記事

酒を飲まない小池シンパの妻から「家飲み禁止令」 夫の愚痴は止まらなかった

1/2
緊急事態宣言発令を前に対象区域の飲食店へ酒類提供停止を呼びかける神奈川県の黒岩祐治知事(時事通信フォト)

 今から一年前、新型コロナウイルスの感染拡大によって一回目の緊急事態宣言が発令されたころ、世間の、そしてネットの厳しい目はパチンコ店に集中していた。休業する店舗が増えるに従って、営業を続ける店舗に非難が集中、極端な場合は店舗前で抗議行動をするグループもあらわれた。そしていま、非難の矛先はどこへ向かっているのか。俳人で著作家の日野百草氏が、家飲みまで禁止される例が出るなど、すっかり悪者になりつつある「酒」をめぐる混乱と困惑をレポートする。

【写真】路上飲み自粛ポスター「コロナは場所を選びません」

 * * *

「うちは家飲みも禁止になりました。自分が飲まないからって酷いものです」

 筆者の後輩、細井順矢くん(30代後半、仮名)の電話はいつもの泣き言から始まった。フリーのエディトリアルデザイナーの彼は妻あり子なし、筆者と同じ家族構成だが、その「妻」が彼の悩みだ。日ごろ、社会運動に熱心でとにかく気の強い奥さんだが、今回もまた、細井くんにある命令を下した。それが”家飲み禁止”だという。

「家で飲むのは禁止されてないはずなのに、非常事態宣言だから飲酒は禁止って無茶苦茶言うんです。ぜんぶ小池(東京都知事)のせいです」

 小池都知事だけのせいでもないし細井くんの言い分は無茶苦茶だが、彼の奥さんは小池都知事などいわゆる”活躍する女性”の熱心な信奉者だ。奥さん自身は諸事情で働いていないが、女性の権利や自由に対する意識はものすごく高い。ある程度時間のある身なので区民活動にも参加している。年金者の多い政治系のボランティアで、30代は若いほうなので重宝かられているという。いまやほぼ全員当選なので区議会議員くらいにはなれそうだ。

「議員は勘弁ですが、活動は趣味みたいなもんだから好きにして構いません。でも今回の件は極端すぎます。飲酒そのものは禁止されてませんよね?」

 それはそのとおりで、あくまで感染予防のための店舗や屋外での飲酒禁止であり、家で酒を飲むことは禁止されていない。これでは単なる恐妻家の愚痴でしかないが、筆者が気になるのは、こうした飲酒そのものに対する攻撃が緊急事態宣言下に増えつつあることだ。実際に筆者も目撃しているが、世の中にはおかしな人がいるもので、店舗や屋外での飲酒行為が咎められているだけなのに、酒そのものを禁止とわめく人がいる。

「そう、それです。うちの区でもコンビニの前で”酒なんか買うな!”って老人に怒鳴られてる若いグループがいました。誰が頼んだわけでもないのに自粛警察気取りです」

こんどは酒かよって思いますよ

 どれだけ繰り返せばいいのか、筆者も中央線沿線の交番で「あの店がまだ酒を出してるぞ! 捕まえろ!」とわめく老人を目撃した。警察官は「わかりました、見回ります」と返すだけ。それはそうだ。その時は4月24日で19時過ぎ、その居酒屋はなにも問題ない。勘違いしているのだろうが、もはや注意がしたいがために徘徊し、とんちんかんな正義を振りかざしている。

「そいつら下戸じゃないですかね、じつは妻も酒が飲めないんです。だから言うんですよ」

 ものすごい決めつけだが、細井くんの奥さんがお酒を飲めないのは本当だ。確かに、お酒を飲めない人が全員というわけではないが、筆者の先輩でまったくお酒の飲めない60代男性は「飲み会なくなって助かってる」と喜んでいた。たとえば俳句では句会のあと飲み会になだれ込む場合がある。ガンガン飲む中で酒が飲めないというのは高齢の方々にしてみれば「酒も飲めないのか」だ。「酒が飲めないあいつは野暮だ」とか平気で言う老人もいる。

「それちょっとわかります。私も実家は熊本ですから」

 そうか、細井くんは熊本だった。筆者も実父の実家は長崎、義理の両親は鹿児島出身だ。九州で酒の飲めない男に人権なんかないというのは極端かもしれないが事実だ。かつては仕事現場で酒を飲み、朝から酒を飲み、酒が飲める奴ほど偉かった。いまもそんなに変わらないことは鹿児島、妻の祖母が亡くなった数年前の大宴会で再認識した。注がれ続ける酒の量とそれを飲み干す連続はもはや格闘技だ。東京だってコロナ以前まで会社の多くは中高年管理職の音頭で酒まみれの大宴会が当たり前、いや、コロナ禍だって酒宴がバレて叩かれた政治家や官僚、タレント集団など記憶に新しい。命令無視、罰金上等で営業を続ける秋葉原の24時間居酒屋はスーツ姿のサラリーマンで大盛況だ。あれだけ客が来るなら痛くも痒くもない。

「だからこそ、酒を飲めない人からすればコロナで飲み会減って嬉しいんでしょうね。でも酒そのものが禁止なわけじゃないでしょう」

 もちろん、あくまで休業「要請」であり、「自粛」のお願いだ。とりあえず罰金はあるが実効性は低い。ネオン消灯すら「協力」でしかない。日本は憲法上、過度の私権制限はできない。たとえばフランスのように夜7時から翌朝6時まで許可証のない者は外出禁止、県境移動も許可証のない者は禁止、生活必需品を除くすべての店舗・施設を閉鎖、なんてまず無理だ。そこまで望む日本人も多くはあるまい。ましてやそれでフランスがコロナを抑え込めているかといえば死者10万人を超えている。じつのところ、日本は世界でも人口当たりの感染者数や死亡者数だけ見れば主要7カ国(G7)で最少だ。誇ることではないが、事実は事実だ。

 抑え込んでいる国といっても千葉県(628万人)より人口の少ないシンガポール(564万人)やニュージーランド(504万人)と比べるのはさすがに無茶だ。台湾ですら東京と神奈川をあわせた程度、数の問題ではないが真似のできない話であり、日本のような大国は大国なりの対策を模索するしかない。

「それなのに酒禁止って、こんどは酒かよって思いますよ。日野さんの去年の記事じゃないですけど、また悪者を作ってる」

 筆者は昨年のちょうどこの時期、コロナウイルスの元凶のように喧伝されていたパチンコ店とパチンコ業界について度々取り上げた。結局、今日に至るまでクラスターなど発生していない。とみるやコロナ禍の社会の敵はライブハウスからパチンコ店へ、その後は夜の街となり、「GoToキャンペーン」と相まって旅行業界となった。そしていま、コロナの元凶は「酒」とされ始めている。

「でも自粛警察が怖いから、みんな尻込みしちゃいますよね、映画館なんか休む必要あるんですかね」

 細井くん、話がずれるのはいつものことだがいいところはついている。2869万人を動員、興行収入396億円という日本の映画史上、空前絶後の大ヒット作『鬼滅の刃』でもクラスターなど発生していない。それでもシネコン各社は映画館の書き入れ時であるゴールデンウィークの休業を決めた。これは美談だろうか。筆者は国と自治体になめられているとしか思えない。これは百貨店もしかり。いっぽう、それほど体面を気にしない業種は強行する。正直者がバカを見るのが現状だ。

 そのくせオリンピックは「問題ない」らしい。オリンピックのために今後、海外から9万人の選手関係者が押し寄せるというのに。死者30万人、一日で4000人がコロナにより死んでいるブラジルからも、それ以上の50万人死んでいるアメリカからも、変異株を抑え込むために自粛しろ、協力しろ、我慢しろと言いながら、その元凶の国々から短期間に9万人も入国させる。聖火リレーは現在も元気に疾走中、7月まで日本中を駆け回る。

「飲酒禁止なんてエビデンスないでしょう。ランチはどうなんです? 昼のランチなんか同じように人でいっぱいですよ」

あわせて読みたい

「自粛警察」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    昭和の頑固オヤジ!JASRACと闘い続けた小林亜星さん

    渡邉裕二

    06月23日 08:04

  2. 2

    「すべては首相続投のため」尾身会長の警告さえ無視する菅首相の身勝手な野心

    PRESIDENT Online

    06月23日 08:26

  3. 3

    小中学生の観戦は止めるべし。満身創痍、痛々しいオリンピックになることは必至

    早川忠孝

    06月22日 17:54

  4. 4

    小池百合子知事、静養へ。1,400万都民の命を預かる重責に心からの敬意を

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    06月23日 08:23

  5. 5

    パソコン作業は腰への負担が1.85倍。腰痛対策には“後ろ7割”の姿勢を - 酒井慎太郎

    幻冬舎plus

    06月23日 08:40

  6. 6

    フランス人記者が菅首相の五輪めぐる答弁に憤り「私は日本国民のことを気にしている」

    ABEMA TIMES

    06月22日 10:32

  7. 7

    「ウッドショックからウッドチェンジへ」林野庁の木材利用促進に違和感

    田中淳夫

    06月22日 10:21

  8. 8

    「児童手当無し、高校無償化も対象外」高所得者への"子育て罰ゲーム"が少子化を加速

    PRESIDENT Online

    06月22日 09:33

  9. 9

    リモート営業で絶対に使ってはいけないフレーズとその理由

    シェアーズカフェ・オンライン

    06月22日 08:31

  10. 10

    競技会場での酒の販売、取りやめで最終調整 組織委

    ABEMA TIMES

    06月23日 08:17

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。