記事

400年の伝統、有田焼の固定観念を覆す陶芸家・井上祐希氏の挑戦

1/2

「有田焼」で有名な佐賀県・有田町

九州の西側に位置する佐賀県。この土地の特産品をすぐに思い浮かべることはできるだろうか。

筆者は佐賀県から上京して10年以上経つが、「佐賀県には何もない」、「福岡と長崎は修学旅行で行ったけど佐賀県だけ通り過ぎた」などと言われることは日常茶飯事で、九州県内のなかでも良く言えば控えめ、悪く言えば地味な県だ。

だが、佐賀県のことを知らなくても「有田焼」という名前は聞いたことがある、という人は多い。

佐賀県西松浦郡有田町は、日本の伝統工芸品の1つである有田焼の産地として知られる“焼き物の町”。17世紀初頭に朝鮮出身の陶工・李参平がこの地で陶石を発見し、日本初の白磁を焼いたことが有田焼の始まりとされている。

およそ400年の歴史があり、古くは幕府や朝廷のための献上品として選ばれ、現在でも高級調度品としての側面をもつ有田焼は敷居が高く、非日常的なものだと思われがちだ。
しかし、そんなイメージを覆す作品がある。


配送用ダンボールなどに貼られる「われもの注意」のラベルを器自体に焼きつけた、ビビッドな朱色が目をひくこの作品を手掛けるのは、井上祐希さん(33)。人間国宝である井上萬二氏の孫にあたり、現在は井上萬二窯で作陶に励んでいる。

昨年から続く新型コロナウイルスの影響は有田町にも及んでいる。今回、若手作家として地元で活動し、SNSでも有田焼の魅力を発信している井上さんにコロナ禍と有田町について、そして有田焼のこれからについて語ってもらった。

新型コロナウイルスの影響で有田陶器市が中止に

有田町では、毎年ゴールデンウィークの時期に「有田陶器市」が開催されている。 1896年から始まった歴史あるイベントで、地元の陶磁器店が通常よりも安い価格で焼き物を販売したり、この陶器市でしか手に入らない限定品を販売したりするなどし、毎年およそ120万人が県内外から訪れる一大イベントだ。

2015年開催の様子 ©共同通信社

しかし、2020年は新型コロナウイルスの影響を受けて開催中止に。第二次世界大戦の戦中・戦後の混乱期を除き、有田陶器市が延期や中止となるのは初めての事態だ。

そんななか、有田町は「おうちで楽しむ有田陶器市」とする、コロナ禍ならではのオンラインイベントの開催を決定。買い手は『Web有田陶器市』というサイトから各窯元のショップにアクセスして目玉商品を購入することができ、自分の家にいながらにして陶器市を楽しめる。

昨年のWeb有田陶器市について、井上さんは次のように振り返る。

「去年は自分のiPhoneで作品を撮影して、オンラインショップの準備をしていました。それで、ずっとパソコンの前で作業していたら、祖父に『はよう仕事せんか』って言われて(笑)。祖父はデジタルとかテクノロジーに弱いから、僕が仕事をしているとは思わなかったのでしょう」

ネットリテラシーの差により窯元の反応も様々

実は、Web有田陶器市にはすべての窯元が参加しているわけではない。
町内には高齢の作家も多く、ネットに詳しくなければまずパソコンの操作方法を学ぶところから始めなければいけない。その時点でWeb陶器市への出店を諦めてしまう窯元も少なくないようだ。

もちろんWeb有田陶器市にはメリットもある。普段、現地に来ることができないような遠方に住む人や、現地を訪れる時間がとれない人がいつでもアクセスできる。

「お客さんの幅が広がったし、いままでリーチできていなかった層にも知ってもらえるきっかけになりました」と井上さんは話す。ほかにも、有田陶器市の人混みが嫌でなかなか来られなかった、という人から「オンラインではゆっくり作品をみて買うことができた」という嬉しい反応もあったそうだ。

2年ぶりの開催発表から一転し、2021年も中止に

その一方で、「実際に食器を手にとってみたい」、「陶器市を散策しながら宝探しの感覚で食器に出会うのが醍醐味」という声が多いのも実情だ。

今年3月、有田町では2年ぶりとなる有田陶器市の開催が発表されたが、全国的な新型コロナウイルスの感染拡大などから、一転して4月13日に中止が決定した。

「陶器市に向けて準備している最中に中止が決まってしまって、仕方ないと言えば仕方ないのですが…。ただ、当初開催が決まったときも、窯元の反応はそれぞれでした。『感染が怖いからうちはやりたくない』というところもあって。人が県内外から入ってきますから、そういう意見も当然あります。だけど、やっぱり陶器市を止めたくないし、稼ぎ時でもありますから。正直、中止になるのはきついですね」

有田陶器市に限らず、コロナによって活動が制限されることの影響は大きい。展示会などで、作家本人が在廊するかどうかも売り上げに関係してくるというが、コロナが収束しない状況ではそうした活動も困難になっている。

「コロナの影響は大きく、なかなか厳しいです」

コロナ禍での苦しさともどかしさを滲ませる井上さん。おそらく有田町の窯元の多くが同じことを考えていることだろう。

ただ、そういった状況のなかでも井上さんは日々精力的に活動し、表現の幅を広げている。

あわせて読みたい

「アート」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    菅原一秀氏から違法行為を強要されていた元秘書が「説明責任果たせ」と顔出し訴え

    田中龍作

    06月19日 22:04

  2. 2

    【驚愕】自民党系の横浜市長選候補者がカジノ反対へ

    木曽崇

    06月20日 11:57

  3. 3

    格安スマホ業界にまで波及した価格破壊

    自由人

    06月19日 08:14

  4. 4

    「米国は病気」と罵りつつ、周庭さんは釈放…G7を敵に回した習近平政権の行き詰まり

    PRESIDENT Online

    06月19日 18:11

  5. 5

    白血病の新たな薬 新たなプレイヤーで不可能が可能に それはしっかりしたエビデンス コロナのイベルメクチン等にはまだそれがない

    中村ゆきつぐ

    06月20日 08:22

  6. 6

    タワマンの高層階ばかりを移り住む「空中族」 高値売り抜けはそろそろ手仕舞いか

    NEWSポストセブン

    06月20日 09:50

  7. 7

    都民ファーストの不振ぶりが目立つ都議選 小池旋風が影を潜めた影響か

    早川忠孝

    06月19日 16:34

  8. 8

    世帯年収400~600万円のリアル「残業ありきの給料で毎日クタクタ」

    キャリコネニュース

    06月19日 18:44

  9. 9

    【世界ALSデー月間特別寄稿④〜トリアージは既に当たり前に行われている⁉️〜】

    恩田聖敬

    06月20日 09:00

  10. 10

    元トップAV女優・上原亜衣が語る“身バレの現実”と“動画戦略”

    文春オンライン

    06月20日 16:01

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。