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  • ロイター
  • 2021年05月02日 08:10 (配信日時 05月02日 08:07)

焦点:「ハイチ社会は地獄に落ちた」、誘拐激増でおびえる市民


Andre Paultre Sarah Marsh

[ポルトープランス 26日 ロイター] - ハイチ国内で誘拐事件が多発している。だが、誘拐が日常茶飯事になりつつあるこの国でさえ、5歳のオルスリナ・ジャヌースちゃんの事件は大きな怒りを呼び起こした。

オルスリナちゃんは1月末、首都ポルトープランスの街路で遊んでいるところを連れ去られた。母親のナデジ・サントゥイレールさんによれば、絞殺されたと見られるオルスリナちゃんの遺体が発見されたのは1週間後。サントゥイレールさんはピーナッツ売りで生計を立てており、4000ドル(約44万円)の身代金を払う余力はなかった。サントゥイレールさんが地元のいくつかのラジオ局の取材に応じ、葬儀費用の寄付を訴えたことで、その嘆きは電波を通じて拡がった。

サントゥイレールさんは今、娘の命を奪ったギャングから殺害予告を受けて身を隠している。「私がラジオに出演して事件を非難したので狙われている」と彼女はロイターに語った。

サントゥイレールさんが暮らす貧しい犯罪多発地域の警察は、ロイターの取材に対し、事件は捜査中だと述べた。

これまでも深刻な政治不安と経済不振のため混乱に陥ってきた人口約1100万人のカリブ海の島国ハイチは、誘拐事件のまん延という新たな危機に見舞われている。国連がまとめた公式データによれば、昨年発生した誘拐事件の件数は2019年の3倍に当たる234件だった。

だが、実際の件数はもっと多い可能性が高い。ポルトープランスの非営利組織「人権分析研究センター」所長のギデオン・ジャン弁護士によれば、犯罪組織による報復を恐れて、誘拐事件を通報しない住民も多いからだ。ジャン氏は、同センターの記録では昨年796件の誘拐事件が発生していると語る。

ハイチ国家警察にコメントを求めたが、回答は得られていない。ジョヴネル・モイーズ大統領は、政府は最大限の努力を行っており、誘拐対策に投入するリソースを強化していると繰り返し述べている。もっとも同大統領は4月14日、「誘拐が日常茶飯事になっており」、長引く治安悪化への取組みが「効果を上げていない」と公式に認めている。

人権活動家やハーバード大学法科大学院の国際人権クリニックによる新たな報告書は、モイーズ政権が権力維持と反対派抑圧のために暴力的な犯罪組織と手を組んでいると主張している。野党勢力はモイーズ大統領の辞任と暫定政権への権力委譲を要求しており、暫定政権のもとで自由で公正な選挙を確保できるような国内の安定が達成されるまで、9月に予定されている大統領選挙・国会議員選挙を延期すべきだと主張している。

ハイチのクロード・ジョゼフ首相代理は、こうした告発や報告書の指摘を否定。選挙実施を控えてモイーズ政権を揺さぶるために反民主主義勢力が暴力を煽り立てていると述べ、「彼らは選挙実施を阻止するためにギャングを煽動している」と、ロイターに語った。

犯罪組織は、わずかな身代金を目当てにサントゥイレールさんのような貧しい人々を標的にする場合もある。だが誘拐の被害が多いのは、教師や聖職者、公務員、小規模事業の経営者といったハイチの中流階級だ。この層はボディーガードを雇えるほど豊かではない一方で、それなりの資産や人脈があるため身代金を集められるからだ。

最近の事件で最も注目を集めたものの1つが、4月11日、首都の北東に位置する街クロワ・デ・ブーケで、カトリックの神父5人、修道女2人、一般人3人が誘拐された事件だ。誘拐された神父のうち4人が所属するフランス系の宣教師団体であるサンジャック聖職者協会が25日に出した声明によれば、グループのうち4人はその後解放されたが、6人は行方不明のままだ。身代金支払いの有無について、同団体の関係者はコメントを控えるとしている。

ポルトープランスのカトリック大司教区は4月初めの声明で、「ここ最近、私たちはハイチの社会が地獄へと墜ちていくのを目にしている」と述べている。

<「誘拐が経済を台無しに」>

ハイチ国内で誘拐や犯罪組織による暴力が急増した最近の例は、2004年、反乱によりジャンベルトラン・アリスティド大統領(当時)が退陣し、国連平和維持軍の派遣に至った時期だ。

人権活動家らは、2019年10月に国連平和維持軍が撤退した後、ギャングによる犯罪が再び増加したと話す。ハイチ経済が動揺している時期だけに、誘拐に旨みがあったのだという。

また人権活動家らは、政治的要素もあると指摘する。モイーズ政権は、野党勢力の地盤とされる地域を威嚇し、この3年間国内を揺るがせている抗議行動に関連して反体制派を抑圧するために、犯罪集団を利用していると彼らは主張する。

ハーバード大学法科大学院国際人権クリニックが4月22日に発表した報告書は、2018年から20年にかけてギャング主導で行われた貧困地域への3件の襲撃で少なくとも240人の住民が死亡しているが、その「計画、実行、隠蔽に政府上層部による関与」があったと主張している。この報告書は、これらの襲撃事件に対するハイチ国内及び国際的な人権専門家による調査に基づいている。報告書は、政府がギャングに資金、武器、車両を供与し、訴追から守ったと指摘している。

米財務省は12月、襲撃事件の1つについて計画を支援したとして、ハイチの有名なギャング首領とモイーズ政権の元当局者2人を制裁の対象に加えた。3人とも関与を否認している。

ポルトープランスで活動する「人権擁護国民ネットワーク」のプログラム・マネジャーであるロージーオーギュスト・デュセナ氏によれば、誘拐の頻発犯罪組織が野放しになっていることの当然の結果であるという。

「私たちが問題にしているのは、体制が自ら武装ギャングと連携している点だ」とデュセナ氏は言う。

ロックフェラー・ヴァンサン司法公安大臣は、政権とギャングとの連携は一切ないと否定する。ヴァンサン氏は12月、ロイターに対し、誘拐の増加は「混沌の印象を生み出して」モイーズ政権の足を引っ張ろうとする政敵の企みだと語った。

ハイチ国民の多くは誘拐の増加に怯えている。7つの民間企業団体のトップは今月、犯罪増加は「容認できないレベル」に達したとする共同声明を発表した。声明は、ハイチの治安悪化に抗議して4月15日に行われた全国的なストライキを支持している。

ハイチのエコノミストであるエッツァー・エミール氏は、「誘拐は経済を台無しにしている」と語る。同氏は、観光・エンターテイメント部門が萎縮していると指摘する。

モイーズ政権は、犯罪行為を止めるために懸命に取り組んでいると主張する。2年前、同政権はギャング構成員の武装解除と一般社会への復帰を目的とした委員会を復活させた。この1年、政権は警察の予算を増額し、かつて誘拐事件の増大に悩んでいたコロンビアに助言を求めた。3月、ハイチはこの問題に取り組むために誘拐防止対策本部を設置し、身代金のマネーロンダリングの追跡といった措置を講じた。

それでも同月には、誘拐の被害者が監禁されることの多いスラム地区で発生した犯罪容疑者との銃撃戦で、4人の警察官が殉職した。政府はギャングが幅を利かせている地域に1カ月の非常事態を宣言た。だが、誘拐はなおも増え続けている。

モイーズ大統領は今年9月の大統領選挙で再選をめざさないとしており、野党からの早期退陣要求を退けている。同大統領は4月14日、「治安悪化という切迫した問題」への対処を改善するため、挙国一致政権を成立させたいとする声明を発表した。

<フードをかぶせ、銃を突きつけ、拷問>

だが、多くのハイチ国民は依然として懐疑的で、不安に苛まれている。

被害者の1人は29歳の医師だった。昨年11月、ポルトープランスの病院での夜勤を終え、自分の車で帰宅中のところを誘拐された。彼は匿名を条件に、ロイターに自分の体験を語った。

夜明け頃、武装した4人の襲撃者が彼を後部座席に押し込み、頭にフードを被せ、銃を突きつけて車を走らせたという。最終的に誘拐犯が彼を放り込んだ部屋には、先に拉致されていた男性1人、女性2人の被害者がいたという。

医師によれば、誘拐犯らは、解放されたければ家族に電話して50万ドルの身代金を用意させるよう命じた。最初に電話をした2人は、そんな大金は払えないと答えた。誘拐犯らは医師を殴りつけ、脅しを口にした。

「3人目に電話して満足のいく回答がなかったら殺す、と言われた」

医師のガールフレンドによれば、彼女と他3人の友人がギャングと交渉したという。他の誘拐犯の標的になることを恐れて、いくら払ったかは明らかにしなかった。

医師は、自らの誘拐事件について国家警察の誘拐対策部門に通報したという。同部門にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

一緒に監禁されていた誘拐被害者がどうなったのかは分からない。誘拐犯らは、彼らの家族がまだ身代金を払っていなかったため、溶けた発泡スチロールを被害者の肌に浴びせて拷問していたという。

幼い娘を誘拐・殺害されたサントゥイレールさんは、誘拐事件についてラジオ番組で話した後、いつも背後を気にしているという。

「(誘拐犯は)今度会うことがあったら殺してやる、と私に言った」と彼女は明かした。

(翻訳:エァクレーレン)

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