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親中派が勢い付き縮む香港の表現空間 艾未未作品は「中国への憎悪を掻き立てる」? - ふるまいよしこ

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報道の自由への制約が顕著になる香港

香港の法廷は4月22日、政府が公開している車両所有者データベースに公共放送局「香港電台」(以下、RTHK)の番組制作スタッフが「虚偽の情報を使って」アクセスしたとして、同番組のプロデューサーに罰金6000香港ドル(約8万3000円)の有罪判決を言い渡した。メディア関係者の間では、政府(あるいは権力というべきか)の側がますます報道に規制をかけていることに不満が広がっている。

昨年11月に同プロデューサーが突然逮捕されたのをきっかけに、これまで香港政府が公開し、メディア関係者が取材情報源の一つとして長年利用してきた、婚姻登録や車両ナンバー、不動産売買記録、企業情報などの社会情報データベースの利用規約が2019年末に書き換えられ、「報道目的」という選択肢が消えていることが明らかになった。今回の有罪判決はまさに、同プロデューサーが担当していた番組のスタッフが、虚偽の目的を打ち込んで情報を取得したことを犯罪とみなしたことになる。このプロデューサーは実際に操作を行ったスタッフ名を明かさず、その責任をかぶった。

Getty Images

規約の変更の意図を問われた政府側は、「『起底』によるプライバシー侵害を防ぐため」と説明している。「起底」というのは広東語で「来歴や素性を調べる」という意味だ。香港ジャーナリスト協会はこの措置を「報道の自由を侵害」と激しく非難している。

今回プロデューサーが有罪判決を受けた番組でもまさに、データはその「起底」に使われた。2019年7月21日に郊外の地下鉄元朗駅で起きた無差別市民襲撃事件で、現場付近に取り付けられた防犯カメラから襲撃に使われた武器を運んできた車両を割り出し、その持ち主が親中派の地元有力者だったことを突き止めたのである。この事件は現場に居合わせた市民による多くの襲撃者の写真や動画が残っているにもかかわらず、警察による全貌究明が遅々として進まないことに市民は苛立っており、筆者も番組をリアルタイムで観たが素晴らしい検証ぶりだった。

しかし、放送後に逮捕されたのは番組制作者で、番組が突き止めた相手はいまだに身柄も拘束されていない。また同プロデューサーの逮捕直前には、親中紙がやはり同データベースを利用して民主派議員所有の車両情報を暴露しているが、そちらはおとがめなしのままでほって置かれている。利用規約の改訂は「プライバシーを守る」どころか、明らかに政府権力による恣意的な取り締まりに利用されている。

昨年6月の香港国家安全維持法(以下、国家安全法)施行以降、香港では大規模な政府への抵抗活動はほぼ起きていない一方、新型コロナウイルス対策による入境規制が続いて海外メディアが入って来れない中、報道の自由や表現の自由への制約がますます顕著になってきた。

政府管轄下のRTHKでもこの3月に任期がまだ約半年残っていたジャーナリスト出身の局長が突然、メディア経験のまったくない政府公務員にすげ替えられた。新局長は就任後すぐさま全番組の内容チェックを始め、主権返還前から続いてきた、社会問題を取り上げる硬派の人気番組が放送中止になったり、予定されていた内容が放送日になって急遽入れ替えられるという事態がほぼ日常茶飯事となっている。

香港デモ描いたドキュメンタリー作品の上映会が中止に

そのかたわら、民間では今年1月に「香港映画評論学会」が昨年度の映画大賞にドキュメンタリー作品「理大囲城」を選出して大きな話題を呼んだ。

Getty Images

というのも、すでに27年目となった同大賞にドキュメンタリーが選ばれるのは初めて、さらにそのテーマは2019年11月に警官隊に追い詰められた活動家らが香港理工大学に逃げ込み、居合わせた高校生を含む市民らと16日間の籠城を迫られた姿をとらえたものだったからだ。また、同作品がそれまで公開上映されておらず、香港アートセンターで限定的に5回上映されたのみという点においても異例だった。

後で知ったのだが、実は筆者の古い友人もその評定に関わっていた。彼によると、同学会では政府の芸術発展局の資金支援を受けており、同作品の選出に「支援を受けられなくなるのでは」という声もあった。しかし、最終的に2019年に市民が高い関心を寄せ続けたデモをまざまざと思い起こさせる同作品を「ここで選ばなければ、我われは一生後悔することになる」と、大賞授与を決めたという。

社会はこの英断に大きく湧いたが、その心配は的中した。まず受賞記念上映会が中止に追い込まれ、改めて上映スケジュールが組まれたアートセンターでの上映も中止に。続いて親中派メディアと議員が、同作品の配給元が芸術発展局の資金支援団体であることを声高に指摘し、「公金支援」を問題視し始めたのである。

同発展局を管轄する民生事務局は議会で詰め寄る親中派議員に対し、同作品が政府の映画等級チェックでは「上映禁止作品」に指定されていないことを主張する傍らで、「もし同作品が正式に違法だと認定されれば、厳正な処理を行う」と答弁するにとどまった。その一方で、支援機関に対する「違法行為」への注意喚起も行われ、今後の支援査定が活動の詳細な内容にまで及ぶのではないかと関係者は懸念する。

親中派の目はさらに公的資金が投入された文化や芸術プロジェクトにも注がれ始めた。

艾未未作品は「中国への憎悪を掻き立てる」と親中派議員が主張

3月17日、親中派の容海恩・議員が立法会に出席した林鄭月娥・行政長官に対し、今年11月に開館する予定の視覚芸術博物館「M+(エム・プラス)」(以下、「M+」)に、「国家の尊厳を侮辱する」芸術品が所蔵されていると指摘。「中国への憎悪を掻き立てる作品が展示されるのを防ぐべきだ」と求めた。

同議員が名指ししたのは、中国の現代芸術家・艾未未(アイ・ウェイウェイ)の作品「透視研究」シリーズの一作「天安門」(M+の公開アーカイブ )で、艾が天安門に向かって中指を突き立てている写真作品だ。議員は「中指を突き立てるのは低俗な表現であり、また明らかに中国の政権への不満を表明した作品であり、国家安全法違反の疑いがある」と述べた。さらに、公共資金を使って運営されるM+の収蔵作品を改めてチェックすべきだと主張した。

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M+は香港九龍半島の西側を埋め立てて作られる西九龍文化区の主要建築物の一つで、20世紀以降のビジュアル・アート、デザイン、建築、映像を収集、展示することになっている。特に21世紀に世界的ブームを起こした中国人作家をはじめとする東アジアの作家の作品収集に力を入れており、その予算や集めたスタッフのレベルや規模などからこうした分野における世界最大の博物館となるとみられ、その開館は世界中の美術関係者の期待を集めている。

そのコレクションの中核となっているのが、中国アートの著名なコレクターであり、元スイス駐中国大使のウリ・シグ氏から1.7億香港ドル(約24億円)で購入した43点と寄贈された1500点余り(同「ウリ・シグ・コレクション」 )の作品だ。問題視された艾の作品は寄贈分に含まれており、同議員はこの他にも同コレクションの中には裸体を描いたり、性器をデフォルメした作品が含まれていることを問題視し、「子供たちの教育に影響する」という理由を上げて「公的資金で建てられたM+が国家に不敬な作品を展示すべきではなく、また市民が不安を感じるような作品は展示品から引っ込めるべきだ」と主張した。

これに対して、芸術関係者のみならず親中派関係者からも、「容議員は現代芸術を理解していないのではないか」「芸術は政治を回避できないものなのに」「違法か否かは裁判所が決めることであり、疑惑だけで正当な討論の場を潰すべきではない」という声も上がっている。また、「芸術は主観的なものであり、艾の作品が嫌いならそれでよい。だが、国家安全というレベルからそれを批判する必要はない」とメディアに漏らした親中派関係者もいる。

しかし、実際にはこれらの反対の声や不満表明がすべて匿名で行われていることを見ても、「国家安全法」が今の香港社会全般に与えている緊張感が伝わってくる。

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