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  • 2021年05月10日 08:45 (配信日時 05月10日 06:00)

東京五輪「開催反対」でアスリートが〝差別〟される裏側 - 新田日明 (スポーツライター)

東京五輪が開催の是非を巡って大きく揺れ動いている。開幕まで残り2カ月半となったものの、国内からコロナ禍での大会開催に反対を求める世論は一向に沈静化しない。東京五輪の陸上テスト大会が実施された8日には会場となった国立競技場の周辺で、大規模な抗議デモ活動も展開された。

(kanzilyou/gettyimages)

同日夕方、東京五輪の開催中止を訴える〝反五輪団体〟はJOC(日本オリンピック委員会)や複数の五輪競技団体がオフィスを構える「ジャパン・スポーツ・オリンピック・スクエア」の建物の前に集合。あらかじめデモの申請を受けて出動した警察官らが厳戒態勢を敷く中、デモ隊の参加者たちは国立競技場周辺を「Olympic kill the poor(五輪は貧乏人を殺す)」と書かれた横断幕を手に「生活を守れ」や「医療が優先」などとシュプレヒコールを叫んだ。「中止だ! 東京五輪」「ぼったくりオリンピックおことわり」「聖火を止めろ」と書かれたボードやフラッグを掲げる人もいた。

確かに東京五輪は今、盛り上がるどころか誰がどのように見ても逆風にさいなまれている。新型コロナウイルスの感染再拡大が深刻化し、政府発令の緊急事態宣言は大会開催地の東京を含め6都府県にまで拡大。その影響で今月17日に予定されていたIOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長の来日も見送りとなった。五輪開幕が目前に迫る中、大会の詳細を煮詰めるはずだったIOCのトップが来日できなくなるのはまさに異常事態と言い切っていい。

SNSやネット上でも開幕反対を唱える声は後を絶たない。弁護士の宇都宮健児氏が署名サイト「change.org」で「東京五輪・パラリンピックの開催中止」を呼びかけ、10日現在で31万人を突破するなど、その凄まじい勢いは海外メディアからも注目されている。

だが、この「開催反対」のムーブメントが一部誤った方向へ進んでいるところは非常に気がかりだ。競泳の東京五輪代表に内定した池江璃花子選手が7日、自身のツイッターを更新し、東京五輪について「辞退してほしい」「反対の声をあげてほしい」とのコメントが寄せられていることを明かした上で「私に反対の声を求めても、私は何も変えることができません。ただ今やるべき事を全うし、応援していただいている方達の期待に応えたい一心で日々の練習をしています」などと思いをつづった。

そして「オリンピックについて、良いメッセージもあれば、正直、今日は非常に心を痛めたメッセージもありました。この暗い世の中をいち早く変えたい、そんな気持ちは皆さんと同じように強く持っています。ですが、それを選手個人に当てるのはとても苦しいです」と苦しい胸の内を吐露。

白血病を患いながら闘病生活を乗り越え、昨年8月に実戦復帰を果たすと今年4月の日本選手権では4冠を達成して東京五輪代表権を勝ち取った〝ヒロイン〟の悲痛の叫びには多くの人たちも同情した。ネット上では「いくら五輪開催に反対していても、その怒りを選手にぶつけたり、不参加を強要したりするのは筋違い」などといった怒りのコメントも多数散見されたが、まったくその通りである。

〝言葉の暴力〟や〝見えない疎外感〟を受け、苦しむ

ところが、このような暴論を向けられ、苦しんでいるのは池江選手だけではない。実を言えば、他の東京五輪日本代表、日本代表候補のアスリートたちも〝言葉の暴力〟や〝見えない疎外感〟を受け、人知れず苦しんでいる。ある団体競技の日本代表候補選手も「東京五輪を目指していることが、何か『罪』であるかのように思われるのは悲しい限りです。最近は自分についてネットやSNSに書き込まれるコメントがどうしても気になってしまう。

つい先日も中には誹謗中傷に近い、乱暴な言葉で僕の名前を記しながら『〇〇は民意を無視し、自分のエゴだけで東京五輪に出るつもりなのか』『〇〇が出るのは勝手だが、日本代表ではなく非国民代表として参加しろ』などと書き込んできた人もいました。私は池江さんのように世間から注目を浴びるような選手ではなく発信力もないので実名を出す勇気はないですが…。それでもこれだけ苦しい境遇に追い込まれている事実は心の片隅にでも知っておいてもらいたいです」と寂しげな表情を浮かべ、現在の実情を切実に訴えていた。

この代表候補選手以外にも多くの実例がある。たとえば最近耳にした中で、ひどい話だったのは某競技の日本代表選手の実子が学校でクラスメートから父親の東京五輪参加をめぐって「コロナなのにオリンピックなんて出ていいのかよ」とからかわれ、すっかり落ち込んでしまったというケースだ。他にも地方出身者の代表選手が、新型コロナに感染歴のある地元有力者から「コロナ感染の恐ろしさを共有できないままで『感染イベント』と目される五輪に出るなら、もう応援できない」と〝脅し〟をかけられ、今も関係はギクシャクしているという。

「東京五輪の開幕に反対する声が強まり、アスリートに対する見方も微妙なものになっているのは残念ながら間違いないところ。それが証拠に本来ならば東京五輪が近付くにつれ、メディアでは日本代表選手に関する番組出演や出版ラッシュが続くはずだったが、現在までほとんどと言い切っていいほど行われていない。多くの有名な代表選手個々は大手出版社等と早々に契約を結んでいるが、激化する五輪開幕反対論に加えて参加するアスリートへの目も好意的ではなくなっていることで非常に発刊が難しくなっている。だから彼らは契約こそ結ばれているものの、宙ぶらりんのまま。最悪、実入りはほとんどない形で終わってしまうかもしれない」(出版関係者) 

この場で東京五輪開催の有無について論じるつもりはない。ただ、何の罪もないアスリートたちを糾弾したり、非難の対象としたりするような愚行は絶対に間違っている。

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