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「日本人には不可能」そんな世評を覆した松山英樹の優勝は"まぐれ"ではない

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ドライバーでもスピンコントロール

ゴルフは、ただ真っ直ぐにボールが飛べばいいというものではない。自在に曲げられ、高低差も付けられ、グリーンに弾んでから何バウンドで止まるかまで計算できるショットが必要なのだ。それが即ちスピンコントロールである。これができればあらゆる風に対処できるし、高速グリーンにも、厳しいピンポジションにも対応できる。テニスと同様にゴルフはスピンのゲームなのである。

松山のボールがもしも色分けされていたら、どのような回転がかかっているかわかるだろう。サッカーでも無回転でシュートしたり、カーブを掛けてゴールを狙ったりするように、自在に回転を操ってピンに寄せるのである。

3日目の17番の奥のピンを松山はピンハイに打ってピタッと止めたし、4日目の7番ではグリーンのスロープを使って寄せている。9番ではバックスピンをかけてピンに寄せてバーディを奪った。

それを可能にしたのは松山がオーガスタの複雑な傾斜のライからでも完璧に打てるからだ。ライを見極め傾斜を把握し、ターフを取ってバックスピンをかけたり、逆に取らずに転がしたりする。ピンまでの距離を計算し尽くして打てるのだ。

鉄壁の守りを固め攻める

2日目に姿を消したロリー・マキロイは新しいコーチを迎えて再起を図ったが「平らなライでは上手く打ててもオーガスタは傾斜だらけでミスが出た」と肩を落とした。飛ばし屋のデシャンボーも初日に76を叩いて早くも優勝戦線から脱落したが、「オーガスタは飛ばしても下り傾斜から上り傾斜のグリーンに打ったり、その逆もある。風も吹くし距離感が難しい」と頭を抱えた。

打ち下ろしの10番は左足下がりのライから高いグリーンに打ち上げなければならない。13番は前上がりのライからフェードを打てればイーグルチャンスになる。こうしたことが多々あるオーガスタで松山はミスのないゴルフを展開できたのだ。

スピンコントロールはアプローチでも要求される。強いと思ったアプローチがキュキュッとスピンが効いてピンの真横。ふわりとあげて転がしてピンの横。それを様々なライから完璧に行える。3日目18番、フェアウェイバンカーから打った松山のショットはグリーンを大きくオーバーして、解説の中嶋常幸が「最高でも2mにしか寄せられない」と言ったのを手前から転がして50cmに寄せた。

最終日の13番グリーン奥から左足下がりのラフからのアプローチも、フェースを空に向けるほど開いてふわりとボールを浮かせて転がし、ピンの横に付けバーディを奪った。アプローチで鉄壁の守りを固めただけでなく、攻撃までできたのである。

松山はドライバーショットでもスピンコントロールを求めている。「飛距離よりも操作性」と松山はスリクソンのZX5を信頼し愛用している。最終日6打あった2位との差が2打まで追い上げられていた終盤の17番で完璧なドローを放ち、その直後の18番では逆に完璧なフェードボールで狭い樹幹を潜り抜けてフェアウェイをとらえた。これはまさに優勝を決めるウィニングショットだった。

晴れた日にゴルフ場
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

お尻の全く動かないパッティング

忘れてはならないのがパッティングである。松山は元来パットの下手な選手ではなかった。ところがPGAツアーではずっとパットランキングが100位台という低迷ぶりだった。

マスターズに優勝するには超高速グリーンを克服できるパット力が絶対に必要である。今年初めてコーチを付けたが、聞こえてくるのはスイングのことばかり。パットに関しては試行錯誤を繰り返しているということだけ。

とても気がかりだったが、今回は初日からパッティングが安定していた。1mのショートパットは外さない。ワンピンの入れ頃外し頃のパットも決めてくる。初日2位発進ができたのは、これまで目を被うばかりの悲惨なパットがまったく姿を消したからだ。

とはいえ、水物なのがパッティング。「今日入っても明日入るとは限らない。だから眠りたくないの」と言っていたのは岡本綾子。松山のパットがこのままの良い状態をキープできるか大変に心配したが、4日間ともしっかりと入れ込んだ。そこには揺るぎない自信が覗えた。

解説の中嶋常幸が「お尻がまったく動いていない」と言ったが、まさにその通り。'81年の全米オープンでロングパットを次々と決めてジャック・ニクラウスと死闘を繰り広げて2位になった青木功は東洋の魔術師と呼ばれたが、お尻がまったく動かないパッティングだった。背中側から見るといつ打ったかまったくわからない。

松山の自信に溢れたパッティングは、コーチとの試行錯誤がマスターズ本番に間に合ったということなのだろう。

「オールドマンパー」を全うできた松山

次に「相手は人間ではなく仮想のパー爺さん」であるということ。つまり戦う相手は自分自身だということ。自分のゴルフをやりきれるか。自分を信じられるかが「オールドマンパー」の極意である。松山は最後までそれを全うできた。

そのことが最も試されたのは最終日である。3日目を終えて首位に立ち、そのまま逃げ切れるほどマスターズは甘くない。ボビー・ジョーンズは言っている。

「オーガスタのバックナインは30も出るし、45も叩く。だから多くのドラマが生まれ、逆転優勝がある」

松山は最終日2位と4打の差を付けてはいたが、ジョーンズの話しからすればその差はあって、ないも同然。かつて世界最強と言われたグレッグ・ノーマンは最終日6打差がありながらニック・ファルドに逆転負けを喫している。追う者は失うものは何もない。優勝だけを目指して果敢に挑戦できる。一方、首位に立つ者はどうしても守りたくなる。そこに逆転ドラマが生じるのだ。

私はこのことに関し、過去のデータから追う者は最高でも65しか出せない。故に松山は69を出せば負けないと考えていた。前半をパープレーか1つ伸ばし、後半で2つ伸ばすことは必ずできる。慌てず、騒がず、欲をかかなければ問題なく優勝できると踏んでいた。実際、このことを松山も考えていた。「69か68を出したい」と。

ゴルフ場
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ClarkandCompany

理想的な展開

最終日、松山はスタートこそ緊張から3番ウッドのティショットを右に曲げて林に入れ、出すだけの3オンでボギーとするが、2番で完璧なティショットを放ち、バンカーから絶妙に寄せてバーディをとってバウンスバック。これで気持ちが落ち着き、パーを重ねながら、8番、9番でバーディを奪う。理想的な展開の「オールドマンパー」だった。

2位との差を5打と広げ、何が起こるかわからないバックナインに突入。松山は10番を穏やかにパーで通過し、池だけは避けたいアーメンコーナーで11番を安全に右サイドからアプローチしてパー、12番はピンを目がけずにグリーンセンター狙いが少し大きくて奥のバンカーに入れてボギーを打つが、差は5打のまま。

13番のティショットを右の木に当てるものの運良く出てきて、セカンドショットも大きくあわやゼリアの園に飛び込むショットが土手に跳ね返りラフ。ここから絶妙なアプローチでバーディを奪い、差を縮まらせなかった。運もあり技で凌いだ。

しかし15番でグリーンオーバーから16番の池に入れるハプニングが生じる。セカンドショットをなぜ前日のようにフェードで打たなかったのか。私は故・中部銀次郎の「サンシャインアゲンスト」という言葉を思い浮かべた。15番のセカンドは強烈な逆光となる。松山はピンが遠くに見え、思わず強く、それもドローで打ってしまったのではないか。

ミスを想定しての準備

予想外のことに胸が締め付けられていた私が驚いたのは、その後の松山の行動だ。競技委員を呼び、しっかりとドロップ位置を確認してロングアプローチを放った。狙い通りのグリーンエッジでボギーに収めた。

冷静な松山のトラブル処理。それはあの16番の池縁からアプローチの練習をしていたことに起因していた。つまり、池に入れることをあらかじめ想定していたのだ。

確かに一昔前は長いクラブでしか2オンを狙えずに16番の池に入れることはあったが、今はショートアイアンでもグリーンを狙える時代。松山が池を想定していたとは考えられなかった。しかし、そうであれば3日目の18番のグリーン奥からのアプローチも練習していたことになる。

松山は試合前に言っていた。「しっかりと準備したいと思います」と。

この言葉は我々が想像だにしない場所からであっても、松山にとっては僅かでもあり得るのであれば練習していたことになる。「ゴルフはミスのゲーム」と言ったのは青木功だが、まさに起きうるあらゆるミスを想定しての準備だった。だからこそ、異常事態であっても動じなかったのである。

最後まで自分を信じ切れた絶対的な自信

松山のマスターズ優勝は奇跡ではない。

もちろん13番の2つの幸運があったからと言う人もいるだろう。しかし、その幸運は誰よりも遅くまで練習をしてきた松山の一途な姿を神様が見ていたからであろうし、それ以上に壮絶な練習とトレーニングを積んで磨き鍛え上げてきた技と体力、さらに入念な準備から生じる、自分自身への信頼の賜であったことは事実だろう。最後まで自分を信じ切れた絶対的な自信が、マスターズ優勝を現実のものにさせたのである。

それは松山流の「オールドマンパー」の構築であり、これを造り上げたからにはボビー・ジョーンズのような破竹のメジャー優勝、グランドスラム達成も大いにあり得ることであると、私は信じるのである。

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本條 強(ほんじょう・つよし)
『書斎のゴルフ』元編集長、スポーツライター
1956年東京生まれ。スポーツライター。武蔵丘短期大学客員教授。1998年に創刊した『書斎のゴルフ』で編集長を務める(2020年に休刊)。倉本昌弘、岡本綾子などの名選手や、有名コーチたちとの親交が深い。著書に『中部銀次郎 ゴルフの要諦』(日経ビジネス人文庫)、『トップアマだけが知っているゴルフ上達の本当のところ』(日経プレミアシリーズ)、訳書に『ゴルフレッスンの神様 ハーヴィー・ペニックのレッド・ブック』(日経ビジネス人文庫)など多数。
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(『書斎のゴルフ』元編集長、スポーツライター 本條 強)

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