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有名私立中学への受験合格後に不登校、山田ルイ53世に起きたこと

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ひきこもりもヒマじゃない

――不登校になってからは、どんな生活をすごしていましたか?

 誤解されがちですが、ひきこもりって精神的には忙しい。ボーッとヒマを持て余しているみたいに思われますが、罪悪感や焦燥感、劣等感などなどに苛まれてヘトヘトに疲れてしまう。窓の隙間から、学校のチャイムとか道行く人々の話声が部屋のなかに侵入してくると、それに敏感に反応してしまい「それに比べて俺は……」となってしんどい。あと僕の場合、「人生が余ってしまったな……」という虚無感にも悩まされました。

 それまで学校で評価されることがすべてだったのに、その学校へ行ってないわけですから。10代にしてもうやることがないという。もともと趣味も何もない人間ですから、学校がなくなるとやっぱりキツかった。

――転機になったのはいつだったのでしょうか?

 最初の一歩は大学受験でした。20歳手前くらいのとき、たまたまテレビで成人式のニュースを観て「このままでは同世代に置いていかれる……」と焦って。とりあえず何かやらねばと思い立ち、大学受験を。あのとき自分のことを過去も将来も含めてある意味、諦めることができた。「とりあえず、とりあえずでいいから生きよう」、と。

――勉強をする際のルーティンはどうしたんですか?

 これはご理解いただけないと思うのですが、30個ぐらいあったルーティンを「ギューッと握りこぶしに封じ込めて、フッと息をかける」という一つのルーティンに集約することに成功したんです(笑)。何年か前に精神医学の専門家と話す機会があったのですが、「山田さん、それはすごいことですよ!」と褒められましたね(笑)。

 ここでも「とりあえず」という考えが功を奏した気がします。居酒屋に入ったらとりあえずビールを頼むように、人生も完璧じゃないけど、とりあえずただ生きていいと考えを変えたんです。まあなんとか、大学は合格できました。

――山田さんは「ひきこもっていた時間はムダだった」と発言しています。そのお考えは、今の「諦めた経験」ともつながっているのでしょうか。

 ひきこもっていた時間がムダだったというのは、「ひきこもった経験が今の自分の役に立っている」「そのころ、出会った趣味で人生が変わった」などなど、そういう意見を否定するものではありません。もっと友だちと遊んだり勉強したりしたほうがよかったなと、「僕は」後悔しているというだけの話。結局、人それぞれです。

 ただ「苦しんだ過去を糧にしよう!」みたいなメッセージが溢れすぎている気はしています。「ひきこもった時間はムダだった」と言うと、かなりの確率で、「いや、でもひきこもりの期間があったからこそ、今の山田さんが……」と返ってくるのですが、ちょっと怖い。

 それはもう、あなたが好きな味付けであって、こちらがお出しした料理ではないというか。ムダを許さない、意味がないと認めないというか。本来キラキラする義務なんてわれわれにはないわけですから。「がんばろう」「キラキラと素敵に生きていこう」「週末はボルダリングを!」ばっかりだとしんどい(笑)。

 僕自身もかつてはずいぶん過去に囚われてきました。ひきこもっていたころ、みんなが外でワイワイ遊んでいる。自分は部屋の奥でひとり息を殺して「みじめだな」と感じていた。あのみじめさから目をそらしたら「負けだ」と。

 今思えば謎のスパルタ思考でしたね(笑)。問題から目を背けてはいけないという考え方自体、それ以外の選択肢から目を背けている、非常にコスパが悪い発想かもしれないなと思ったんです。周囲には「問題から逃げた」と映ろうが、それがはたして前に進んだのか後ろに下がったのか右か左か、結局は自分で決めることですから。

なりたいよりなれた自分で

――山田さんが諦めることで見つけられた選択肢はなんだったのでしょうか?

 芸人になってからの話で言うと、やっぱりシルクハットを被って貴族漫才を始めたとき(笑)。昔はスーツをビシッと着て、センターマイク1本でのしゃべくり漫才だけが正解だと考えていました。まあ、今でも憧れるのはそっちですが(笑)。

 まあでも、シルクハットとワイングラスがなければ、そのあとの一発もないわけですから。なりたい自分より「なれた自分」でやっていく。これも「自分を諦め」、「とりあえず」とあがいてきたおかげかもしれませんね。

――最後になりますが、山田さんが感じていたコンプレックスは解消できましたか?

 いやいや、コンプレックスを持っていることは大前提ですから(笑)。まあ、いろいろと抱えていた恨みや悔しさは芸人として売れたときにある程度解消されたかもしれませんが。

 でも正直、自分の人生全体で考えると心残りはまだまだありますし、取り返しがつかないこともいっぱいあります。それとともに生きているという感じです。最近よく思うのは、肩の荷を降ろしすぎるとバランスが悪いなと。ある程度の重荷を背負ったほうが歩きやすいということもある。  

 うちの子は、この春で上が小3で下が2歳になりました。ひきこもっていたときに感じていた「人生が余った」という感覚は、今はないですね。なんとか子どもが20歳になるまでは飯を食わせないとダメなので。あとはもう棺桶に手が届くまで生きるだけです。なんかすいません(笑)。

――ありがとうございました。(聞き手・石井志昂)

【プロフィール】山田ルイ53世
お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。兵庫県出身。地元の名門・六甲学院中学校に進学するも、中2でひきこもりになり中退。大検(現高認)を経て愛媛大学に入学するも、その後中退し、芸人の道へ。「新潮45」で連載した「一発屋芸人列伝」が、「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞し話題となる。

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