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  • WEDGE Infinity
  • 2021年05月11日 10:36 (配信日時 05月11日 06:00)

なぜトランプ支持者はワクチンをこばむのか? - 海野素央 (明治大学教授 心理学博士)

今回のテーマは、「ワクチン接種とトランプ支持者」です。トランプ支持者は、新型コロナウイルスのワクチン接種に対して拒否反応を示しています。実際、どの程度の支持者が接種を受けないと回答しているのでしょうか。また、その原因はどこにあるのでしょうか。ワクチン接種をすでに完了した共和党支持者は、接種を拒んでいるトランプ支持者をどのように捉えているのでしょうか。

本稿では、世論調査結果及びヒアリング調査に基づいて上記の質問に答えます。

(Drazen Zigic/gettyimages)

ワクチン接種を拒むトランプ支持者

米公共ラジオ(NPR)、公共テレビ(PBS)及びマリスト大学(東部ニューヨーク州)の共同世論調査(21年4月19~21日実施)によれば、ドランプ支持者の50%が「接種しない」と回答しました。支持者の中で「すでに接種した」と答えたのは36%、一方「これから接種する」は11%でした。

新型コロナウイルス感染拡大直前の20年2月まで筆者はトランプ集会に参加していましたが、そこでガラガラ蛇の絵と「俺を踏むな」のメッセージが印刷された黄色の旗を持ったトランプ支持者を見かけました。「自由を踏みにじると噛みつくぞ」というメッセージです。

彼らは10年米中間選挙で旋風を起こした保守系の市民運動「ティー・パーティー(茶会)」のメンバーです。21年1月6日に発生した米連邦議会議事堂乱入事件において、ティー・パーティーの活動家が極右グループと一緒に連邦議会を占拠しました。

10年中間選挙で筆者は、東部ニューハンプシャー州在住のティー・パーティーの活動家を密着取材しました。この活動家の自宅に一泊し、他の活動家にも接触して現地ヒアリング調査を実施しました。

取材をした活動家は、米国の文化的価値観である「個人の自由」の正真正銘の信奉者でした。文化的価値観とは、ある文化において「優先順位の高い価値観」ないし「支配的な価値観」を指します。

当時、ティー・パーティーの活動家はオバマ政権から医療保険加入を強要されることに対して抵抗を示していました。彼らがバイデン政権主導のワクチン接種にも拒否反応を示すのは当然です。ワクチン接種をするか否かは、個人の自由だからです。

トランプ支持者を批判する共和党支持者

保守系の米FOXニュースが行った世論調査(21年4月18~21日実施)では、全体で22%が「ワクチン接種をする予定はない」と回答しました。現状のままでは米国民の約2割がワクチン接種を受けない可能性があります。集団免疫を作り、今年の7月4日の独立記念日までに「ウイルスからの独立」を目指しているバイデン政権にとって、ワクチン接種に否定的な有権者は阻害要因となることは確かです。

同調査によれば、ワクチン接種をしない理由のベスト5は、「ワクチン開発が早急であった。ワクチン接種を受ける前により多くのデータが欲しい」(28%)、「ワクチンの有効性を信用していない」(16%)、「新型コロナウイルス感染を心配していない」(10%)、「副作用」(9%)、「連邦政府を信用していない」(9%)でした。米国民の中に、ワクチンに対する強い懐疑心があることがはっきり読み取れます。特に、ティー・パーティーの活動家は連邦政府を信用していません。

そこで、西部コロラド州コロラドスプリングス在住のIT企業のCEO(最高経営責任者)で、共和党保守派の白人男性A氏(64)に、ワクチン接種とトランプ支持者に関してインタビューを行いました。A氏は共和党支持者ですが、20年米大統領選挙でバイデン氏に投票した「隠れバイデン」です。

「65歳以上の高齢者が優先的にワクチンを接種できます。妻は65歳ですが私は64歳です。当日、妻が64歳の私を一緒に連れて行ってもいいのか接種会場の担当者に尋ねると、ワクチンが余っているのでOKだと言ってくれました。妻のお陰で私も接種できました。すでに接種を2回受けました」

ワクチン接種を完了したA氏は、柔軟に対応してもらったことを明かしました。続けて、ワクチン接種を拒否するトランプ支持者について以下のように語りました。

「トランプ支持者はまるでラッダイト運動に参加した人たちのようです。要するに無知なんです。教育を受けていない人たちです」

ラッダイト運動は19世紀にイギリス各地の織物工業地帯で発生した「機械打ちこわし」運動です。多数の経営者が手織りから自動織機に切り替えたことで、労働者が失業の危機に直面し、機械打ちこわし運動を起こしました(本田康二朗「21世紀のネオ・ラッディズム―人工知能が引き起こす労働問題」参照)。

もちろん、米国ではトランプ支持者によるワクチン生産工場の破壊行為は報告されていません。それでもA氏は技術革新に否定的な態度をとったイギリスの労働者と、科学を信用しないトランプ支持者との間に類似点を見出していました。

加えて、A氏はトランプ支持者に関して次のように厳しい指摘をしました。

「米国の精神は『できるという態度(can-do attitude)』です。トランプ支持者は失敗しても自分たちが被害者だと思い込んでいます。メキシコが悪いとか言って、他者を非難します。彼らの精神は米国の精神とは真逆です」

A氏は自動織機に対応できずに自分たちが被害者だと思い込んだイギリスの労働者と、不法移民や中国に職を奪われたと主張するトランプ支持者を重ね合わせていました。

バイデンのワクチン接種対策

米国ではワクチン接種のスピードが鈍化して、接種者人数が頭打ちだと言われていますが、ジョー・バイデン大統領は矢継ぎ早に対策を講じています。例えば、全米の4万カ所のドラッグストアでも予約なしでワクチン接種を可能にしました。

低所得者層を対象とした地域保健センターにおいてもワクチン接種を行っています。その結果、高齢者の接種率はヒスパニック系が80%、黒人が70%に達しました。白人を含めた高齢者全体の接種率は80%なので、マイノリティ(少数派)の接種率は高い水準にあると言えます(現地21年5月4日時点)。バイデン氏はワクチン接種を人種別に見ても、ほとんど差がない点を強調しています。

さらに、ワクチン巡回車を活用して過疎地におけるワクチン接種者人数を増やそうとしています。田舎はトランプ支持者が多く住んでいる地域だからです。

仮にトランプ支持者がワクチン接種を拒否し続けた場合、20年米大統領選挙と同様、接種においても「トランプ支持者VS.反トランプ支持者」の対立構図再来になります。

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