、暗記や長時間勉強でスパルタ式に鍛えられていく。
新卒で講談社に入って2年目のとき、僕は三田紀房さんとともに『ドラゴン桜』の連載をスタートさせました。当時の僕はとにかく「ヒット作を出すぞ!」と意気込んでいて、がむしゃらに頑張る以外の方法を知りませんでした。水野・矢島と同じように、たくさんのことをむりやりにでも暗記して、必死に成績アップ・実績獲得を目指していました。
作中で紹介している勉強法やスキルアップ術を仕事の現場で実践して、結果を出そうとしていたわけです。自分自身のやっていることがすでに「リアル・ドラゴン桜」でした。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Melpomenem
起業とつまずき
講談社で10年仕事をしたあと、僕はコルクという会社を立ち上げて社長になります。
起業してしばらくのあいだ、僕は出版社にいたころと同じように仕事をしていました。自分はこんなに努力して頑張ったぞ、みんなも同じように努力して頑張ってね、というスタンス。
会社員時代は自分を律して己に影響を与えればよかったけど、今や社員にもいい影響を与えなければいけないのだから、みずから範(はん)を示さなければ。そんな考えに凝り固まっていたのです。
それでどうしても、スタッフと齟齬(そご)が生まれることがあった。「なんでこっちの思ったように動いてもらえないんだろう……」と。立場がプレーヤーから経営者に変わったのなら、周囲への接し方も変わらないといけなかったのに、僕はそこにしばらく気づけなかったのです。
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