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ネタニヤフ氏、政権樹立に失敗、イスラエル、内憂外患の混迷に - 佐々木伸(星槎大学大学院教授)

イスラエルのネタニヤフ首相は3月に行われた総選挙結果を受けた政権連立工作に失敗した。4月4日の組閣期限までに議会(120議席)の過半数の糾合に失敗したためだ。第2党の指導者が新たに組閣要請を受ける見通し。コロナ禍を克服しつつある同国だが、国内ではパレスチナ人との衝突が激化、対外的には対米関係の冷却化やイラン包囲網のほころびなどピンチに直面している。 

(peterspiro/gettyimages)

ラピド政権誕生も

政治生命の危機に直面しながらその都度復活、通算15年もの間首相の座にとどまってきたネタニヤフ首相だが、その神通力も失われたようだ。新型コロナウイルスのワクチンを持ち前の行動力で獲得。世界に先駆けて接種を進め、国内の1日の感染者を1万人台から200人規模に減少させた。首相はこのワクチン戦略で、2年間で4回目となった3月の選挙の勝利を目論んだ。

だが、選挙は首相の描いたシナリオ通りにはいかなかった。首相の率いる「リクード」は30議席を獲得して第1党となったが、宗教政党などを取り込んでも「親ネタニヤフ連合」は52議席しか確保できず、過半数の61議席には及ばなかった。一方の反ネタニヤフ勢力も、ラピド元財務相の中道政党「イェシュ・アティド」が第2党となる17議席を獲得したが、合わせても過半数には届かない57議席にとどまった。

元々、イスラエルでは単独過半数を獲得する政党はなく、連立政権が通常の姿だが、「親ネタニヤフ連合」が予想以上に不振だったのは、やはり首相が3件の汚職容疑で裁判中であることが大きい。加えて中道政党「青と白」との首相輪番制の約束を反故にするなどした首相の人柄に対する不信感が広がったことも理由だろう。

首相は必ずしも反ネタニヤフの態度を示していない右派「ヤミナ」(7議席)に政権入りを強く働き掛けた。だが、「ヤミナ」の同意を得ても59議席にしか達せず、政権樹立には3議席足りない。このため、アラブ人のイスラム政党「ラアム」(4議席)を取り込んでなんとか政権を維持しようと図った。

だが、「ラアム」は「親ネタニヤフ連合」のユダヤ教の宗教政党とは“水と油”の関係。宗教政党が猛烈に反発し、最終的に組閣することができなかった。追い詰められたネタニヤフ首相は「ヤミナ」の党首、ベネット元国防相に首相を1年で交代する輪番制を提案したり、首相を直接選挙で選ぶ「首相公選制」をぶち上げたりしたが、うまくいかなかった。

首相の率いるリクードは組閣期限切れ直前に声明を発表し、ベネット元国防相のせいで右派政権を樹立できなかったと非難した。首相が組閣に失敗したことで、同国のリブリン大統領は3日以内に、次の首相候補に組閣を要請するか、議会に組閣を委ねるかを選択しなければならない。エルサレム・ポスト紙などによると、大統領は5日朝にも政党指導者らと会談、ネタニヤフ氏に続いて最も政権樹立の可能性のあるラピド元財務相に組閣を委ねる見通しだ。

連立政権のカギを握る「ヤミナ」のベネット元国防相は政権参画の準備に入ったとも伝えられており、ラピド内閣が誕生する可能性が出てきた。ベネット元国防相とラピド元財務相の間では、閣僚ポストの配分などをめぐって大きな隔たりがあるとされており、連立交渉の先行きは予断を許さない。交渉が長期化すれば、再選挙になだれ込むこともあり得よう。

イランとサウジの和解を懸念

短期間で5度の総選挙ということになれば、それは政治の混迷を示すものに他ならない。だが、コロナ禍が落ち着きつつあるというものの、イスラエルは内憂外患に直面しており、国民の間からは政治不信が高まっている。国内的な懸念材料はパレスチナ人との対立が激化し、「大規模な衝突や戦争」の恐れが出てきたことだ。

きっかけはイスラエル治安当局が4月、エルサレム旧市街地のダマスカス門の立ち入りを禁止し、これにパレスチナ人が激しく反発、連日の衝突に発展した。イスラム教徒はラマダン(断食月)の最中にあり、飲食が可能になる日没以降にダマスカス門の周辺に集まるのが恒例になっていた。22日にはパレスチナ人と治安警察の衝突で、パレスチナ人100人以上が負傷、イスラエル側にも数十人のけが人が出た。

これにユダヤ人の極右過激派がエルサレムで反パレスチナ行動を激化させ、混乱に拍車を掛けた。こうした中、パレスチナ自治区のガザから24日、イスラエルにロケット弾36発が撃ち込まれ、イスラエル空軍機が空爆で応酬するなどエスカレート。イスラエル軍のガザ侵攻など大規模な衝突に発展した「過去の紛争の経緯と酷似してきた」(イスラエル紙)状況になってきた。

国内の治安悪化に加え、イスラエルを取り巻く対外情勢も好ましい展開ではない。トランプ前米政権の蜜月時代とは異なり、対米関係はバイデン政権になって冷たいものにガラリと変わった。イスラエルの対外的な最大の脅威はイランだが、バイデン政権はイスラエルの反対を押し切ってイラン核合意への復帰交渉を加速させている。イスラエルの焦燥感は深まる一方だ。

加えてアラブ諸国との国交の最重要国と見なしているサウジアラビアがイランとの和解協議に踏み切ったことはイスラエルにとっては衝撃だった。アラブ世界に強い影響力を持つサウジはトランプ前政権とイスラエルが「イラン包囲網」の中核と想定していた国だったからだ。

米英紙などがこれまでに伝えたところによると、2016年に断交し、敵対関係が続いてきたサウジとイランの高官が4月9日、イラクの首都バグダッドで秘密裏に会談した。会談したのはサウジ側が情報機関のハリド・ホメイダン長官、イラン側から最高国家安全保障会議のサイード・イラバニ副事務局長だったとされる。イエメン戦争などが議題になったという。

サウジを牛耳っているムハンマド皇太子は4月末の国営テレビとのインタビューで、「イランの一部否定的な行動には反対だが、良好で前向きな関係の構築を希望している」と敵対姿勢を完全に転換させた。この背景には、バイデン政権が一部武器売却を停止するなどサウジに冷淡な対応をしていること、米軍が中東から撤退する中、米国依存だけではイランの脅威に直面できないことなどがあると見られている。

イランの核武装などを阻止するため、「イラン包囲網」の強化を狙っていたイスラエルが戦略の練り直しを迫られることになったのは間違いない。今後、ネタニヤフ氏が奇跡的な粘り腰を発揮して政権を維持するのか、新政権の発足となるのかは不透明だが、政局の混迷に加え、内憂外患のイスラエルの悩みは深い。

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