- 2021年05月10日 21:55
「第三の開国」の機会を逃しつつある日本。コロナ禍で過去の教訓を活かす - 「賢人論。」第138回(前編)黒川清氏
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「志が低く、責任感がない。自分たちの問題であるにもかかわらず、他人事のようなことばかり言う。これが日本の中枢にいる『リーダーたち』だ」。切っ先鋭い辛辣な言葉で、当時の日本政府と電力会社幹部を痛烈に批判していたのは、「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」(以下、国会事故調)の委員長だった黒川清氏。そしてこれは、国会事故調の舞台裏を書いた同氏の著書、『規制の虜-グループシンクが日本を滅ぼす』の冒頭に掲げられた一文である。原発事故を「人災」と言い切る黒川氏は、東大医学部の出身であり、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)内科教授を務めるなど、14年間アメリカで暮らした国際派の医師でもある。そんな黒川氏の炯眼に、日本政府が現在進めている新型コロナ対策はどのように映っているのか、話を伺った。
取材・文/盛田栄一 撮影/丸山剛史
国会事故調「7つの提言」が活かされることなく迎えているパンデミック
みんなの介護 2021年は東日本大震災から丸10年という節目の年に当たります。黒川さんは国会事故調の委員長として、福島第一原発事故の原因究明に取り組まれました。そして2012年7月に国会に提出された報告書では、原発事故は地震と津波による自然災害ではなく「人災」であると結論づけ、①規制当局に対する国会の監視、②政府の危機管理体制の見直し、③被災住民に対する政府の対応など、「7つの提言」を行っています。この提言ではどのようなことを期待していたのでしょうか。
黒川 9年前、国会事故調が報告書を国会に提出したとき、私は「このたびの原発事故が第3の開国につながることを期待する」と発言しました。第1の開国である明治維新、第2の開国である第二次大戦の終結と同様、福島原発事故は日本社会と国民の生活を一変させるだけの大きなインパクトを持っていると確信したからです。
「起きない」と考えられていた原子力発電所の「メルトダウン」という重大事故を受けて、わが国のリーダーをはじめとするすべての国民は、それまでの奢りと慢心を率直に反省し、目の前の現実に対して謙虚に向き合うよう努力しなければなりません。原発事故という悲劇は、私たちがそれまでの生き方や社会システムを改める絶好の機会だったはずです。
みんなの介護 あれから10年が経ち、日本を含む世界各国が新型コロナウイルスのパンデミックという新たな危機にさらされています。原発事故で得た教訓はわが国の新型コロナ対策に活かされているでしょうか。
黒川 残念ながら、原発事故の教訓が活かされているとは言えません。国会事故調がまとめた「7つの提言」もないがしろにされたまま、西日本のいくつかの原発では、なし崩し的に再稼働をスタートしています。新型コロナに対する施策についても、これまでの施策を常に反芻しながら、今取れる最善の策を検討していく必要があります。
東西冷戦構造が日本の経済成長を可能にした
黒川 先ほど、「原発事故が第3の開国の実現の契機となる」とお話ししましたが、先進国の中で、日本の過去30年間における経済成長はゆるやかです。
みんなの介護 どういった理由からでしょうか。
黒川 第二次大戦後、わが国は奇跡的な経済復興を成し遂げました。1960年頃から高度経済成長が始まり、日本のGNP(国民総生産)は1966年にフランスを、1967年にイギリスを、1968年には西ドイツも抜いて、アメリカに次ぐ世界第2位の経済大国になりました。
その後、GNPという経済指標はGDP(国内総生産)に置き換わりましたが、2010年に中国に追い抜かれるまでの42年間、日本は第2位の地位を守り続けることになります。こうした成功体験によって、私たちの社会は「ジャパン・アズ・ナンバーワン(世界一位の日本)」と言われ、ちょっとうぬぼれてしまいました。
しかし私に言わせれば、日本が経済成長したのは、それだけの実力があったからではありません。東西冷戦構造という世界の大きな枠組の中で、「ものづくり」の日本が経済成長できたのだと考えています。
みんなの介護 冷戦構造が日本の経済成長に寄与していたというのは興味深いです。
黒川 西側の資本主義諸国の中で極東に位置する日本は、アメリカから見れば、敵国のソ連・中国と直接相対する“守るべき防衛ライン”の一つでした。だからこそアメリカは、「日米安全保障条約」を結び、在日米軍を強化。加えて、日本を経済的に安定させるために、繊維・鉄鋼・家電などの工業製品を高く買い付けました。そうやって日本は、国の防衛をアメリカに依存しながら、工業製品をせっせとつくり続け、経済を発展させることができたわけです。1950年に勃発した朝鮮戦争、1965年に始まったベトナム戦争も、日本経済にとってはプラスに働きました。



