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  • 2021年05月05日 18:32 (配信日時 05月05日 16:00)

カルロス・ゴーン「私は生まれ変わった!」メールで読み解く「日産ゴーン事件」の現在

 東京地検特捜部は、2021年3月2日、日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が海外逃亡するのを手助けしたとして、犯人隠避の疑いで、米陸軍特殊部隊グリーンベレー元隊員の父子を逮捕した。

 日本側からの捜査共助要請を受け、米捜査当局が父子の身柄を拘束し、日本側へ引き渡したのだ。逃亡から約1年2カ月。ゴーン事件の捜査が再び行われ、特捜部は3月22日、父子を起訴した。

 特捜部は逃亡の経緯を明らかにすることで、ゴーンの入管難民法違反(不正出国)容疑を固める。

 ゴーンに対する捜査はルノーから刑事告発を受けたフランス検察当局でも進められている。捜査対象の1つは、2016年にゴーンがパリ・ベルサイユ宮殿で開いた結婚披露宴に会社資金を充てた疑惑。披露宴は5万ユーロ(約600万円)相当の価値があったとされる。

 ほかにもRNBV(ルノー・日産統括会社)から個人的な旅費を支払わせた疑惑や、ルノーからのオマーンの販売代理店SBAを通じた資金還流の疑惑も持たれている。

 フランスの予審判事は2021年1月、ゴーン本人から事情聴取を行う予定だったが、新型コロナの影響で延期されている状態だ。

 日本政府と特捜部は今後もゴーンの身柄確保と刑事訴追の手を緩めることはなさそうだ。

 描くシナリオの1つは、資金援助を交換条件として提示するなど外交ルートを通じてレバノン政府と粘り強く交渉していく道だ。もう1つが、インターポールを通じた国際指名手配。フランスやアメリカなど海外の捜査当局と協力し、捜査網を狭めていくことで、出国先で身柄を抑えられる可能性がある。

 ゴーンの言い分を聞くべく、米国人父子の逮捕に先立つ2020年10月下旬、ある協力者を通じてメールで、レバノン・ベイルートに滞在する本人に連絡を取った。

 200人以上が死亡した爆発事故により、ゴーン邸でも被害が出たと報道されていたので、気遣いも込めたメールでインタビューを申し入れたところ、本人のものらしきiPhoneから返信が来た。

「○○(協力者の名前)から推薦されたので、あなたの提案をOKしました」

 ここからゴーンの広報担当者を名乗る人物との間でメールのやり取りを数回重ね、12月20日、インタビューへ向けた準備として、こちらの質問状に答える形でゴーン本人からとみられる回答を得た。広報担当者からは、インタビューを受けることに前向きな考えも伝えられていた。

 だが、これ以降、ぱったりと連絡は途絶えてしまった。協力者によると、新型コロナがレバノンでも猛威を振るい、同国内で1月からロックダウン(都市封鎖)の措置が取られ、広報担当者がゴーンと連絡が取れない状態になってしまったという。

 結果として、インタビューは実現しなかったが、ゴーンがどのような回答を寄せたのか、そこから見えてくることは何か検証したい。

 まず、逮捕から2年以上経つ今の気持ちと、ともに逮捕・起訴され、公判中の元日産取締役、グレッグ・ケリーやた米国人父子など日本で訴追されている人への思いを聞いた。ゴーンの回答はこうだ。

「2018年11月19日、私の人生とそれまで知っていたすべてがひっくり返った。最初の1年は不正なシステム、私の人権を侵害するシステム、『推定無罪』が何の意味もなく、検察官が有罪を証明するのではなく、逮捕された個人の無罪を証明するのは逮捕された人次第という日本のような近代的な国では誰も直面するべきではないシステムと戦った暗い1年だった……。日本の司法は中世的で毎年何千人もの人を潰している」

 ゴーンはこれまでも日本の司法を「中世的」と批判している。取り調べに弁護士が立ち会うことができない制度や容疑を認めるまで身柄を拘束し続けることが「人質司法」と批判されることを踏まえたものだ。そして、改行して強調したのが次の一文だ。

「2年目はレバノンに戻ることで、私は生まれ変わったのだ」

 ゴーンは今も日本の制度批判を続けており、それは同時に自身の逃亡を正当化することにもなっている。日本の刑事司法制度が国連人権理事会からたびたび非難され、国内でも長年議論されていることは事実だ。取り調べや身柄拘束の在り方、あるいは刑事裁判に改善の余地があることは確かで、社会や文化の異なる外国人の立場から批判的にみられるのは仕方がない面はある。

 ちなみにゴーンは当時から連日7時間の取り調べを受けたと主張していたが、取り調べの合間に入る大使館関係者や弁護士との面会、食事の時間も算入している可能性があり、検察側は明確に否定している。

 ゴーンは西川廣人元社長の経営能力についての質問には踏み込んで答えた。

「私は、日産のリーダーシップを引き継ぐ時が来たら、それは日本人になると言った。西川氏については、私はその言葉を守った。しかし、彼がCEOに就任して以来、業績は低下し始めた。彼は明らかにひどい選択だった」

 自らCEO職を後継指名した西川について、「terrible choice」と非難した。言外に検察の捜査に協力し、自身を裏切ったことへの怒りも込められているようにも思えた。

 さらにこちらから、「逃亡や証拠隠滅の恐れなどを理由に保釈に反対した検察側の主張通り、逃亡したことについて、どのように考えているのか」とあえて聞いてみた。ゴーンは反論した。

「(事件の)証拠は何だ? 彼らは1年以上も捜索したが、何の証拠も出てこなかった。逃亡については、公正な裁判の条件が存在していれば、彼らが私の人権を侵害していなければ、検察官がこの事件に関わった裁判官と共犯で日本の法律を犯していなければ、私は日本を出て行くことはなかっただろう」

「裁判官と共犯で法律を犯していなければ」という言葉が意味するのは、裁判官が出す逮捕令状や家宅捜索令状のことを意味するとみられる。

 2020年4月、オマーン・ルートの特別背任事件での4度目の逮捕について、ゴーン弁護団は不当な逮捕、捜索、差押だと主張していた。

 この回答を得た2020年12月20日段階では、オンライン形式でインタビューを行う前提だった。2021年3月になり、あらゆるルートでのアプローチを試みたところ、「追加の質問があれば答える」との意向が確認できたが、ついにインタビューは実現しなかった。

 ある元日産幹部が明かしたゴーンの素顔についての一言が思い出される。「人間として素晴らしい人なんだと見せたい」。新型コロナの影響もあったのかもしれないが、自身の主張に自信があるならば、堂々とインタビューを受けてもらいたい。それができないのは、意地の悪い質問に眉根を寄せる顔を見られるのが嫌だからなのだろうか。

 今後もゴーン側との交信は続けていきたい。

 以上、市岡豊大氏の新刊『証言・終わらない日産ゴーン事件』(光文社)をもとに再構成しました。犯罪は本当にあったのか、日産が失ったものとは何か…事件を追い続けてきた産経新聞記者による決定版ドキュメント。

●『証言・終わらない日産ゴーン事件』詳細はこちら

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