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  • 2021年05月16日 11:33 (配信日時 05月16日 08:25)

ガザのハマスとは何者なのか?イスラエルに敵対する組織の実態 - 佐々木伸 (星槎大学大学院教授)

イスラエル軍とパレスチナ自治区ガザのイスラム原理主義組織ハマスとの交戦は5月15日も続行、パレスチナ側約130人、イスラエル側8人の死者が出た。ハマスは2300発を超えるロケット弾を発射、イスラエル軍は空爆と地上部隊の砲撃を激化させた。中東最強のイスラエル軍に挑むハマスとはどんな組織なのか、その実態をクローズアップした。

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イスラム原理主義国家が目標

ハマスは「イスラム抵抗運動」の意。源流はエジプトのイスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」で、1987年12月にアハメド・ヤシンがガザ地区で創設した。その最終目標は「イスラム原理主義国家」の樹立であり、イラク、シリアを席巻したあの「イスラム国」(IS)と目指すところは基本的には同じだ。

ハマスはイスラエルの生存権を認めていないし、武装闘争の旗も降ろしていない。このため米国はハマスをテロ組織に指定している。パレスチナの現状を規定することとなった93年のオスロ合意により、ヨルダン川西岸と地中海沿いのガザ地区がパレスチナ自治区となった。イスラエルは当初、ガザ地区に駐留していたが、その後撤退。ガザ地区とイスラエルの境界にフェンスをめぐらし遮断した。

ガザ地区は東京都23区の面積の6割程度しかない。イスラエルのガザ隔離政策によって、地中海に面するガザの出入り口はイスラエル側の検問所とエジプト側の検問所の2カ所だけとなった。海上もイスラエル艦船が常時監視しているため、海からのガザへの出入りは不可能になった。ガザが「天井のない巨大な監獄」と言われる所以である。

ハマスはこうした閉塞状態の中、ガザの約200万人のパレスチナ人の指導的な立場を確立していった。2006年に行われたパレスチナ評議会選挙(議会選挙)で、ハマスはパレスチナ自治政府を牛耳る主流派の政党ファタハに圧勝、過半数を超える74議席を獲得した。ファタハは45議席にとどまった。

翌07年にガザでハマスとファタハの内戦がぼっ発したが、ハマスの勝利に終わり、それ以降ハマスはガザの実効支配を確立した。ハマスは貧困層などへの教育、医療、福祉事業といった社会活動も進め、パレスチナ人の人気を高めていった。アラブ諸国の中では、カタールがハマスを支援している。

こうしたハマスの勢力拡大を懸念したイスラエルはハマス幹部の暗殺や軍事拠点への空爆を常時実施、09年1月に軍をガザに地上侵攻させて衝突した。イスラエル軍は2014年7月にも地上侵攻。1カ月に及ぶ戦闘で、パレスチナ人2250人が死亡、イスラエル側も兵士ら70人が犠牲になった。

ハマスの現在の指導者はカタールに亡命中のイスマイル・ハニヤ。ハマスは政治部門と軍事部門「カッサム旅団」に分かれており、同旅団の司令官はモハメド・デイフ。戦闘員は約3万人。ハマスは今回のイスラエルとの交戦を、パレスチナ人社会の中でその存在を誇示できるとして歓迎しているとの見方も強い。

ロケット3万発?を貯蔵

だが、長期戦になれば、圧倒的なイスラエルの軍事力の前につぶされてしまいかねない。このためハマスはすでにロケット弾の威力を十分にイスラエル側に示し、またパレスチナ人の支持をより拡大したとして、早期に収拾したい思惑と見られている。

イスラエルのネタニヤフ首相がハマスからの停戦要求を拒否したことを明らかにし、またハマスのスポークスマンが条件付きながら停戦を提案したことなどからハマス側が停戦を望んでいるのは確かだろう。しかし、イスラエルはハマスのロケット弾の射程距離が延び、正確性を格段に増していることから、この機会にロケット能力を破壊したいと考えているようだ。

ハマスが保有するロケット弾は1万発とも3万発とも言われるが、実態は不明。ほとんどが射程10キロ~20キロの単距離ロケットと見られている。だが、ガザ地区から約80キロのテルアビブやエルサレムに着弾したロケット弾もあり、イスラエル側を驚かせた。米紙によると、ハマスのスポークスマンはテルアビブに撃ち込んだ新型ロケット弾を「アイシュ250」と呼び、射程距離が240キロあるとしている。

米ワシントン・ポストなどによると、ロケットはかつてエジプトとガザをつなぐ秘密トンネルを通してイランのファジル・ロケットやシリアのM302などが密輸された。現在は自前の兵器工場で生産しているとされる。ノウハウなどはイランやレバノンの武装組織ヒズボラが支援していると見られている。

“メトロ”と呼ばれる地下網

ロケット弾と並ぶハマスのもう1つの武器はガザの地下に張り巡らした“メトロ”(地下鉄)と呼ばれる地下網だ。ハマスの指導者ハニヤは数年前、ガザの地下トンネルはベトナム戦争時にベトコンが建設したものより2倍ある、と豪語していたという。

ハマスは過去、イスラエル領内にまでトンネルを掘り進め、兵士や市民を誘拐したことがある。イスラエルはこれまでに、多くのトンネルを破壊し、ガザの境界にはトンネルを掘り進めることができないよう、地中に防護壁まで建設した。ハマスは2014年の戦争では、トンネルを使って戦闘員を神出鬼没に出現させ、イスラエル軍を翻弄した。

ハマスは現在、ガザ北部の地下トンネルからロケット弾を発射しており、トンネル網はイスラエルの最優先攻撃目標の1つ。イスラエルは14日、いったんは地上部隊のガザ侵攻を発表しながら、後にまだ侵攻していないと修正した。イスラエルのメディアではこの軍の発表がハマスをだます策略だったのではないかとの見方も浮上している。

その狙いは、ハマス戦闘員が侵攻という発表にあわてて地下に潜りこむのをドローンなどで監視し、トンネルの入り口を突き止めるためだった、というもの。事実かどうかは不明だが、ネタニヤフ首相は「ハマスはトンネルに隠れることができると思ったろうが、隠れることはできなかった」と意味深長な発言をしている。

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