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議員の待遇(フランスのケース)

 国会議員の給与や手当について、色々なご指摘、批判が投げかけられます。私の3年3カ月の経験からすると、「あまり下げ過ぎると、今度はお金集めに精を出さないとやれなくなる。」というのが正直なところです。こういう事を言う事自体が批判の対象になりがちだということは分かっていますが、私は浪費家でも、政治資金を潤沢に持っている人間でもありませんでした。そこだけは信じていただければと思います。

 そういう中、数ヶ月前のル・モンド紙に面白い記事(ココ )がありました。フランスの国会議員の給与水準についての考察です。彼我の差はありますけども、書いてあることを少し要約しながら紹介したいと思います。なお、幾つかの用語に対する訳がちょっと怪しいものがありますが、そこはご容赦ください。あと、私のフランス語能力が不十分なところもあるかもしれません。間違っていた時はお詫びいたします。

● フランスでも、議員には給与のみならず、議員費用弁償制度(indeminite representative pour frais de mandat:IRFM)というものがあります。日本の国会でいうところの文書通信費に当たるものだと思います。このIRFMは現在非課税ですけども(日本の文書通信費も同じく非課税)、使用済み残額に所得税をかけようという提案がなされたことに対して色々な議論が巻き起こりました。

● フランスの下院議員の給与は3つの要素から成り立ちます。まず、基礎的弁償部分ですが、これは幹部クラスの国家公務員の給与との対比で決められていて、月額5514.68ユーロ。これに加え、パリに滞在するための住居手当が基礎的弁償の3%で月額165.44ユーロ。これに加え、職務弁償(indeminite de fonction)というものが、基礎的弁償+住宅手当の25%で月額1420.03ユーロ。総額で月額7100.15ユーロを貰うことになります。

● ここから色々な費用を支払っていくことになります。当選から15年間は議員年金の支払いが比較的高く、月1280.5ユーロの支払いが求められます。議員年金は普通の年金に比べて好条件です。更に社会保障税(contribution sociale generalise)や社会保障負債返済税(contribution au remboursement de la dette sociale)を月額568.01ユーロ支払います。更には、元議員に対する雇用保険のために津月額27.57ユーロ支払います。

● その結果、下院議員が受け取ることができるのは月額5189.27ユーロになります。高給ではあるものの、フランスで高給の上位1%(月額7300ユーロ)には入って来ず、企業幹部クラスの上位5%(月額4300ユーロ)くらいのところにあります。ここから更に所得税を支払いますが、所得税はこの5189.27ユーロにのみ課されます。

● 更に下院議員は2種類の手当があります。1つ目は秘書手当(credit affecte a la remuneration de collaborateurs)で、月額9138ユーロです。この範囲で秘書やスタッフを雇います。また、この一部を下記のIRFMに振り分けることもできます。2つ目は議員費用弁償(IRFM)で、月額6412ユーロです。このIRFMは議員としての職務を果たすために必要だけども、下院が負担しないものの支払いに使われます。このIRFMは社会保障税や社会保障負債返済税に対象にはなりますが、それ以外の税等は免除されています。

● IRFMの使用は自由です。下院議員の移動については別途手当されていることから、このIRFMは国会事務所、衣服、経常経費等、色々な事に使えます。秘書の給与に充てることもできます。とどのところ、何にでも使えると言っていいでしょう。実際には家族旅行に充てていた議員もいることが明らかになっていますし、実際には議員自身の給与の補填に使われていることもあります。

● これらの事態を踏まえて、IRFMの未使用分を所得税の対象とする提案がなされたわけですが、必ずしも下院議員からは好意的な反応が得られていません。単にIRFMを全額使用仕切ってしまおうという方向に機能するだけだという批判もあります。国会の財務部のコントロールに付そうというと意見もありますが、この財務部の職員は下院議員の支配下にあります(から、その有効性には疑問があります。)。

● 国民議会の諸費用の総額の内、議員給与、弁償等(charges parlementaires)は56.62%を占めており、年総額2億8926万ユーロになります。その内、議員報酬や家族給付に当たるものが4970万ユーロ。退職金や社会保障が6040万ユーロ。会派の事務局運営費が921万ユーロ。IRFMは全体の15.9%、4475万ユーロにしかなりません。一方で議員の移動(voyage)費は714万ユーロに上ります。

(ル・モンドの記事を見ていただくと、真ん中のあたりに円グラフが2つあります。一つ目は下院の予算のうち、議員関係費全体の配分があり、青が給与や家族手当、オレンジが社会保障等、黄色が会派事務所関係費、緑が議員事務所関係費、紫がIRFM、ライトブルーが移動費です。二つ目は一人の議員が手にする諸手当費用の内訳です。青が基礎的弁償、オレンジが住居手当、黄色が職務弁償、緑が秘書スタッフ経費、紫がIRFMです。)

● ここを見ていただくと分かるように、議員関係の費用で非常に大きな部分が秘書・スタッフ関係経費になります。勿論、IRFMも非常に大きな金額を占めています。国際的に比較してみると、ドイツの議員は月額7688ユーロ、イギリスの議員は月額6396ユーロの給与を得ており、フランスの下院議員は最も恵まれているとは言えませんが、それでも欧州の中では高い水準です。ただし、フランスの議員は数が多いので、経費総額で言うとドイツやイギリスよりも高いということが言えるでしょう。

● もう一つのテーマとして、議員秘書、スタッフについて、その職の不安定性、透明性の欠如が指摘できます。上記で一定の金額が秘書、スタッフ雇用に充てられていますが、概ね3名の雇用を想定しています。ただ、割り当てられた費用をどう使うかは議員の裁量であり、例えば高給スタッフを2名と低収入スタッフを4名雇うことも可能です。

● 一般的に、下院議員は少なくとも選挙区に一人、議会に一人スタッフを置くことが多いです。ただ、これは議員の置かれている立場によって異なります。市長や地方議会議員との兼職をしている議員は、別途、市役所や地方議会にいるスタッフに国政の仕事の一部を割り振ったりもしている一方で、兼職をしていない議員にはそういう可能性がありません。また、下院議員は別途、会派スタッフを雇用するためにこの秘書・スタッフ関係経費から共同で支出をしています。

● つまりは議員秘書・スタッフの待遇はその議員次第というところがあります。給与水準、勤務時間、仕事の内容、雇用、解雇、すべては議員次第です。議員秘書・スタッフのステータスを集団的に保証するものは何もなく、すべてはその議員次第です。結果として、同じ議員に仕える秘書、スタッフでもその給与水準は大きく異なります。上記にあるように、IRFMの半分までは秘書雇用のために使うことができます。議員秘書、スタッフはこれまでもっと安定的なステータスを求めてきましたが、あまり前進がありません。

● また、議員は兼職によって非常に巨額の給与を得ているのではないかとの指摘もありますが、必ずしも正しくはありません。何故なら兼職による給料を無制限に積み上げることはできないからです。まず、議員の兼職が制限されているということがあります(注:本件については別途書きましたのでココ を参照下さい。)。これら兼職議員の受け取ることができる給与には8300ユーロという上限があります。どんなに兼職を重ねても、これ以上を受け取ることはできません。一番分かりやすいのは下院議員兼大都市の市長のケースです。人口5万人を超える市長の給料は5512ユーロとなっており、手取りで4244ユーロです。これに下院議員の5189ユーロを加えると9433ユーロになりますが、実際には8300ユーロで上限が設定されています。

● その上限を超えた残額については、自分の選んだ職務上の同僚にその残額を振り分けることができるようになっています。ただし、ここもルールが不十分であり、ある兼職議員はその残額を、自分が市長を務める市の第一助役に振り分けていましたが、その第一助役は当該議員の妻だということもありました。2011年に議員提案で、その残額については自治体財政に残すべきとの提案がなされましたが、最終的にその提案は排除されてしまいました。

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