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コロナ禍の「働き方改革」の裏で使い倒される非正規社員たちの失望

働き方改革の恩恵には格差がある(イメージ)

 新型コロナウイルスの感染拡大による影響から、「働き方改革」が進むことになった。仕事が減った職場ではこれ幸いと労働時間の短縮が実施され、業務量が減らない職場でもワークライフバランスがとれた労働環境をめざして残業が減らされた。だが、急激な変化はやはりひずみを生み出していた。ライターの宮添優氏が、労働の調整弁にされている非正規労働者たちの嘆きをレポートする

【写真】正社員の残業減のしわ寄せが発生している

 * * *
 国や自治体の呼びかけもあり、大小を問わず様々な企業で「働き方改革」について議論が活発になされている。いや、改革が必要だとは従前から言われてきたことではあったが、コロナ禍により会社への出社を減らすなどの必要性が増したことで「それならば」と、企業幹部たちが重い腰をやっと上げた、という面もあるだろうか。

 理由はどうであれ、一部大企業などでは、社員の残業や休日出勤を減らすなど、すでに改革に着手し「会社がホワイト化した」という喜びの声も聞こえてくる。一方、この改革、誰にとっても、どんな立場の人にとっても「素晴らしい」ものなのか。雇用者が5人いたとしたら、うち2人が「非正規雇用者」とも言われる昨今。取材を進めると、こうした弱い立場の人に「しわ寄せ」が及んでいる実態が浮かび上がってきた。

「コロナ禍以降、正社員は確かに残業も休日出勤も減りました。在宅ワークが増え出社する必要が減り、早出や残業、出張もほとんどない。働き方改革って素晴らしいな、とえびす顔です。番組で、働き方改革の素晴らしさを特集しよう、なんて言い出す始末。でもちょっと待てよと。我々非正規スタッフは、正社員が抜けた穴を、手当なしで埋めなければならないのですから」

 大阪府内のテレビ局勤務・笹部知明さん(仮名・30代)は、外部の番組制作会社に所属し、派遣スタッフとしてテレビ局内に常駐する情報番組のディレクター。ほんの数年前までは月の残業時間が100時間を超えることは当たり前、朝夕だけでなく、土日祝日の仕事も当たり前という「ブラック」環境で働いてきた。正社員も同じような環境で働いてはいたのだが、大きく違うのはその賃金だ。

「正社員には、残業代も休日出勤手当もバッチリ出るわけです。我々の場合は、全部コミコミの固定給。同じように仕事していても、あっちはどんどんもらえる手当が増えているけど、こっちは働くほど損」(笹部さん)

「働き方改革」が唱えられるようになってから、確かに正社員の仕事の負担は減った。当然残業代ももらえなくなり、不満を漏らす正社員もいるが、元々高給な上、実際に余暇もとれている。高給の正社員が休んでいる間に、手当も受け取れないまま、その穴埋めをしなければならないのが笹部さんたち、外部の非正規スタッフだ。

出社時間や業務量は大幅増、給料は右肩下がり

「残業も休日出勤も増え、給料は据え置き。差別ではないのかと思いますが『それなら社員になればよかったじゃん』と平然と言ってくる正社員もいる。そんな我々が、正社員に命じられて働き方改革を持ち上げる番組を作っているんです」(笹部さん)

 コロナ感染対策のため、そもそも局に出社できる人数にも限りがあったというのだが、ここにきてより強い「制限」の必要性が増してくると、人数を減らすだけでなく、いよいよ業務量自体を減らさないと回らなくなった。しかし、放送自体はコロナに関係なく行われるわけで、正社員が制約によって仕事ができない中、その制約を「正社員ほど厳しく守らなくても良い」存在として、笹部さんのような非正規社員が重宝…というよりは使い倒されている、ということである。無論、出社時間や業務量は大幅に増えているのだが、テレビ局にも吹き荒れるコロナ不景気の厳しい逆風影響もあり、給料は増えるどころか右肩下がりに転じている。

 東京都内の超大手IT系企業に勤めるシステムエンジニアの山根仁さん(仮名・20代)も、実は孫会社に所属する契約社員で立場は非正規。特に激務で知られるエンジニア業界だが、親会社の正社員たちは残業代をたっぷりもらっている一方で、山根さんのような立場
になると、残業代が出ないどころか、給与も親会社正社員の3分の1程度だ。

「(働き方改革によって)残業ができなくなった正社員はブーブー言ってますが、我々の残業は以前よりも増えている。会社は『残業減達成』と社報などで威張っていますが、非正規の仕事は増えているので、我々にとっては実質的な給与減」(山根さん)

 働き方改革についてはこれまでも社内のあちこちで議論されてきたが、眼前に仕事がある状態ではなかなか「改革」は進まなかった。だが、コロナ禍によって、正社員の出社日数も勤務時間が否応無しに減ると、その目標は呆気なく達成された。しかし、山根さんたち非正規社員組にとっては、改革もどこ吹く風。正社員が休んでいる間も、普通に出社し、正社員たちができなかった仕事を請け負うことで、仕事量は以前より増大している。

 非正規社員も「会社の重要な一員だ」などという上司も、このいびつな「改革」についてはだんまりを決め込んでいるというのだから、山根さんが失望するのも無理はない。

残業だけでなく元々あった勤務時間も減らされた

 同じように、普段は「大切な社員だ」と言われ続けながら、実際に「改革」が始まり、その欺瞞を痛感していると話すのは、神奈川県内の人材会社で働くパートタイマー・長峰ゆき子さん(仮名・40代)である。

「コロナ禍もあり、働き方改革と同時に経費削減も行おうというスローガンの元、実際に正社員も私たちの残業も減りました。パートタイマーとして残業はありがたかったのが本音だったのですが、働き方改革が進むと、残業だけでなく元々あった勤務時間もバッサリ減らされた」(長峰さん)

 残業代もないため、勤務自体を減らされれば生活ができなくなる。わらにもすがる気持ちで上司に掛け合ったが、その返答は、長峰さんを奈落の底に突き落とすような冷酷なものだった。

「働き方改革の対象に、私たちは含まれていないと言われました。私たちが対象になっているのはむしろ『経費削減』の方で、いわばモノ扱い。私たちを減らすことで『経費』を圧縮すると。前は大切な仲間、といっていたのに、会社の財務状況が悪くなったとたんにこれ。目の前が真っ暗になりました」(長峰さん)

 豊かな人たちがより豊かになることで、中間層、下層にもその恩恵の滴がしたたり落ち、その結果に社会全体がよくなるという「トリクルダウン」という理論は、時の総理も提唱した言葉である。働き方改革の例に当てはめれば、上位層に「改革」が広がれば、中間層や下位層にも改革の波が波及し、みんながハッピーに……という理屈になるのだろう。しかし現実はというと、中間層や下位層に負担を強いることで、上位層だけがその恩恵を受けているに過ぎない上部だけ、見た目だけの「改革ごっこ」が蔓延っているだけなのだ。

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