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コロナによって変わった世界の見方 対面の禁止が人々にもたらした息苦しさの帰結

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社会がこのように不意打ちを食らって動けなくなるという事態を通して、学ぶべきことは数多くある。これまでも、デイヴィッド・グレーバー、エルネスト・ラクラウ、ポール・メイソンなど多くの論者によって指摘されてきたが、資本主義は危機的状況に弱いのである。いまの日本もそうだが、感染を防ごうとした際、経済もまた止まってしまうのであり、その際にかかる費用の損失、しわ寄せはそれぞれの会社や個人が自ら負担するほかない。数多くの企業や商店、飲食店が閉店し、たくさんの失業者が出てしまった。資本主義の何と弱いことか。このように脆弱で欠点だらけのシステムを、なぜわれわれはありがたがっていたのだろう。

こうした資本主義の弱さについてユニークな指摘をしているのは、社会学者の大澤真幸である。彼は、1991年のソ連崩壊によって資本主義の勝利が決定づけられたという歴史的前提に疑いを抱く。実は資本主義とは、さほど優れてはいないのではないかと大澤は述べるのだ。

リーマンショックを乗り越えるためにとられた政策の基本は、銀行や大企業に多額の公的資金を注入することだった。ということは、このとき銀行も大企業も、事実上、国有であるかのように扱われた、ということである。企業の国有化は、しかし、社会主義体制のやり方ではないか。二〇世紀の末期に、資本主義は、長年のライバルだった社会主義に勝利した。この勝利は、資本主義よりも優れた経済システムはありえないことの証明として受け取られた。ところが、その資本主義が、危機を乗り越え生き延びるためには、自らがこの地上から追い払った社会主義の方法を導入するしかなかった、ということになる(『新世紀のコミュニズムへ』NHK出版新書)

資本主義はそれ自身の力で危機を乗り越えられず、ときに社会主義の助けを求めること。日本でも一律の給付金が配られたが、これもまた共産主義的な手法である。給付額の多寡はともかく、もうすでに一度は配ってしまったのであり、今後2度目、3度目の給付があれば、それがベーシック・インカムのスタート地点になり得る可能性がある。

結局のところ、資本主義はそれほど優れておらず、危機に対処できない経済システムだという結論にはならないだろうか。本年度のアカデミー賞作品賞に選ばれた『ノマドランド』も、リーマンショックで住む家を失った高齢者たちが、共産主義的なコミュニティを作ってお互いを助け合う様子を描いた作品だった。アメリカには長く共産主義を嫌う文化があったが、現実に貧困や危機が起こった際、人びとは自然と共産主義者のようにふるまい始めるのである。それ以外に生き延びる方法がないためだ。こうしたメッセージ性を持つ映画が作品賞を取ることにも、変化のきざしが見えてはいないだろうか。

そうはいっても「では今日から資本主義を止めましょう」という話にはならないし、どのような社会が人びとにとってより幸福度が高いのかは、時間をかけて手探りで答えを見つけるしかない。大澤は「たとえば、地球規模のほぼ全面的な経済の停止。こんなことを、もし数ヶ月程度のインターバルで繰り返さなければならなくなったらどうだろうか。もし緊急事態やロックダウンが、ほぼ恒常化されたらどうだろうか。資本主義は本当に死ぬだろう」(前掲書)と述べた。「地球規模」とまではいかなくとも、ごく身近なできごと、たとえば家の近くにあった飲食店や商店の相次ぐ閉店を見ているだけでも、いまわれわれは岐路に立っているのだと認識させられる。

Getty Images

コロナによって世界の見方が一変したと、私自身は強く感じた。家から外へ出て人と会い、顔を合わせて話すことについて、これまでと同じように考えることはできなくなってしまった。これまでにも社会を揺るがす事件は多くあったが、意識の変容においていえば、コロナはそうした事件以上に社会の見方を変えるものだと思う。

いまは、この憂鬱な日々がいつ終わるのかとそればかり考えているが、前述したジジェクはこう述べている。「むしろ、我々は想定を変えるべきだろう。はっきりした大きなピークが来て、そのあとは徐々に通常に戻っていくと期待するのはやめよう。このパンデミックを堪えがたいものにしているのは、たとえ完全なカタストロフが訪れなくとも、状況がいつまでも進展しないことだ。(…)我々皆が密かに願い、常に考えるのは、ただ一つ──いつ終わるのかだけである。しかし、終わらないのだ」(『パンデミック2』Pヴァイン)。世の中の仕組みを根底から変えなければ、社会は持続できない。どうやらわれわれは、ついに覚悟を決めなくてはならないようである。

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