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私がオリンピックを開催するためには、緊急事態宣言を7月上旬まで延長すべきと思う理由

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元経産省官僚の宇佐美典也さんに「私が○○を××な理由」を、参考になる書籍を紹介しながら綴ってもらう連載。第9回のテーマは、7月に五輪開催を控える日本のコロナ対策について。五輪を開催できるかという命題は、「五輪開催までにコロナ禍収束に向けたロードマップを描けるか」という問題と同義だとして、菅首相が言及したワクチン接種のスケジュールを検証します。


オリンピック開催反対運動が熱を増してきている。

英国株に加えて、インド株や南アフリカ株といった感染力、重症化率共に増した変異株が猛威を奮い始めており、ましてや実際にインドが把握できている限りで1日あたり40万人超の感染、4000人を上回る死亡者がでるという、悲惨な状況に陥っている以上、国際的なイベントを開くことに対する不安が増すことは理解できる。

こうした変異株の感染の広がりを防止するにはごく初期で感染を鎮めなければ手遅れになるため、現在緊急事態宣言の発令がなされたところであり、他方で水際措置も(依然として不十分であるが)強化されたところである。

他方で前向きな動きとしては、国内治験を終えて遅ればせながら我が国でもワクチンの接種が本格化しており、また、オリンピック選手団に関してもIOCからファイザー社などのワクチンが提供されることになる見込みとなっている。

オリンピック開催のためにすべき3つのこと

AP

とはいえオリンピックに伴い我が国に来るのは選手団に限らず、むしろ関係者の方が多いのだから、水際措置が万全でなければ世界中から変異株が日本に集まって感染が拡大するような事態が起きかねないことは間違いない。立憲民主党の枝野氏の言うところの「世界の変異株の展示会」といったところであろうか。

したがってオリンピックを開催するならば最低限、
①オリンピックまでに国内での変異株の広がりを収束させる
②水際措置を強化してさらなる変異株の流入を止める
③国内でのワクチンの大規模接種
という3つのことをこなす必要がある。

具体的には①に関しては緊急事態宣言の運用、②に関しては感染拡大国の原則入国拒否および入国者の隔離の徹底、③に関してはワクチン輸入のスケジュールと接種体制の問題、ということになる。これらは必ずしもオリンピック開催のために特別に必要なことというわけではなく、コロナ禍を止めるには遅かれ早かれ必要になることである。

したがって「オリンピックを開催できるかどうか?」という話は、「我が国はオリンピック開催までにコロナ禍の収束に向けたロードマップをかけるか?」という問題になる。

経済学者「7月第1週まで宣言を延長した方が経済損失少ない」

そうした観点で最近の政府の動きを見ると、緊急事態宣言を5月末まで延長したこと、また菅首相が5月8日に東大の仲田泰祐准教授と面会したことは注目すべき動きなように思う。

仲田准教授の主張は「早期に東京の緊急事態宣言を解除するよりも7月第1週まで緊急事態宣言を延長して感染者が200人を下回る程度まで感染を鎮めた方が経済損失が少ない」という極めて真っ当なものなので、菅首相はこれまでの「中途半端な感染症対策と経済の両立」という姿勢を改めつつあるのかもしれない。「いや、気づくのおせえよ」と言いたいところだが、気づかないよりマシなのでここは素直に喜んでおきたい。

水際措置については上陸拒否国を増やし、インドなどからの入国者に対してようやく6日間の隔離が義務付けられたところであるが、さらなる検疫強化が必須なのは言うまでもないだろう。

共同通信社

最後のワクチン接種に関してだが、菅首相は「7月末を念頭に希望する全ての高齢者に2回の接種を終わらせるよう、1日100万回の接種を目標とする」という方針を出している。これはまぁ菅首相らしく直感的で、特に前段の「希望する全ての高齢者に2回打ち終える」計算上極めて達成できないような馬鹿げた目標なのだが、それでもまぁ後段の1日100万回接種というのは、現状が30万回弱/日程度なので強ちできない目標ではないのだろう。

なおアメリカは薬剤師が打ち手になったこともあり1週間平均で300万回/日程度に達しているので比較の観点でも、十分達成可能な水準かと思う。この目標のインパクトについて適当にエクセルを弄りながら考えてみたいと思う。

ワクチン接種目標の現実味 五輪スケジュールと照らし合わせると…

筆者作成

100万回/日を目指すといっても当然すぐに目標を達成するのが難しいことは想像に難くないので

「5/9から本格的にワクチン接種が開始して(30000回/日)でスタートして、線形に接種回数を増やしていって、オリンピック開催(7/23)までに100万回/日を達成して、同じペースでパラリンピック閉会(9/5)まで打ち続ける」

という前提で簡単に計算して2軸のグラフ化したのが上図である。我ながら前提を極めて単純にしたいい加減な試算なのだが、それでも今後の見通しを立てる参考にはなるだろう。なお文句があるという人に対しては「この時点で読むのをやめろ。文句があるなら自分で計算しろ」とあらかじめ言っておく。さてこのペースでワクチンを打った場合、重要な政治スケジュールに合わせると累積接種回数は

・都議選開票日(7/4)までに2235万回
・オリンピック開会(7/23)までに3914万回
・オリンピック閉会(8/8)までに5514万回
・パラリンピック開会(8/24)まで7114万回
・パラリンピック閉会(9/5)までに8314万回

という結果になる。最終的に日本人の8割がワクチンを接種すると考えると、必要なワクチン接種回数は1.92億回なので、オリパラ終了までに接種回数としては全体の40%程度の進捗ということになる。ここまでくると出口が見え始めているだろうが、ワクチンは二回打たなければ万全の効果は発揮できないので、二回打ち終わった人の比率というものを考えなければいけなくなる。ここで単純化のために一回目のワクチン接種が終わってから30日後に二回目の接種を行うと仮定すると、それぞれの時期の日時の一回目と二回目の接種比率は以下の図のようなイメージになる。

筆者作成

当然初めは一回目の接種者しかいないわけだが、二回目接種が始まると相応の能力がそちらに割り当てられるので、6月半ばから一回目接種の枠は40万回弱で頭打ちになる。この前提で計算すると、7月末で一回目の接種が終わっているのが3130万人、二回目の接種が終わっている人数が1538万人程度ということになる。

日本の高齢者の人数は3600万人強なので菅首相の「希望する全ての高齢者に2回打ち終える」という目標はかなりキツいということが掛け算に毛が生えたこの程度の計算でもわかる。温室効果ガス46%減云々もだが、菅首相は少しは計算してからものを言って欲しい。達成困難な約束をして仮にできなければ国際社会に対しても、国民に対しても信頼を失うだけだ。「一生懸命やってます」という「やってる感」だけでいつまでも許されるわけではない。

一事が万事こんな具合で日本のコロナ対策というのは戦略やマクロ的な計算がなく、菅首相はじめ政府与党の政治家の直感で決められており、これが日本のコロナ対策が機能していない理由だと思う。

最低でも7月上旬まで緊急事態宣言を延長すべき

Getty Images

なぜこのようなことになっているかというと、日本の感染症対策は「安全保障政策」としての位置付けがなく、方針を決める専門家会議が政府からの独立性を担保しておらず、政治の影響を強く受けすぎることにあるように思うのだが、だからと言って独立性をもった感染症対策機関であるCDC(疾病対策予防センター)をもったアメリカの対策がうまくいっているというわけでもないので、その辺りの総括というものを来年あたりして欲しいところである。

なおこの辺りの議論は従来から「国防としての感染症」を強く主張している村中璃子先生の議論などを参照されたい。パンデミック対策に安全保障的な位置付けがなく、一分科会が感染症対策の司令塔になっている我が国の体制は明らかに異様である。

話が逸れたが計算上はパラリンピック閉会(9/5)までに、一回目接種完了が4839万人、二回接種完了が3475万人という計算になるので、高齢者の二回目接種完了という目標の達成はこの時期の前後になると思われる。あくまで順調にいけば、の話だが。なお非高齢者への接種が本格化するのは7月中旬から8月上旬にかけてというところだろうか。

そう考えると私としては

・水際措置を強化して変異株の流入を抑える
・7月上旬まで都市部を中心に緊急事態宣言を延長させて、変異株の感染拡大を抑える
・7月中旬に緊急事態宣言から蔓延防止措置に切り替えて「ワクチン打って家でゆっくりオリンピック、パラリンピック見ましょう」というようなキャンペーンをする
・9月5日のパラリンピック閉会後にワクチン接種状況を見ながら順次各地域の蔓延防止措置を解除していく

という手順が適切なように思う。オリンピックを延期すべきという意見もわからないでもないが、それは即ちこの自粛経済がさらに1年長引くということを意味することになるので、私としてはむしろオリンピック・パラリンピック観戦を家での娯楽としつつこの自粛経済に蹴りをつけるようロードマップを引いて欲しいと思うところである。

だから菅首相に最後に不躾ながら、一言言いたい。
「頼むから最低でも7月上旬まで緊急事態宣言延長してくれ。あと大きな決断はちゃんと計算してからしてくれ」
多少イラついてるので言葉が荒くなったが、ではでは今回はこの辺で。

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