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【今日発表!アカデミー賞最有力「ノマドランド」】女一人“家無し”で生きる現代のノマドに、アフロ記者稲垣さんが感じた「自由」 - 「週刊文春WOMAN」編集部

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 日本時間の4月26日午前に発表される米アカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演女優賞など6部門にノミネートされている『ノマドランド』。物質的豊かさに疑問を投げかける本作を、50歳で”無職”となった元朝日新聞記者・稲垣えみ子さんと観た。

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◆ ◆ ◆

 コロナ禍で例年より1カ月遅れで開かれた、2月末のゴールデングローブ賞授賞式。作品賞と監督賞に輝いたのは、監督、キャスト含めてわずか25人というクルーでアメリカ西部を5カ月間旅しながら撮影したロードムービー、『ノマドランド』だった。

 原作は気鋭の女性ジャーナリストであるジェシカ・ブルーダーが、リーマンショック後のアメリカで急増した車上生活者数百人に取材したノンフィクション『ノマド 漂流する高齢労働者たち』(日本語版は春秋社刊)。


今年のゴールデングローブ賞は俳優や監督がオンラインで参加。クロエ・ジャオ監督の監督賞受賞の瞬間。北京出身イギリス育ちの38歳。 ©NBC via ZUMA Wire/共同通信イメージズ

 映画版では、夫に先立たれ、一人暮らしをしている61歳のファーン(アカデミー主演女優賞に2回輝くフランシス・マクドーマンド。本作の共同製作も兼ねる)を主人公に据え、彼女が炭鉱町の閉鎖で住居を失い、キャンピングカーに思い出を詰め込んで旅立つところから始まる。

 旅の始まり、かつて代用教員をしていた時の教え子と出会い、

「先生はホームレスなの?」

 と尋ねられると、彼女はほほ笑んでこう答える。

「いいえ、ハウスレスなだけよ」

 住まいも、定職も、家族も持たない。ファーンが出会い、彼女自身もその一人となっていく“現代のノマド=遊牧民”たちは、俗世のしがらみから解き放たれ、心の平安を得ているように見える。

「自分を守っていたものを捨て、一人になると、世界が違って見えてくる。そして『良い人』になれる。私自身も実感したことです」

 こう語るのは、朝日新聞記者らしからぬアフロヘアと、3・11をきっかけに始めた「個人的脱原発生活(冷蔵庫、エアコンほか電化製品をいっさい持たない生活)」が話題を呼び、『報道ステーション』出演などで人気を集めた稲垣えみ子さん。2016年に朝日新聞を退社。同年発表した著書『魂の退社 会社を辞めるということ。』には、

「50歳、夫なし、子なし、そして無職……しかし、私は今、希望でいっぱいである」

 と書いた。

 無職。ずっと退職後はそうなりたいと思っていたという。会社員は恵まれた存在だが、いつの間にかお金や肩書きに支配されている自分に気づいてもいた。「時間」や「自由」を大切にする人間らしい生活を望んでいた。

 あれから5年。コロナ禍を経て、生活や心境には変化が生まれたのだろうか?

「これが、コロナでも何も変わらなかったんです。コロナや災害が怖いのは、持っているものを否応なく奪われるからだと思うんですが、何しろ私の場合はすでに何もない。小さなワンルームで、電気もガスも水道もほとんど使わず、日々同じものを食べて着て十分満足して生きている。5年の間に、お金や肩書きがなくてもハッピーに生きていく方法がちゃんと身についたんだと思います。実はコロナで収入の柱だった講演はほぼゼロになって収入は激減したんですが、それでも全く平気だったのは我ながら嬉しかったですね。

 生きていくのに必要なものって、実はそんなに多くない。会社を辞めて小さなワンルームに引っ越した時は正直惨めに思ったけれど、今や、これでも広すぎると思うようになりました。家賃が払えなくなったらもっと狭い家に引っ越せばいいし、それも難しくなればファーンのようにキャンピングカーで旅を生きるのもありだなと、映画を見てワクワクしました」

「老後の安心」が未来を縛る存在に

 そんな稲垣さんも、新聞記者時代は「モノ」を持つことで安心を得ていたという。30代の頃には「老後の安心のため」、当時の勤務地に近かった神戸にマンションを購入した。でもその家も、最近思い切って手放した。

「なんと購入価格の6分の1だったんですけど、お金が無いなら無いなりに生きていけばいいやと思うようになったんですよね。老後の安心のはずの家が、自分の未来を縛る存在みたいに思えてきて」

 モノに頼らなくてもいいと思えるようになったのは、近所に知り合いがたくさんいるからでもある。

「数えてみたら、軽く100人は挨拶しあえる仲の人がいるんです。自分を守ってきた家とかモノとかを手放して初めて、知り合いがたくさんできた。家に何もないので、近くの小売店が我が家の冷蔵庫だし、銭湯が私のお風呂だし、カフェが私の書斎。町が我が家なんですよね。

 そうなると、家のメンテナンスをするように、近所の人に気を使うし、向こうも気を使ってくれる。町の人が準家族みたいになって、おかずを分けてくれたり、朝、いってらっしゃいと言われたり。会社員の頃は、人に認められたいと必死に頑張ってきました。で、なかなか認められないことに苦しんでもきた。でも簡単なことだったんです。人を認めれば、自分も認めてもらえる」

 ファーンもまた車上生活をする中で、老若男女さまざまなノマドに出会い、交流する。

 アクセサリーを手作りする若いノマドに目をかけたり、車のタイヤがパンクしてしまった時には「訪問お断り」の旗を出しているスワンキーに助けを求め、厳しく叱られたり。季節労働者が集まるAmazonの倉庫でも、チーム作業をするメンバーとのコミュニケーションは欠かせない。

「一人で生きるって結局、交流することなんですよね。何かを無くすと、むしろ人生は活性化する。それって、この閉塞した世の中の唯一の希望なんじゃないかな」

 本作の見所の一つは、主演のフランシス・マクドーマンド、彼女が心を通わせるデイブ役のデヴィッド・ストラザーン以外は本物のノマドが出演しているということ。

 38歳の女性監督クロエ・ジャオは、2017年に私費をつぎ込んで撮影した『ザ・ライダー』では、落馬事故の後遺症でロデオを諦めざるを得なくなった若きカウボーイの再生物語を、実際にロデオで大怪我したカウボーイを起用して描いた。当時すでに『ノマドランド』の映画化権を獲得していたマクドーマンドは、トロント国際映画祭で『ザ・ライダー』を観終わるや、「クロエ・ジャオって何者?」と叫んだという。

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