記事

放送事故級のエンディングを迎えたアカデミー賞 作品賞『ノマドランド』は非政治的?

2/2

聴力を失う様を感じる新境地の映画体験:編集・音響賞『サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-』

Getty Images

パンデミック危機により劇場映画の公開延期がつづいた第93回アカデミー賞において、ひとつの注目点はストリーミングサービス製作作品の躍進だった。

結論から言えば、業界大手Netflixによる『マ・レイニーのブラックボトム』、『シカゴ7裁判』が有望視された主要部門を逃したため、オスカー会員と劇場文化の強い絆、そしてNetflix忌避を感じさせる布陣と見ることができる。

しかし、激しい競争に耐え抜いたストリーミング受賞作には、画期的な映画が多い。たとえば、編集賞と音響賞をW受賞したAmazon Studios『サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-』。

突然聴力を失うリスクに晒されたミュージシャンを描くドラマだが、物凄いのは、ハイクオリティな音響を通して、視聴者が主人公と同じ聴覚の変容を味わえることだ。どんどん音が聴こえなくなる追体験はリアリスティックで、ホラーですらある。日本では劇場公開されずAmazon Prime配信となってしまったが、良いヘッドホンやイヤホンで視聴すれば、新境地の映画体験となるだろう。

Netflixが描いたBlack Lives Matter×ループもの:短編実写映画賞『隔たる世界の2人』

Netflixも、タコと人間の友情をダイナミックに映す長編ドキュメンタリー映画賞受賞作『オクトパスの神秘: 海の賢者は語る』、喪失を抱える夫婦に何が起こったのか明かされていく短編アニメーション賞受賞作『愛してるって言っておくね』など、チャレンジングな作品が並ぶ。

短編実写映画賞に輝いた『隔たる世界の2人』も、バイラルヒットによって本命候補『The Letter Room』を打ち破った注目作である。

これは、日本アニメにも定着している「ループもの」、つまり同じ時間を何度も繰り返すことになるSF作品だが、かくも「今日の現実社会」を感じさせる内容なのだ。

劇中、女性と一夜を過ごしたのち家に帰ろうとする主人公の黒人青年は、白人警官に何度も殺されてしまうタイムループにとらわれる。

その生命の落とし方にはバリエーションがあり、たとえば、警官に組み伏せられて「息ができない」とつぶやき訴えて息絶える、誤認によって無関係の女性のアパートに突入した警官たちが銃弾を浴びせていく……。勘の良い読者ならもうおわかりだろう。これらは、エリック・ガーナー氏、ジョージ・フロイド氏、ブリオナ・テイラー氏ら実際の黒人被害者たちをリファレンスするBlack Lives Matter志向の「ループもの」なのだ。

流行りのSFジャンルに「現実世界でループする(終わりの見えない)凄惨な事件」を組み込んで強烈なステートメントを食らわせる本作は、30分の短尺で、アメリカ映画的な「人情ドラマ」を欲する視聴者の期待すらも打ち砕く。

日本で今後公開予定の作品も

日本では一部地域の映画館の営業制限、それに伴う公開延期も見込まれる緊急事態宣言下での開催となった第93回アカデミー賞シーズンだが、ストリーミング配信を筆頭にしたオンラインにも個性的なオスカー作品が揃っている。

ブラックパンサー党をドラマティックに描き助演男優賞と歌曲賞を獲得した『Judas and the Black Messiah』も夏にレンタルリリース予定だ。また、前述『ファーザー』につづき、スリラーやコメディがないまぜとなった脚本賞受賞フェミニズム・リベンジ映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』は7月に劇場公開予定。刺激的かつ情熱的な作品を観ながら、映画館に舞い戻る英気を養おう。

あわせて読みたい

「アカデミー賞」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    日本人はナゼ「貧乏になったこと」に気が付かないのか?

    内藤忍

    06月21日 14:24

  2. 2

    年上の高齢男性から告白されるということについて

    紙屋高雪

    06月21日 09:11

  3. 3

    「反ワクチン」言説は支持しません。が、Amazonなどからの一斉排除はいささかの懸念が残る

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    06月21日 08:18

  4. 4

    共同通信『慰安婦謝罪像、東京で展示を検討』 とんでもないことで許せぬ

    和田政宗

    06月21日 08:22

  5. 5

    60歳以上の約3割「家族以外の親しい友人がいない」孤独に長生きして幸せなのか

    毒蝮三太夫

    06月21日 09:31

  6. 6

    ワクチン接種の義務付けをめぐる「公共の福祉」と「個人の自由」日本とアメリカで違い

    中村ゆきつぐ

    06月21日 08:35

  7. 7

    日本政府、アストラゼネカのワクチンをタイに寄付へ

    ロイター

    06月21日 20:44

  8. 8

    小川彩佳アナと離婚へ ベンチャー夫の呆れた一言「今からなら、遊んでも…」

    文春オンライン

    06月21日 19:30

  9. 9

    尾身氏らが提言した無観客開催 五輪ファンの生きがいが奪われるリスクは検討したのか

    山崎 毅(食の安全と安心)

    06月21日 10:53

  10. 10

    日本に必要な国産ワクチン 「掛け捨て」で次の危機に備えよ

    WEDGE Infinity

    06月21日 15:24

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。