- 2021年05月07日 15:48
モンデール元副大統領と日本(下)尖閣問題での大失言問題
1/2古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
【まとめ】
・モンデール氏が「尖閣は日米安保条約の適用外」と爆弾発言。
・日本国内で猛反発。その後のブッシュ政権は氏の発言を否定。
・「日本が尖閣を断固守る姿勢みせないことが米のあいまい対応招いた」との指摘。
ウォルター・モンデール氏に関して私が忘れられない事例の第二は尖閣諸島に関連しての同氏の発言だった。この問題発言は日米同盟の根幹までも複雑な形で揺るがす衝撃的な影響を数年にわたり残す結果となった。しかも日本にとっての悪影響だった。
すでに述べたようにモンデール氏は1993年に民主党のビル・クリントン大統領に日本駐在の大使に任命され、その年の9月には東京に赴任した。日本では当初から温かく迎えられた。なにしろ副大統領を務め、大統領選挙でも候補だった有名な政治家なのだ。
日本では官民ともにアメリカ大使となると、いわゆる大物が好きである。古い話とはなるが、1970年代の民主党クリントン政権時代、上院の院内総務だったマイク・マンスフィールド氏が駐日大使に選ばれた。
アメリカ政界では上院議員というだけでも国政の高位である。ましてその上院議員を束ねる院内総務というのは、いわゆる大物だった。マンスフィールド大使は結局、共和党のレーガン政権でもそのまま留任ということになり、10年ほども東京に勤めて、日本の各界から人気を集めた。
私も東京に戻った際にはマンスフィールド大使へのインタビューの機会を何回か得た。そのたびに大使は執務室に私を招きいれて、「まずコーヒーはいかがですか」と問い、自分自身でワイシャツの腕をまくり、コーヒーをカップに注いでくれたものだった。大物大使のそんな気さくな動作にすっかり魅せられたことを覚えている。
大物といえば、モンデール大使のすぐ後任には下院議長を務めたトーマス・フォーレイ氏が任命されて、これまた日本では大歓迎された。そんな時代にくらべると、近年のアメリカの駐日大使はやや軽量級という感じもする。いずれにしてもモンデール大使は元副大統領という経歴だけでも、日本では厚遇されたわけだ。
モンデール氏が赴任した当時の日本は総理大臣が細川護熙、羽田孜、村山富市と、くるくる変わり、政局は混迷した。そのうえ、クリントン政権は対日貿易赤字の問題を重視し、日本に対しては経済面で大幅な市場開放や一定量のアメリカ製品の輸入を義務づける「管理貿易」の押しつけなどで、摩擦も辞さなかった。
そんななかでモンデール大使は副大統領の体験からか、さすがにアメリカ政府代表の役割をそつなくこなし、日本側の好評を崩すことはなかった。赴任から3年目の1996年に入ると、日本側では橋本龍太郎首相が登場して、沖縄の米軍普天間飛行場の日本への返還問題が切迫した課題となった。日米両国間のこの課題をめぐる交渉ではモンデール大使も重要な役割を果たし、1996年4月には合意を成立させた。
それから25年、普天間飛行場返還は代替移転予定先の辺野古基地の建設が遅れたことなどにより、いまだに実現はしていない。だが当時の日米合意はモンデール大使の役割とともに、それなりに高く評価されていた。
ところがモンデール大使はこの普天間基地返還合意が成立してまもない1996年9月、日米安全保障関係にも異色の一章を刻む爆弾発言をしたのだった。その発言とは簡単にいえば、「尖閣諸島は日米安保条約の適用範囲に入らない」という趣旨だった。つまり日本の固有の領土であり、日本の施政権はアメリカ政府も認めてきた尖閣諸島がもし第三国から軍事攻撃を受けても、アメリカはその防衛にあたる責務はない、というのである。日米安全保障にかかわってきた関係者たちにはショッキングきわまる発言だった。私もまた信じがたい思いだった。
問題の記事はニューヨーク・タイムズの1996年9月16日付に掲載された。記事の筆者は東京支局長のニコラス・クリストフ記者だった。同記者は中国報道でも声価を高めたベテランのジャーナリストだった。その記事のなかではモンデール大使は以下のように語っていたのだ。
「もし尖閣諸島が(日米以外の)第三国の軍事攻撃を受けてもアメリカ軍は防衛の責任はない」
「日米安保条約は尖閣諸島には適用されないため、アメリカ軍は安保条約により介入する責務はない」
「アメリカにとって尖閣諸島の地位は相互防衛条約が存在しない台湾の地位と似ている」
この記事は東京発で、尖閣諸島をめぐる日本、中国、台湾の紛争を詳しく報じていた。その紛争へのアメリカの立場についてモンデール大使は「アメリカ軍には尖閣防衛の義務はない」と言明したのだった。この言明は日本側にはまったくの驚きであり、ショックだった。それまでの日米両政府間の対話や日本側での安保条約の解釈では尖閣諸島は当然、同安保条約第5条のアメリカの日本との共同防衛の対象になると判断されてきたからだ。
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