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「観光客激減でもV字回復」沖縄の離島が見つけた"サトウキビ以外"の一次産業

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牛肉のイメージを一変させる甘い香り

一般の肉牛が27~35カ月程度で屠畜するのに対し、ゆいまーる牧場の牛の肥育期間はほとんどが40カ月を超える。島で採れる牧草やサトウキビの葉がらに、吟醸米の酒粕、ビール粕、大豆粕、タピオカ粕などを混ぜて発酵させた自家配合飼料を使う。

「こんな育て方をしている牧場は、全国でも珍しいと思います。私は野菜でもお肉でも、何を食べてどんな環境で育っているのか分からないものは口にしたくないんです。食べた物で体が作られるのは、人間も牛も同じですから」

きめの細かなサシが入り、脂分は手のひらの体温でクリーム状に溶け出す。美由紀さんいわく、「脂質はオリーブオイルと同じ不飽和脂肪酸のオレイン酸」「風味は牛乳やチーズのようなラクトン系の香りなんだけど、鼻から抜ける甘い香りという表現の方が分かりやすいかな」

そこまで聞くと、牛肉のイメージが一変した。

「農協や卸を通さない」経営を選ぶ理由

1年以内で出荷できる子牛の「繁殖」と、2~4年かけて肉用牛に育て上げる「肥育」とでは、「キリンと虎ほど、育て方が違う。肥育の方がずっと難しくて、技術が必要」と美由紀さんはいう。

「焼肉金城」北谷本店にある精肉コーナー。巣ごもり需要で地元客の利用が増えているという=3月2日、沖縄県北谷町
「焼肉金城」北谷本店にある精肉コーナー。巣ごもり需要で地元客の利用が増えているという=3月2日、沖縄県北谷町 - 筆者撮影

肉質に直結する長期熟成にこだわるほど飼料代は嵩(かさ)み、肉量の少ないメスに特化するほど、単価を見極めなければ農家の身入りは少なくなる。一貫経営にこだわるのは、農協や卸市場を通さず、その分、子牛の自家繁殖や自家配合飼料によって生産コストを抑えるため。ランクの高い和牛でも買いやすい価格になるよう仕組みづくりを模索した結果だという。

その一方で、同社の牧場経営は実質、赤字状態が続いている。コロナ前の2019年は年商約2億4000万円だったが、20年は約1億円減。金融機関からの借入金の返済を遅らせるなどコロナ対応策でつないだが、自転車操業を強いられている。

課題は地元民への情報発信力

「経費の半分を占める輸送コストをいかに抑えられるか、もっと工夫が必要。でも逆に言えば、餌になる牧草には困らないのだから、その他の飼料や出荷にかかる輸送コストの課題さえクリアできれば、農家は十分な利益を確保できるようになる」

これが、利憲さんが創業以来、突破口を探り続ける経営課題の根幹だ。「必ず解決できる」と絶えず秘策を練る。

そして、もう一つの課題は情報発信力。生産現場のこだわりと自信を知れば、買って食べて、応援したくなるのが消費者心理。だが、地元県民ですら、沖縄県内唯一の百貨店、大手スーパーでも、今のところ「KINJO BEEF」は手に入らない。美崎牛や伊江牛など沖縄県内で生産に奮闘している他地域のブランド和牛も同様だ。

生産のプロであっても、販売やプロモーションは、得意な誰かの応援がほしい。そんな生産者は少なくないだろう。6次産業化のもう一つの障壁でもある。

宮古ブランドは「雪塩」とタッグ

宮古島のブランド牛も負けてはいられない。「雪塩」ブランドの製塩販売事業を手がけるパラダイスプラン(宮古島市)の西里長治社長が得意とするのが、宮古島の食材をテーマにしたブランディング事業だ。

同社は3月、「宮古牛」を提供する飲食店事業に乗り出した。英会話教室「NOVAホールディングス」のグループ会社とタッグを組んで、鉄板焼きレストラン「ユキシオステーキ」を宮古島市平良にオープンした。

宮古牛やアグー豚など宮古島産の食材を鉄板焼きで楽しめるユキシオステーキ=4月19日、宮古島市平良
宮古牛やアグー豚など宮古島産の食材を鉄板焼きで楽しめるユキシオステーキ=4月19日、宮古島市平良 - 筆者撮影

パラダイスプランは「ユキシオ」を冠したブランド管理と食材供給に徹し、店舗運営やスタッフの採用などは全てNOVA側に任せ、役割分担を明確にした。

「この時期に未経験の飲食事業でリスクは負えないが、宮古に思いを寄せるいいパートナーがいたからこそ、挑戦できた。コロナ禍に関係なく、宮古島の地域商社として地元の素材にどんどん関わっていく。メロンも宮古牛も、わたしにとってはまったく同じライン上にある」(西里社長)

奇しくも今月、宮古島の繁殖農家でつくる「宮古和牛肥育研究会」が立ち上がったという。現在は生産頭数が少なく「幻」とも言われる宮古牛だが、西里社長の手による情報発信とともに、宮古島産の和牛ブランドを育てる機運が、高まりつつある。

銀座千疋屋も惚れ込んだ「宮古メロン」

そんな西里社長は、宮古島の隠れた特産品「宮古島メロン」を一躍高級フルーツブランドに押し上げた立役者の一人でもある。

宮古牛を中心に、島の食材を使い「雪塩」で食する鉄板焼きレストラン「ユキシオステーキ」をオープンしたパラダイスプランの西里長治社長=4月19日、宮古島市平良
宮古牛を中心に、島の食材を使い「雪塩」で食する鉄板焼きレストラン「ユキシオステーキ」をオープンしたパラダイスプランの西里長治社長=宮古島市平良 - 本人提供

市場で安価に取引されていたメロン生産を立て直そうと、農家を束ね、品質の改良からプロモーション、島の駅「みやこ」を通じた店舗・ネット通販の流通までを支援してきた。取り組みは結実し、高級フルーツを販売する銀座千疋屋が4月、「沖縄県“宮古島メロンフェア”」を開催するまでに至った。

1月~6月ごろまで半年にわたって旬を味わえる宮古島メロンは今季、14農家でトータル4000万円超の売り上げを見込む。前年に比べ1~2割の増収見通しだ。30年にわたってメロンを栽培してきた盛島賢有さん(69)は、年間1万個超を出荷する主力農家。島の駅での取り組みが始まる前の5年前に比べて、年収は3~4倍になったという。

サトウキビだけを作っていては…

意欲ある生産者や企業家の動きに、求められる側面支援を提供できるか。行政側のスピード感も試されている。

「宮古島のメロンがあんな有名なお店に見出されたのは感動的。銀座千疋屋で売られると聞いた時にはうそだろーって声あげましたよ。僕が生産者だったら泣いている。百姓のせがれで、つくる喜びも、やりがいも分かりますから」

銀座千疋屋で4月19~25日の期間限定で販売された宮古島メロンのパフェ。連日完売で好評を得た=4月24日、東京・銀座千疋屋本店
銀座千疋屋で4月19~25日の期間限定で販売された宮古島メロンのパフェ。連日完売で好評を得た=4月24日、東京・銀座千疋屋本店 - 筆者撮影

宮古島市役所に4月に新設された「産業振興局」の局長に就いた宮國範夫さんは、銀座千疋屋で販売されると聞いた時の驚きを全身で表現した。

やりたいことはまさに、西里社長の実践と重なる。新設部署では、従来の縦割りを排し、局全体で生産者の育成から商品開発の出口まで、6次産業化目線の施策を吟味していくという。

「サトウキビだけを作って、若い人が定着しているかというとそんなことはない。島にとって重要なのは、若い人が島に戻り、夢を持って農業を続けたいと思える基盤をつくれるかどうか。今後10年、20年後を考えたら、旧態依然として動かなかったものを今動かさなくては」(宮國局長)

宮古島メロンを栽培する盛島賢有さん。「ピーアールというのはすごい力だね。たくさんの人に喜んでもらえ…もっといいもの作ろうってがんばれる。まだまだこれからですよ」=4月5日、宮古島市内
宮古島メロンを栽培する盛島賢有さん。「ピーアールというのはすごい力だね。たくさんの人に喜んでもらえるから、もっといいもの作ろうってがんばれる。まだまだこれからですよ」=4月5日、宮古島市内 - 撮影=井坂牧世

地方産業の解決策が見えてくる

コロナ禍は、地方の食の生産基盤を育てる必然性を改めて突きつけている。物流コストや飼料価格の高騰、人手不足の課題は島嶼地域の沖縄に限ったことではない。国内外の一次産業の現場を見渡せば、生産性を高めるための新たなシステムやテクノロジーの実用化が始まっている。

東アジアの中心にありながら、付加価値が高い農畜産の基盤がある石垣島や宮古島は、その実証拠点になりえる。

この島々がもつ“宝の山”を元手に、誰が農業革命を起こし、島の産業に新たな価値を生み出すのか。立地と素材の優位性に目を向ければ、解決すべき課題の一つひとつが浮かび上がる。その先には、島の生産者が豊かになる“勝算”しか、見えてこない。

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座安 あきの(ざやす・あきの)
Polestar Communications取締役社長
1978年、沖縄県生まれ。2006年沖縄タイムス社入社。編集局政経部経済班、社会部などを担当。09年から1年間、朝日新聞福岡本部・経済部出向。16年からくらし班で保育や学童、労働、障がい者雇用問題などを追った企画を多数。連載「『働く』を考える」が「貧困ジャーナリズム大賞2017」特別賞を受賞。2020年4月からPolestar Okinawa Gateway取締役広報戦略支援室長として洋菓子メーカーやIT企業などの広報支援、経済リポートなどを執筆。同10月から現職兼務。
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(Polestar Communications取締役社長 座安 あきの)

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