- 2021年04月30日 18:30 (配信日時 04月30日 11:15)
「もう風俗しかないのか…」DVの被害女性が保護施設に入りたがらないワケ
1/2新型コロナウイルス感染拡大防止のため、国や自治体は「夜の店」への休業や営業短縮を要請している。社会学者の山田昌弘さんは「風俗産業は女性が経済的に誰にも頼れなくなった時の、ある種のセーフティネットとして機能していた側面がある。困っている女性は多くいるはずだ」と指摘する――。
※本稿は、山田昌弘『新型格差社会』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Satoshi-KDVは増えているのに、保護は増えていない
ここ数年の結婚数の減少に伴い、日本全体の離婚数は、実際のところ漸減していました。日本では、子どもを育てるためにある程度の経済的な余裕が必要です。シングルファーザー、シングルマザーになると、収入が減ることで子育てが難しくなる。ですから相手への愛情がなくなったとしても、子育てのために婚姻関係を継続するカップルがたくさんいます。特に、専業主婦を続けてきた女性の場合、男性に比べて離婚後に子どもを育てながらフルタイムの仕事に就くことはかなり難しいため、離婚を躊躇する傾向が見られます。
私は内閣府の「男女共同参画会議 女性に対する暴力に関する専門調査会」の専門委員を、約15年間続けてきました。DVに関する最近のデータ傾向を見ると、女性センターなど専門機関への相談件数は右肩上がりで増えています。しかし、「保護」に至るケースはそれに比例していないことがわかります(図表1、図表2)。

『新型格差社会』より

『新型格差社会』より
「シェルターに入るより夫と暮らしたほうがマシ」な日本の現状
保護とは(多くの場合)、夫のもとから逃げ出して、シェルターなどに入ることを指します。相談は増えているのに保護件数が増えていないという事実は、DVを実際に受けていても、夫と暮らしたほうがまだましと考えている女性が増えていることを示します。常日頃から口頭で罵倒されたり、たまに暴力をふるわれたりしても、別れた後の経済状況を考えると今の生活を続けざるを得ない。被害を受けている側に我慢し続けることを強いて、DVを行う側にはほとんど何の介入もできない。それが今の日本のDV政策の実情です。
DVの加害者は男性であることがほとんどですが、夫のほうも、妻は逃げても自活できないと思っているからDVをし続けられるという側面があるのです。ちなみに欧米には、DVの被害者はそれに対応するための有給休暇の申請をすることが認められている国が複数あります。加害者に対する自宅からの退去命令がある国も多いです。一方日本では、夫が嫌がらせで妻の職場に押しかけ、それが理由で退職に追い込まれるような事態も稀ではありません。
「暴力をふるう側への介入」議論は始まったものの…
こうした現状を改善するため、国のほうでも被害者を保護するだけではなく、暴力をふるう側に介入すべきだという議論が始まっています。私たちの部会でも、加害者に適正な形でアプローチしてDVをやめさせたり、加害者を退去させたりする方法を論議しているところですが、具体的な支援が可能になるまではまだしばらくの時間がかかりそうです(男女共同参画会議DV専門部会報告書/2021年参照)。
以前、私がインタビューしたあるDV被害者の女性は、「夫が年老いて寝たきりになったら、とことん思い知らせてやろうと思います」と話していました。いつか必ず復讐してやろうと強い憎しみを抱きながらも、その女性は夫と別れる道は選ぼうとしていませんでした。
DV被害者が施設に入りたがらない切実な理由
これはあまり知られていない事実ですが、日本のほとんどのドメスティック・バイオレンスの保護施設では、逃げてきた被害者が携帯電話を持つことを認めていません。携帯電話のGPS機能で居場所が加害者に知られてしまうことを防ぐため、というのが理由ですが、そんなのは位置情報の機能を切ればよいだけの話です。
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu今どき携帯がなければ、仕事を探すこともできません。この決まりを改めるように私も働きかけているのですが、「規則ですから」の一点張りでなかなか動いてもらえないのが実情です。恐らく、万が一切り忘れがあったときに、加害者が保護施設を突き止めて乗り込んでくるというような事態の責任問題を恐れているのでしょう。他にも施設の入所者に対して厳しい行動制限があること自体が、「DVの被害者を施設入所から遠ざけている」要因の一つだと考えられます。
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