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性的マイノリティへのいじめをなくすために ―― 同性愛者の目線から見える日本社会の課題 明智カイト

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■社会を変えていくために

――では具体的にどんな活動を行っていけば、社会を変えていくことができるのでしょう?

社会が変わるためには、全員が性的マイノリティに対する適切な知識をもって、ホモフォビアをなくしていくことが必要です。いじめを防ぐために社会からホモフォビアをなくし、いじめが起きたときには周りの大人たちが正しい心のケアをしていくという両輪で対応していかなければいけません。

実際、現場の声をきいてみると、「性的マイノリティで悩んでいる人は多く相談に来るが、知識がなく当事者でもないから対処の方法がわからない」という方が多くいます。そういった人たちが基礎知識を習得できるように、わたしたちは支援活動をしている人や学校の先生、電話相談員、カウンセラーの方々などを対象とした勉強会や講習会、シンポジウムを行っています。

また、行政を変えていくということです。性的マイノリティに関する公的支援や法整備を整えていくことで、自然と国民の意識も変わってきます。

わたしたちは、2011年から自殺総合対策大綱の改正にむけて性的マイノリティの視点を包括した新しい大綱の策定を要望してきました。自殺総合対策大綱の改正は、専門家の方の意見を集め、それを踏まえた上で自殺対策の担当政務三役と各省庁が改正案をまとめ、閣議決定をするという流れで行われます。わたしたちは専門家、政務三役、官僚の方にそれぞれ要望書を提出するという活動を行ってきました。

官僚のなかには性的マイノリティへの抵抗を抱いている人も多いので、性的マイノリティと自殺リスクに関する統計をとっている日高庸晴先生にもご協力いただいて、「自殺リスクが高いので、国として対策を行う必要がある」という事実を数字的に提示しました。

その結果として、2012年8月28日に初めて、自殺総合対策大綱に「性的マイノリティ」の文言が明記されました。これまで「性同一性障害者」の存在は明記しても、「同性愛者」や「両性愛者」などの存在を明記することを頑なに拒んできた政府が、それらを包括する「性的マイノリティ」という文言を明記したのはきわめて画期的なことです。また今回の明記によって、他の法律にも明記される可能性が出てきたので、そちらにも積極的にアプローチしていきたいと考えています。

●日高庸晴氏と荻上チキとの対談記事はこちら⇒「セクシュアルマイノリティと自殺リスク」(http://synodos.livedoor.biz/archives/1924417.html

―― 官僚の抵抗というのは、長らく与党であった自民党の保守的な考えの影響を受けているということなのでしょうか?

その影響はあると思います。実際のところ、大部分の国会議員はどうでもいいと思っているんですが、頑強に「性的マイノリティは家族を壊す」とか「同性愛者を増やすな」と主張している国会議員がごく少数います。そういう人が他の国会議員や官僚に「協力するな」とか「余計なことするな」と言っている。権力のある国会議員からの圧力は無視できないですから、官僚は板挟みになってしまっているという現状があります。

また、昔から日本には「右翼は反対で、左翼は賛成」というジェンダーに関するイデオロギー対立があります。そういった政治論争に巻き込まれてしまうと問題解決するのが困難になってしまう危険性がありますので、注意しなければいけません。アメリカでは、同性婚の是非が昔から政治家のあいだでのセールスポイントとなっていて、政治の道具として利用されてしまっています。しかし、わたしたちは問題解決をしたいので、政治の道具になってしまうのは避けたい。たとえ嫌がられたとしても、自民党の議員さんたちにも話を聞いてもらえるように根気強く努力していきたいと思います。

■LGBTコミュニティーと外部をリンクする

―― 今までのLGBT団体の活動では、なかなか国会に声が届くことがなかった。今回のキャンペーンはなぜ成功できたんでしょうか?

従来のLGBTコミュニティーでは、パレードや当事者の選挙立候補の応援といった楽しい話題づくりを重視していました。それがコミュニティーのなかに発信されて、盛り上がっていくわけですが、メディアや行政といった外部にはまったく伝わっていないという状況だったんです。

当たり前ですが、外の世界とリンクしていなければ取り上げようがありませんよね。また、、自助で生活できているLGBTの方たちが中心となっていた。彼らはLGBTの活動を楽しむ余裕がある人たちです。しかし、わたしたちは互助や公助が必要な人たち、つまりいじめや自殺など生死に関わるような問題に焦点を当てて呼びかけを行ってきました。その結果として、意外にもマスコミの方がわたしたちの活動に注目し、連続的に取材をしてくださったことで、より外の世界とリンクすることができたと思います。

また、政治家や行政とうまく連携していくということも重要です。従来のLGBTのロビー活動というのは、当事者たちが支持している政党や、仲良くしている議員のみに要望していくという縦割りのロビー活動のみでした。しかし、わたしたちはすべての政党に対して同じ内容の要望書を提出し、横並びのロビー活動を行っています。これによって、各政党間の足並みを揃えることができ、わたしたちの要望が実現されやすくなりました。

2009年に「超党派勉強会でっち上げ事件」というものがありました。これは、ある党がLGBTへの活動実績をつくるために、実際はその党単独で行っていた勉強会を、まるで超党派で行っているかのように見せかけていたというものでした。わたしが各政党の国会議員の方たちにご挨拶へ伺っていたときに「あの政党でやっている勉強会は一体何なの?」と聞かれたことによって露見したのですが、この事件のせいで各政党のあいだに不協和音が生じてしまった。これは当事者が政治家を上手くコントロールできていないことから生じる問題です。一つひとつの問題を当事者が主体となってコントロールしていくというのはとても負担が大きいので、対応策を考えていかなければいけないと思っています。

わたしたちがやりたいことは、当事者、メディア、専門家が連携して、日本政府にどう働きかけていくか、どう動かしていくか考えていくということです。自殺総合対策大綱の改正では連携が上手くいった例だと思います。当事者自身が、いろんな人に万遍なく働きかけをするということを、これからも重視していかなければならないと考えています。

■国だけでなく各自治体へ

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

通常、市民活動というものは、地域で啓蒙啓発を行って区議会・市議会議員へ、そこから都議会・県議会議員へ、最後に国会議員、というように地域から活動が拡大していくものです。

しかし、わたしたちの場合は国に働きかけるところから始めてしまったので、これからは地域に根差した活動を行う必要があると思っています。大きな方針を決めるのは国ですが、具体的にどうしていくかというのは自治体が決めることです。現在、東京都や世田谷区で行っている活動を足掛かりとして、他の自治体にも広げていきたいと考えています。

(12月8日渋谷にて)

いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーンのブログはこちら⇒http://ameblo.jp/respectwhiteribbon/
ストップいじめ!ナビのサイトはこちら⇒http://stopijime.jp/
明智カイト(あけち・かいと)
「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」共同代表。「ストップいじめプロジェクトチーム」メンバー。市民活動で「子ども」「女性」「マイノリティ」の権利擁護や政策提言を行う。自身も中学生の時にいじめを受け、自殺未遂をした経験から、性的マイノリティの自殺防止活動にも取り組んでいる。

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