- 2021年05月09日 09:44
働き方改革は教員のためだけではない──「定時上がり」をITで実現した小学校の本当の狙い
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学校は多忙な職場で、教員は大変な仕事。
そうしたイメージを持っている人は少なくないでしょう。実際、国際教員指導環境調査(TALIS)によると、小学校教員の平均勤務時間は54.4時間/週。14カ国・地域中、最長となりました。
そんな状況でも、働き方改革を進め、大きく変わった学校もあります。今回、取材をした埼玉大学教育学部附属小学校(以下、埼玉大附属小)もその1校。デジタル化を進め、教員の時間外勤務の大幅削減や保護者とのITでの連携を実現しています。
「多忙でネガティブなイメージが広がっていますが、やっぱり教員はおもしろい仕事。だからこそ、次の世代にしっかり“バトン”をつないでいきたい」。口をそろえて語るのは、埼玉大附属小の副校長・森田哲史さんと教諭・塩盛秀雄さん。「学校」の働き方改革ストーリーを聞きました。

目の前の子どもたちや将来の教育現場を考えたら、学校の働き方改革は必須
多田
いろいろな学校に取材していますが、学校の先生ってやっぱり忙しい人が多いですよね。
小学校教員の平均勤務時間は54.4時間/週というデータもあります。最近だと、たとえば「#教師のバトン」というプロジェクトでも、先生たちの悲痛な声が話題になっていました。
森田
業務改善が進んでいる学校もありますが、一般的には多忙な印象は強いですよね。実際、かつては本校もそのような働き方をしていました。
多田
以前はどのような状況だったんですか?
森田
わたしが赴任した10年前は、定時で帰れることはほとんどありませんでした。
授業準備や職員会議などやることが山積みで、よく夜遅くまで働いていましたね。そのためか、昔から「不夜城」とささやかれていたそうです。

多田
イメージどおりの忙しさですね……。
森田
教員は「子どもたちのためなら、骨身を削ってでも働きたい」と考える人が多いんです。だから、長時間働くことをいとわない傾向があって。

塩盛
実際、「時間をかければかけるほど子どもたちのためになる」というのは、半分は真実なんですよね。
子どもは1人ひとり違う存在なので、それぞれへの適切なアプローチを試行錯誤することで、よりよい教育ができる。
でも、1クラス30〜40人分のアプローチをしっかり検討していくと、膨大な時間がかかってしまうんですよ。

多田
1人の子どもへのアプローチ方法を考えるだけでも、とても大変そうです。それに教育学部の附属校として、実習生の受け入れや実験・研究などの業務もありますよね。
森田
そうですね。わたしは夜遅くまで働き、授業の準備をする同僚の姿を見てきました。そうした努力を否定するつもりは一切ありません。
ただ、本当に子どもたちのためを思うなら、教員が疲れ果ててしまうのは本末転倒だとも思うんです。

塩盛
子どもたちには、元気な姿を見せて、安心してもらいたいですからね。
森田
はい。それに、本校に来る教育実習生にも「教員はいい仕事だな」と思ってもらいたい。
たとえば、もし現役教員が「昨日も3時間しか寝られなかったよ」なんて愚痴をこぼしていたら、教員に失望するのも無理はありません。そうして教員になる人が減れば、未来の学校教育にも影響を与えます。
そんなふうに目の前の子どもたちや将来の教育現場のことを考えたら、学校の働き方改革は必須だと思うようになりました。
業務を「なくすのか、減らすのか、移すのか」から考える
多田
教育の未来のため、働き方改革に踏み切ったとのことですが、いまの埼玉大附属小はどんな働き方になったのでしょう?
森田
当校では16時55分が定時なのですが、いまは17時ごろにはほとんどの教職員が終業していますね。
定時を過ぎると「勤務時間外にすみません」「早く帰ろう」という言葉を耳にするようになりました。以前は、そんなこともなかったんですよ。残業が当然だと思っていたので。
多田
それはすごい!
働き方改革って、どこから手を付けるべきか、どうやって周囲を巻き込むかなど悩みどころが多いと思っていて。どんなふうに進めていったのでしょうか?
森田
働き方改革でわたしが重要だと考えているポイントがあります。業務を「なくすのか、減らすのか、移すのかをはっきりさせること」です。

多田
というと?
森田
業務改善の第一歩は、「なくせるものをいかに見つけられるか」です。
特に、学校は子どもの安全に関わる仕事はどんどん増やしがちなんです。たとえば、登下校の見守りやコロナ禍による校内の消毒作業等。
もちろん、安全に気を配るのは大切ですが、突き詰めると際限がなくなってくる。なにより、こうした仕事は始めるのは簡単だけど、やめるのは大変。いつやめるのかを決められず、「例年通り」で定着してしまうんです。

多田
自然と仕事が増えがちだからこそ、まずは「なくす」決断が大事になる、と。
森田
はい。次に大切なのは「減らす」ことです。やり方を変えて、業務の量や時間を減らすことですね。
本校の場合はペーパーレス化や勤務時間管理、情報共有によって、これまで時間をかけていた印刷や連絡などの業務を削減できました。
多田
なるほど。最後の「移す」については?
森田
業務をいろんな人に分散させたり、みんなで協力して行ったりすることですね。

塩盛
本校では、日々のスケジュール管理や学校日誌の作成など、これまで手書きや手渡しといったアナログな形で行っていました。それらの取りまとめは、主に管理職の先生が担当していたんです。
そこで、こうした業務をデジタル化し、いろんな先生に分担したんです。たとえば、行事日程はそれぞれの担当の教職員が入力できるようすれば、管理職の先生は取りまとめをせずに確認だけで済みます。
多田
たしかに。アナログだと「取りまとめ」の仕事が増えるんですね。
森田
ここに実は、働き方改革を組織で進める上での重要なポイントがあると思います。それは「あの人はラクしようとしている」という目線を避けることです。
そもそも、働き方改革を進めようとすると、周囲から「ラクしようとしている」と見られがちで。組織一丸となって改革を進めるには、まずそうした誤解を解かなくてはなりません。そのことは、地域や保護者の方々にも理解していただく必要があります。
多田
ふむふむ。
森田
そこで まず味方につけたいのが、多くの決裁権が委ねられている管理職の先生です。先の「取りまとめ」の仕事は管理職に集中しがちで、すごく大変なんです。
だからこそ、業務を「移す」仕組みをつくれば「取りまとめ」の仕事がなくなりますよと管理職の先生に伝えられると、改革がグンと進めやすくなると思います。



