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  • Dain
  • 2021年05月09日 11:34

人はなぜ遊ぶのか『遊びと人間』

じゃんけんからサッカー、コスプレからワルツまで、古今東西、老いも若きも、人は様々な遊びを楽しんできた。「遊ぶこと」それ自体を目的とする行為を、なぜ人はするのか。

この疑問に対し、ロジェ・カイヨワが、神話や文化人類学、歴史学や社会学から解きあかしたのが『遊びと人間』だ。

「遊び」といってもその範囲は膨大だ。一人でするもの、複数でするもの、人数が決まっているものや、道具の有無、時間や場所が指定されているもの、厳密にルール化されているものから、自由度の高いものまで、つかみどころがない。

これを捌いていく手際が鮮やかだ。

まず、遊びを定義することで、外堀を埋める。つまり遊びとはこういうものなのだ。

  1. 強制されず、自由な活動
  2. 生活から隔絶され、予め決められた時空間に制限される
  3. 展開が決まっておらず、創意の工夫が残されている
  4. 富を生み出さない、非生産的な活動
  5. ルールがあり、そのルールだけがその場で通用する
  6. 非現実であり、虚構の活動である意識がある

次に、個々の遊びに共通する性質を示し、類型化する。さらに、この「共通する性質」こそが人を遊びに駆り立てる動機となり、遊びを通じて文化が生まれてきたのだと主張する。


分類


共通する性質・動機



アゴン
競争


ルールのある競争において、自分の能力だけで勝利を得ようとする


運動競技、玉突き、サッカー、チェス


アレア


意志を捨て去り、運命の判決を不安と受け身で待つ


じゃんけん、ルーレット、宝くじ


ミミクリ
模擬


他人の人格を装い、自分を他者であると想像し、虚構の世界を作り出す


人形遊び、仮面、コスプレ、演劇


イリンクス
眩暈


身体の安定と平衡感覚が狂わされるのを楽しむ


ぶらんこ、ワルツ、スキー、登山

そして、遊びから制度化・慣習化されたものを検証してゆく。法律から行政制度、祭り、仮面からダンスパーティまで、社会の諸現象に湧き出ている遊びの精神を見出す。壮大な文明論まで拡張される風呂敷が面白い。

遊びは富を生まない?

その一方で、現代に合わなくなっている点もある。定義の「4. 富を生み出さない、非生産的な活動」がそれだ。

例えば「宝くじ」は当選したら莫大な儲けを生み出すではないか、というツッコミに、著者は、トータルでは富は変わらないと説く。

たしかに胴元がいてカネを集め、アレア(運)に選ばれたものが大金を手にするかもしれない。だが、それは宝くじという遊びの中のカネの所有権が移動するだけであり、遊びの外から富を引き出してはいない、というのだ。

しかし、Youtube のゲーム実況を見ていると、遊びそのものが富を生み出しているように見える。

いわゆるプロゲーマーを指しているのではない(それはプロボクサーと同じ「仕事」だろうから)。ゲームが上手なわけではなく、ただ楽しそうに遊んでいる様子を実況する。動画を見に来る人への広告が収益となる、という構造だ。この場合、確かに遊びが富を生み出していることになる。

例えば「しゅうゲームズ」は典型で、あつ森やマリカーを遊んでいるのだが、独り言やセルフツッコミが面白く、登録者が80万人を超えている人気チャンネルとなっている

あるいは、クレーンゲーム実況なんてもっとエゲつなくて、人気フィギュアを総取りしてメルカリに売る「クソ転売ヤー生活」を動画にし、アップロードしている。転売+実況広告というメタな収益化を図っている。ネットを通じた遊びの見世物化が、遊びの定義を変えたといえるだろう。

本書は半世紀も前の名著とされているが、アップデートされた目で読み直すことで、遊びが拡張されているのが分かる。

人はなぜ遊ぶのか

遊びを定義・分類し、社会や文化に現出している「遊びの精神」を検証する―――こうした行為を通じて、「人はなぜ遊ぶのか」という疑問に答えようとしている。

だが、この疑問に対し、明確に答えている箇所を見出せなかった。強いて言うなら、第4章「遊びの堕落」p.107の以下のあたりになる。

遊びの原理はまさしく強力な本能(競争、幸運の追求、模倣、眩暈)に応じたものである。しかし、これらの本能が積極的、創造的に満足させられるのは、時と場合により遊びの規則が指示するところの、確定された理想的諸条件の中でしかないことは容易に理解できよう。

(中略)

遊びは本能を訓練し、それを強制的に制度化する。遊びはこれら本能に形式的かつ限定された満足を与えるが、それは本能を教育し、豊かにし、その毒性から魂を守る予防注射をしているのだ。同時に本能は、遊び(の教育)のおかげで、文化の諸様式の豊富化、定着化に立派に貢献できるものとなる。

回りくどい言い方だが、要するに「人は、競争、幸運の追求、模倣、眩暈を求める本能があり、それに衝き動かされて遊ぶ」という主張である。そして、その本能を訓練し、制度化するものを遊びと呼んでいる。

「遊びは本能」と明確に言い切ってしまうと、なんだ、「本能」というそれ以上説明できない言葉に逃げているではないか、というツッコミが入ってしまう(今だと生得的モジュールとか適応と言われていそう)。

オオカミの仔がじゃれ合う「遊び」は、成長した後に必須となる狩りの予行演習である。誰に教わったわけでもないのだから、それは本能である。

この観察結果を人に当てはめ、その社会・文化的活動の予行演習に相当するものを遊びと定義するならば、「人はなぜ遊ぶのか」という問いへの答えは、結果的に「本能」になるだろう。

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