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「人と違うことは個性だ」差別と戦い続けたプロサッカー選手・鈴木武蔵が見る"日本"

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ジャマイカ人の父と日本人の母を持つプロサッカー選手の鈴木武蔵選手。

小学校の入学に合わせて移住した日本では「ハンバーグ」「ウンコ」など肌の色を揶揄(やゆ)する言葉を周囲から浴びせられた。

「僕って日本人じゃないの?」

偏見に苦しみ自分のことを否定し続けてきた「ムサシ」が、サッカーと出会い、日本代表ストライカーとして活躍する「武蔵」に成長するまでを、3月に上梓した初の著書『ムサシと武蔵』(徳間書店)のなかで綴った。

現在はベルギー1部リーグのKベールスホットVAで活躍する武蔵選手に、著書に込めた思いや、偏見や差別と向き合うなかで抱く日本社会への思いなどを聞いた。

練習後、ベルギーからオンラインで取材に応じていただいた鈴木武蔵選手

偏見に苦しみ自分を否定し続けた「ムサシ」

−−偏見の目に苦しんできた幼少期からプロサッカー選手として活躍する現在までを綴られている本書ですが、どういう思いで執筆を決意されたのでしょうか。

話をいただいた時には正直、サッカー人生のなかではまだ何も成し遂げていないという思いがあり、悩みました。

でも、自分を否定し続けたカタカナの「ムサシ」から、肯定できるようになった「武蔵」になるまでの成長を、読んでくれた人が体験できる内容にすることで、僕なりに伝えられることがあるのではないかなと制作を決意しました。

幼少期の僕自身のように、様々な理由で自分を否定してしまっている子どもたちは多いと思います。コンプレックスに苦しみ、それを乗り越えてきた僕の経験を伝えることで、「自分を否定する理由なんてない」と少しでも気づいてもらうことがこの本の一つの意義だと思っています。

人と違うことは個性だと気づいてほしい

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−−『ムサシと武蔵』では、ジャマイカ人の父と日本人の母を持つ武蔵選手の肌の色に対するコンプレックスや、それに向けられた偏見や差別が大きなテーマとして綴られています。著書の執筆を終え、改めて偏見や差別の存在をどのように捉えられていますか。

肌の色や生まれを含め、差別的な言葉を投げかけてくる人は一定数この世にいて、完全になくなるとは思いません。

でも、差別される側を守る声が社会のなかで高まるなど、変化は起きています。

当事者を肯定してあげるような人たちが増えていけば、肌の色や生まれ、身体的な障害など人と違う部分があっても、「それは決してネガティブなことではなく自分なりの個性なのだ」と気づくことができるはずです。またそれは僕が本を通して伝えたいメッセージでもあります。

日本もこれから多様性がさらに求められる時代になりますし、伸び代のある国だと思っています。

そのなかで僕ができることは、差別の根絶ではなく、差別を受けている人やいじめを受けている人、自分を否定し続けている人たちのために、ほんのちょっとでも希望を与えることなのかなと思っています。

僕にできるのは子どもたちに「プロとサッカーした」という小さな幸せを届けること

鈴木武蔵 著「ムサシと武蔵」(徳間書店)より、第1回「MUSASHI CUP」の模様

−−ひとり親家庭の子どもたちのサポートや児童養護施設でのサッカー教室開催なども積極的に行われています。活動の背景には著書に込めたメッセージと同じ思いがあるのでしょうか。

イベントを開いた時は子どもたちと一緒にサッカーを楽しむことを一番意識しています。子どもたちと身の上話などは一切しません。僕自身がそうだったように、初対面の人から身の上話を聞かれても子どもたちは壁を作って突き放してしまうからです。

僕ができるのは、例えば「プロサッカー選手と一緒にサッカーしたよ」と学校でちょっとでも自慢できるような思い出を作り、少しでも自信を持ってもらうことです。

だから現役中に活動することに意味があると思っています。小さな幸せをその都度届け、同時に僕も一緒に楽しみたいと思いながら活動を続けています。

−−『ムサシと武蔵』は出版後、メディアに多数取り上げられるなど反響を呼びました。武蔵選手のもとにはどういった反応が届き、どう受け止められていますか。

直接、僕に連絡をくれた方や、友達のなかには「読んで涙した」と言ってくれた人もいました。いろんな人に支えられているなという実感が改めて湧いています。

自分の体験なので「どこが泣けるんだろう」と僕は思うのですが(笑)。でも、そう言ってくれるだけで、自分の経験や思いをさらけ出してよかったなと思います。

母も読んで「知らない部分をたくさん知ることができた。すごくいい本だったよ」と長文のメッセージが送られてきました。周りの友達にもすごく勧めてくれているそうです。

差別的な言動に対して、こちらも攻撃的な発言で応酬することはしない

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−−最近では国内外でアスリートの方々が差別や人種問題に関して発言する機会が増えてきました。そういった時代の流れや変化をどのように捉えられていますか。

とてもいいことだと思います。例えばプロサッカー選手であってもサッカーだけをやっていればいい時代ではなくなっていると感じています。もちろん、サッカーでの結果を追求することはプロとして第一です。でも、社会に対して発言したり、支援活動を行ったりということは、1人の人間としてやっていくべきことだと思っています。

一方、差別的な言動に対して、こちらも攻撃的な発言で応酬することはしないように気をつけています。アタックに対してアタックで返すと、また争いが生まれて、最終的に悪い結果になってしまう。攻撃してくる人が一定数いても、その人たちを攻撃するのではなく平和的な解決を目指したい。僕はそう考えています。

自己否定を続けたなかで出会った人たちのおかげで想像もできなかった未来にいる

−−偏見との戦いや、サッカーで結果が出せなかった時期の苦しさなどが本書では綴られていますが、それらが現在の自分に繋がっていると感じていますか。

長い間、自己否定を続けてきたなかで、肯定してくれる人たちと出会い、今、自分でも想像もできなかった未来にいます。

これからもきっと調子が悪い時期はあるでしょうし、自分を否定したくなるような場面にも変わらず遭遇すると思います。

でも、こうやってたくさんの苦しい経験をしてきたからこそ、これからのサッカー人生、そしてその後の人生でも来る波を自分は乗り越えられると信じられるようになりました。

−−幼少期に武蔵選手を苦しめていた「ハーフであること」が個性や才能として受け入れられる日本になっていると感じていますか。

感じられます。生まれや肌の色、また身体的な障害なども、個性として捉えられる社会になってきていると思います。

もちろん差別的な意図を持って攻撃するのは絶対にしてはいけませんが、一方で気を遣われすぎてもやりにくいと感じることがあります。「ハーフ」という言葉に関しても僕は全然気にせず自分でも使っていますし、一番大切なのは信頼関係であり、外見ではなく中身やフィーリングといったもので人間関係を築くことだと思います。

それぞれの個性を受け入れることができる社会になれば、もっと明るい未来に繋がるのではないでしょうか。


−−最後に著書を手に取られた方へのメッセージをお願いします。

それぞれの人生のなかで自分を否定する瞬間や否定したい自分の個性というものがあるかもしれません。

僕の人生を擬似体験することで、生きるヒントに繋がってほしいと思いながらこの本を綴りました。読んだ後に明日からちょっとだけでも自分のことを肯定してみてほしいですし、普通に読むだけでもポジティブになれる本だと思っているので、そういう点にフォーカスしてもらえれば嬉しいです。

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