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  • 2021年05月14日 15:35 (配信日時 05月14日 06:00)

高所得者への所得税拡大は財政健全化につながらない - 原田 泰 (名古屋商科大学ビジネススクール教授)

 新型コロナウイルス感染拡大による歳出拡大への対策として、高所得者に増税すれば十分な税収を上げられると考える人がいるかもしれない。しかし、これは大きな誤解である。お金持ちの数は少ないし、お金持ちの所得すべての国民全体所得に占める比率も小さいからだ。特に日本はそうである。

 これは、一律10万円のようなバラマキを止めれば少ない予算で効果的な支援ができるという誤解にもつながる。お金持ちは少ないので、お金持ちに配らなければ巨額の予算が節約できると考えるのは誤りである(「経済の常識 VS 政策の非常識 所得制限は机上の空論、緊急時は一律給付が最善策」)。

 本稿では、税金の観点からお金持ちは少ないということを見た上で、そうした層への所得税の増税は税収にどれだけ効果があるのかを考えてみよう。税金には、通常の所得税以外にも、キャピタルゲイン課税、金融資産や不動産に対する財産税、相続税といったものもあるが、ここでは考えないとする。

(takasuu/gettyimages)

所得と人数と税収の関係

 図1は、給与の所得階級ごとの人数と総所得(人数×所得)を示したものである。1500万円以上の給与所得者は、71万人しかいない。その人々の所得を足し合わせても16.7兆円にしかならない。これは、追加的に10%の所得税を課しても1.7兆円の増収にしかならないことを意味する。これらの人々は、すでに33%から45%の税金を払っているので、追加的な10%の課税は、地方税の10%を合わせて限界税率を53%から65%にするということである。


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 一方、国民すべての所得を合わせれば229兆円となる。これに5%の追加的課税であっても11.4兆円の増収となる。所得税で大きな税収を上げるには、多くの人々にそれなりの率で課税しなければならないことになる。

 ただし、1000万円から1500万円の人はかなりいて、その総所得も21.8兆円ある。これは図1で1500万円以下(1000万~1500万円の収入)のところが膨らんでいることで直感的にも理解できるだろう。これらの人々とは、大企業の管理職ではあるが、役員ではない人ということになるだろう。ここを狙い撃ちすれば税収上は効果的だろう。実際、近年の給与所得控除の減額などは、この層からの税収をかなり高めたのではないだろうか。

本当のお金持ちが何人いるかわかるデータがない

 これまでの議論は給与所得者に対してのものであった。これに対して、本当のお金持ちは給与ではなく配当などの形で収入を得ている、あるいは、成功した自営業者であるという指摘があるだろう。その通りだが、日本ではどれだけの所得の人がそれぞれ何人いるのか分かる統計は存在しない。日本人は、格差について議論するのが大好きだが、その基本データは実は存在しない。

 格差についての基本データは、厚生労働省「国民生活基礎調査」だが、そこには実際の人数も世帯数も存在しない。あるのはそれぞれの所得の家計の比率であって、人数と世帯数は別途推計しなければならない。

 ただ、自営業者についてはヒントがある。「国民生活基礎調査」と「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」を組み合わせると、日本の全世帯数5880万世帯のうち、575万世帯が自営業世帯であり、うち1500万円以上の所得のある自営業世帯は35.3万世帯あると分かる(世帯数については図2の注を参照)。しかし、これは世帯であるから夫婦や子供も働いていれば一人あたりでは少なくなる。一方、1500万以上の給与所得者71万人は一人で稼いでいる人々である。

 配当収入や副業収入も考えての所得について、一人当たりのデータはないが、前述の「国民生活基礎調査」と「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」を組み合わせると、世帯ごとの所得が分かる。この結果は、図2である。

 図2を見ると、図1に比べて、お金持ちがかなり多いように見える。1500万以上をお金持ちとすると、その総所得は40兆円になる。これなら金持ちへの所得税増税でかなりの税収が得られるのではないかと一瞬思えるが、そうではない。理由は自営業者について述べたことと同じで、所得の高い世帯とはより多くの人が働いている世帯であるからだ。


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 所得階級を一番低い第Ⅰ分位から第Ⅴ分位に分けた場合、第Ⅰ分位では有業者のいない世帯が51%となる。所得の低い家計には年金家計が多く含まれている。一方、所得の高い第Ⅴ分位の有業者は、2人以上の有業者のいる家計が75%となる。

 2人以上有業者のいる家計を他の所得階級でも見てみると、第Ⅰ分位では11%、第Ⅱ分位では18%、第Ⅲ分位では36%、第Ⅳ分位では58%となる(「国民生活基礎調査」世帯数,世帯人員・有業人員・所得五分位階級別)。つまり、「国民生活基礎調査」で見る豊かな世帯とは、ダブルインカムや家族ぐるみで働いている世帯ということになる。

 なお、各分位の世帯の所得は、おおよそであるが、第Ⅰ分位は200万円未満、第Ⅱ分位は200万円以上350万円未満、第Ⅲ分位は350万円以上550万円未満、Ⅳ分位は550万円以上850万円未満、第Ⅴ分位は850万円以上となる。

 日本の所得税は基本的に個人課税である。これを家計所得の合計に累進課税することにしたら、日本人はますます結婚しなくなってしまい、子どもも生まれなくなってしまうだろう。結婚せず家計を同一にしなければ累進課税を免れるので、夫婦別姓問題は解決されるが、この方法によって別姓問題を解決しようという人はいないだろう。現行の個人課税は正しい方法と考えるしかない。

 すると、最初の結論に戻る。つまり、お金持ちは少ないので、お金持ちに所得税を増税すれば巨額の税収が得られると思うのは間違いである。税収が必要であれば、より多くの人に課税するしかない。あるいは、財政赤字をなくすためにつまらない政府支出を止めることだ(「経済の常識 VS 政策の非常識 増加する財政赤字 歳出の議論もセットで行え」)。

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