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国の反論は「性風俗は不健全」 デリヘル給付金訴訟の原告が法廷で語った思い

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関西地方で派遣型風俗店(デリバリーヘルス)を経営するFU-KENさん(仮名、30代、女性)が、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う持続化給付金や家賃支援給付金から性風俗事業者が対象外となったのは、憲法14条などに反するとして、国に対して給付金の支給を求めた民事裁判の第一回口頭弁論が、4月15日、東京地裁(清水知恵子裁判長)であった。国側は答弁書を提出、請求の棄却を求めた。

原告の弁護団は「性風俗差別、憲法訴訟として戦う」と位置付け、題して「セックスワークにも給付金を」訴訟としていた。注目度は高く、訴訟費用として、クラウドファンディング・サイトを通じて790人から計614万3300円の募金が寄せられた。

FU-KENさんが起こした訴訟は、図らずもセックスワーカーの声を可視化・可聴化した。コロナ禍で耳目を集めるセックスワーク論に、いわば当事者側から一石を投じたかたちだ。では、彼女はどのような思いで提訴に踏み切ったのか。


「給付金除外」に泣いた日から1年

15日の東京地裁。抽選は行われなかったものの、45席の傍聴席を求めて行列ができた。濃紺のスーツに身を包んだFU-KENさんは、意見陳述のため指名されると、静かに書面を読み上げた。

私が経営する店には、受付業務をしているスタッフが何人かおります。そのなかの一人は子育て中で、子供がこの春、小学校に入学します。元々、そのスタッフはキャストでした。店のオープンの頃からキャストとして働き、結婚した後も働き続け、妊娠を機に受付スタッフになりました。その後、出産して、赤ちゃんだった子があっと言う間に小学生です。

そう語り始めたFU-KENさんが声を詰まらせたのは、次のくだりだった。持続化給付金の申請要領が発表された1年前の2020年4月27日、性風俗営業事業者はその対象外と知ったときのことーー。

そのとき私は未来が真っ暗に思えました。そして孤独でした。まるで、嵐の中、性風俗業の者だけが裸で外に追い出されたように感じました。国の説明によると、そうするのが当たり前かのようでした。「普通とは違う職業だ」「あってはいけない職業だ」「潰れたところで誰も困らない」「救う価値のない職業だ」「そんな職業を選んだやつが悪い」と国から言われているようで、涙が出ました。

筆者が傍聴席から見ても、彼女の肩はかすかに震えているように見えた。その先に、身を乗り出すようにして原告を見つめる裁判長の表情が垣間見える。後日、インタビューに応じた彼女は、そのときの思いをこう振り返った。

「裁判長がこちらの目を見ていることに気がついたら、思わず泣けてきました。その原稿も泣きながら書きましたが、こんなふうに聞いてもらえるのかと思うとつい…。昨年春の緊急事態宣言のもと、4月半ばから5月初旬にかけて休業するなかで、給付対象から除外されたと知ったときはショックで泣きました。その後、スタッフから国はおかしいよねと言われても泣き、こんなに泣いた年は初めてのことです」

10分間近くにわたる訴えを「裁判所には、国による職業差別を許さないでいただきたい」と、毅然と締めくくった彼女だが、実際、その決意までには逡巡があったことは想像に難くない。


2020年8月末に訴訟を決意した際、「自分は性風俗業を営む健全な経営者であり納税者であり、一国民であることを訴えたい」と、筆者に語っていたものだが、その後も心が揺れる日はあった。

「テレビのコメンテーターが、私について、〝日陰の職業の人が声を上げるのは、いかがなものか〟と言っているのを聞いたり、同業者にも〝声を上げたらどんな目に遭うか分からない〟と言われたりした。でも、だからこそ、店のスタッフやキャストが働きやすい店を作ることが私の役割、なんとしても店を続けたいと思った」

「適法に営業するのが私の仕事です」

性的サービス業。自らの事業をそう捉える彼女は、訴状にもそのように記した。いっぽう国は、「性風俗関連特殊営業は、性を売り物にする」と考えている。性的サービスか、性を売るのか。原告と被告の間には、その定義について温度差がある。

業界内にも温度差はある。遵法精神のない反社的勢力が存在し、一説には7兆円近くの市場規模があると言われる。闇マーケットで働く人たちの多くは、発覚を恐れて税の申告をしていないとの指摘も。

そんななか、FU-KENさんは、自社と業務委託契約する約50人のキャストの業務を安全に遂行させ、(売春防止法に違反しない)サービスを顧客に喜んでもらうための安全な環境を整え、数名の社員スタッフと共に店を切り盛りしてきたと語る。

コロナ禍においては衛生安全面を最優先に。セックスワーカーの当事者団体であり、訴訟の支援もするSWASHの作成した「コロナ感染防止のためのマニュアル」を活用している。例えば、できる限り粘膜の接触を避けるサービスを提案することなど。

「働く場の環境整備が、キャストを経験した自分の役割だと思っています。世間では風俗業界は税金の申告漏れワーストワンなどと言われるようですが、違法営業ではキャストを守れないのが現実。私と同じように考える女性経営者は増えています。悪質店に関する情報も、働く人やお客さんがSNSで共有する時代です」

だからこそ、2020年5月の国会で、性風俗関連特殊営業を持続化給付金の給付対象外とすることについて、「職業差別ではないか」との議論がされたとき、政府側の回答が納得できなかった。

「意味が分からなかったのです。社会通念上、公的支援をするには国民の理解が得られにくいから対象外としたと。適法に営業しているのにそう言われても、と。国からの主張が出たいまは〝(性を売る仕事だから)本質的に不健全〟という理由をようやく知ることができ、むしろ気持ちはスッキリしました」

納税者かは無関係、争点は「不健全」

国は答弁書で、次のような主張を展開している。

給付事業の目的は、経済対策として、給付金対象事業者の事業の継続ないし再起を下支えすることだが、性風俗関連特殊営業は、「性を売り物にする本質的に不健全な営業」であり、「公衆道徳上有害な業務」であり、「社会一般の道徳観念に反する」ので、国庫からの支出により、事業の継続ないし再起を目的とした給付金を支給することは、国民の理解を得ることが困難である。

災害を含めて、一貫して公的金融支援や国の補助制度の対象とされてこなかった背景にも、同様の考慮があった。よって、合理的な根拠に基づく区別であり、手段として合理性を欠くものでもない。

第一回口頭弁論に関するニュースがメディアを賑わせた当夜、一息つく彼女の見たSNSには、国の放った「不健全」というパワーワードへの次のような感想が寄せられていた。

「本質的に不健全」ってのが失礼すぎましたね / 国のテンプレ回答だよな/ 国側にこんな反論されると感情的になっちゃうなー/ 国民の理解が得られる得られないを、どうやって判断するのか国に聞きたい/ そもそも健全なセックスを求めることが気持ち悪い/ 国が不健全を持ち出した段階で、これは私たちの闘いになった/ 優生保護法や生活保護と同じような国の姿勢を感じました/同じく性風俗特殊営業にされているラブホテルも不健全になるのかね?/など。

コメントを見ながら、彼女は再び涙ぐんだという。

「国民の理解が得られないのは国のほうじゃないかと、多くの人がSNSやCALL4のサイトに声を上げてくれたことで、私はこの仕事を続けていていいのかなと、ようやく思えてきた。有り難いことだったし、とても嬉しかった」と、FU-KENさんは語る。

SWASHの代表を務める要友紀子さん

健全だけを求めれば業界は地下経済化する

SWASHの代表を務める要友紀子さんもTwitterに声を上げた一人だが、数日後になってもまだ憤りが収まらない様子だ。

「不健全というその言葉は、働く人にとって何の役に立つのか。国の仕事はすべての労働者の健康と安全に寄与することだ。性規範や偏った女性観で特定の職業の人々をジャッジして見殺しにするなど、どこの独裁国家の話か。

健全といえるまともな労働の選択肢がほとんどないいまの社会で、なんとか自分や家族、大切な人が生き延びるために選んだその労働を、不健全と決めつける国の論理は破綻している」

国は性産業への対応を誤っていると、要さんは懸念を示す。

「性道徳的な意味での健全さだけしか認められない社会では、例えば、カラオケボックス、カフェ、理髪店、マッサージ店、飲み屋などが隠れ蓑となって、性産業が地下経済化していくのが古今東西の不可避な流れ。アンダーグラウンドになればなるほど、人身売買も増加するというのは、トランプ政権の政策評価でも明らかにされている。

いま日本の性産業で働く人々は30万人ともいわれるが、身体的・社会的にも安全に働ける労働場所について、国はこれまでずっと現実逃避的な態度・対応をしてきている。国の不作為の弊害は全部働く人が背負わされている」


その理由について、弁護団の亀石倫子弁護士は、口頭弁論当日に行われた記者会見で次のように述べていた。

「風営法では、キャバクラやスナックといった飲食店は許可制なのに対して、性風俗営業は届出制になっている。法律がそうなっている背景には、性風俗に対しては、許可というかたちでお墨付きを与えるわけにはいかないという考えが、国にはある」

「届出制」に関して、国は、現行の風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)への大幅改正により、風俗特殊関連営業を規制の対象とした1984(昭和59)年、衆議院地方行政委員会でこう説明している。

風俗営業というのはいわゆる性を売り物にした営業でございまして、これは公に許可をして認知をするという性格のものではない。営業の健全化を図るとか業務の適正化をやっていくというものにちょっとなじまないということでございます(警察庁刑事局保安部長)。

その表現からは、性風俗営業を渋々認めるという姿勢が感じられる。許可はしない、規制措置のみ行うというわけだ。そうした過去の判断が、いま感染症蔓延という非常時においても踏襲されている。

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