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政治利用と国民管理。禁酒法時代と酷似する酒類提供禁止への違和感 - 坂口孝則

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(写真:iStock.com/Berezka_Klo)

酒への取り締まりが一気に厳しくなった三度目の緊急事態宣言。1920年代にアメリカで実施された禁酒法を思い浮かべた人も多かったかもしれません。「禁酒法時代のアメリカと、今の日本があまりに似ている」ことに危機感を抱くコンサルタントの坂口孝則さんよりご寄稿いただきました。

路上で飲む若者はまだ良心的

日本政府は4月25日に緊急事態宣言を発出し、対象は東京・大阪・京都・兵庫で期限は5月11日までの17日間となった。今回は、酒類を提供する飲食店には休業を要請している。それ以外の飲食店には午後8時までの営業短縮を要請した。

あくまで要請ではある。ただ、酒類を提供する多くの飲食店は、休業かあるいは酒類の提供自粛の決定をした。そのいっぽうで、酒類の提供を続ける店が報道されたり、あるいは自粛警察から攻撃されたりしている。

また路上で飲んでいる若者たち(彼らは良心的だ。あえて大人たちに目のつくところで飲んでいる。多数の狡猾な世代は、自宅で知人らと飲んでいるだろう)の存在が報じられた。

緊急事態宣言で飲食店が狙い撃ちのように自粛対象となっていたものの、今回の緊急事態宣言では、さらに酒類の提供まで行政が踏み込んだので反響は大きかった。禁酒法の再来と断じるひとたちもいる。もっとも禁酒法で有名なのは米国で、州単位・連邦政府単位でさまざまな禁酒法や飲酒を厳しくする立法がなされてきた。

米国で行われてきた禁酒法と当時の反応を調べてみると、あまりに現在の日本の状況と類似している。

 

禁酒法時代も酒を飲むために隣の州に移動する人たちがいた

1920年に米国では、いわゆる禁酒法が生まれた。ここで押さえたいのは、酒類を飲むことではなく、製造や販売が禁止されたことだ。個人の自由として、あくまで飲むのを禁じたわけではないが、しかし酒類を販売するのは許さないという、奇妙なものだった。

もしかすると個人が、禁酒法以前に酒類を溜め込んでいるかもしれない。それを飲むのは問題がない。また闇の酒場で、許されない酒を飲んでもよかった。

そもそも1920年代以前に、戦争が多発した時代にあっては戦士の高揚にたいして酒類はむしろ必要物と思われていた。ギリギリの精神状態で戦い続けるのだ。現実を忘れるためにも酒の力は必要悪だった。

その後、第一次世界大戦(1914年―1918年)が勃発したが、ジャズなどの豊かな文化を育んだ1920年代に禁酒法が成立したのは興味深い。

◆ところで全州での禁酒法が成立する前は、各州単位で禁酒を目指すものだった。つまり地方自治の理念に立脚するものだった。しかし、隣の州が禁酒法を有していない場合は、禁酒法の州から非禁酒法の州へ、多くの人流が流れた。現在の日本の状況は、すでに米国では経験済だった。

現在の日本で、酒類の販売がNGであれば酒類をお客が持ち込んでみたら、という大喜利のような議論が交わされている。これも米国で類型を見ることができる。禁酒法下では、会員費を高く取る代わりに、酒類を無料提供する飲食店が見られた。ならびにショーなどの名目で入場料を集め、その代わりに酒類を無料提供する形を取る店もあった。

◆現在、日本で公務員や政治家といった職業人が、メッセージでは飲食を控えようと叫んでいるいっぽうで、自身らの飲食や深酒が報じられている。禁酒法下の米国でも、宗教行事に活用する目的で教会関係者はワイン等の酒類を購入し続けていた

まったく個人的な話だが、10年ほど前、私は米国オハイオ州で開催されたヘビーメタルの音楽フェスに参加したことがある。その少し前に、酔っぱらいが暴動を起こしたとかで、酒類が禁止された。しかしいわゆるラウドミュージック好きには酒好きが多い。

会場のまわりで「こうやったら酒類を持ち込めるはずだ」と作戦会議が行われていた。バッグの端に隠すといったていどのことだ。しかし、笑い話のように、禁酒法下の米国では酒類をバレずに運べるように、ズボンやブーツ、コートに隠し持つ“技術”が考案+情報交換されたようだ。

◆現在の日本では、飲食店が酒類を提供していないか見回り隊が循環している。おなじく禁酒法下の米国でも見回り隊がいた。しかし、米国の国土の大きさにたいしてまったく人員数が少なく無力だった。さらに、巡回者による力量の違いや、ほとんど指導をしなかった例などが散見された。


「政治利用」と「国民管理」の道具として使われた禁酒法

1933年、米国の禁酒法は廃止される。みなさん、もしよければ「Prohibition 1933」と検索いただければ、禁酒法がなくなり、自由に酒を飲めるようになった写真が確認できる。歓喜というか、ほぼ騒乱かのような愉悦が伝わってくる。

ところで、私が米国の禁酒法を取り上げたのは、もうニつの理由がある。これまで書いた内容は、禁酒法によって生じた社会の反応について、現代日本との類似性だった。次に説明したいのは、そもそも法律が生じた背景の類似性だ。

①かつての禁酒法は、きわめて政治利用されていた:禁酒法当時の酒造はほとんどドイツ系が担っていた。彼らの力が強くなり、政治的にも声をあげはじめることにたいする課題意識が当時の政治家たちにあった。

酒税は多くの国で大きな税源になっている。当時もかなりの比率を占めていた。しかし、それを無にしても政治的に特定勢力を廃するために禁酒法があった。

とくに酒造業関係者は、当時の米国で議席を獲得し大きな勢力になりつつあった。それを叩くためにも、資金源たる酒類の売上を抑える必要があった。さらに、酒造業が社会の風紀を乱すと考えている有権者にとっては、酒造業を叩くことが票につながった側面もある。

現在の日本において、飲食店を叩くことが、高齢者からの票につながる、とは断言しにくい。そういうと、お叱りを受けるだろう。しかしながら、政治家は、とくに直接選挙制度の地方自治体の長であれば、選挙投票率の高い年齢層を考えるのは当然である、とは思う。

私は、さすがに地方自治体のリーダーが政治利用のために緊急事態宣言と禁酒を利用しているとまではいわない。しかし、科学的根拠うんぬんの前に、とにかく世論に迎合したいという意図は強く感じる

②かつての禁酒法は、国民教育のために使われていた:米国民はいつも酔っていたら生産効率が落ちてしまう。(当時は多くが製造業従業者だったが)週末に酔いつぶれて月曜日に出社すれば、その生産効率が低下する。企業経営者としても従業員が酔うのはふさわしくない。国家全体としてもそうだ。そうやって、禁酒法は政治家と経営サイド双方から、国民管理の観点から導入された。

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