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ナイトワーク従事者による給付金訴訟 「不健全」と言われた人々の嘆き

法の下の平等は確かめられるのか?(イメージ)

 自分が世の中から切り捨てられたと感じたとき、人はどんな気持ちになり、どうやって生き抜こうとするのか。ライターの森鷹久氏が、業種が「不健全」だと国に名指しされ持続化給付金の対象から外された衝撃と、嘆きつつもたくましく生きていこうとする当事者たちの声をレポートする。

【写真】受け取れた唯一の給付金

 * * *

 新型コロナウイルスの感染防止対策で支払われる持続化給付金、家賃支援給付金の対象から外された問題で、関西地方の派遣型風俗店の運営会社が、憲法が保障する法の下の平等に反すると国を相手どり、未払いの給付金や慰謝料など計約450万円を求めて訴えている。その第一回目の口頭弁論が4月15日に東京地裁で行われた。そこで行われた国側の主張が大きな波紋を拡げている。大手紙司法担当記者が解説する。

「国側は性風俗業について『本質的に不健全』とした上で、支給の対象外とした判断は合理的、と主張したのです。国の反論はある程度予想できたことではありますが、不健全だと強い表現で言い切ったことには驚きました。業界に対して市民が持つイメージがあるのは理解できますが、ここまであからさまな主張が出たことに、業界からは強い反発が出ています」(司法担当記者)

 原告側は、2020年4~5月、緊急事態宣言に伴う休業要請に応じたにもかかわらず、持続化給付金と家賃支援給付金を受けられなかったのは、職業を理由とした不当な差別だと主張。それに対する国は答弁書で、今まで災害時も公的支援の対象外としてきたこと、過去の判例に従い本質的に不健全なので、給付金の対象外とするのは合理的な区別だと争う姿勢を示した。

 筆者はこれまで、複数の風俗事業者に取材をしてきたなかで、法律を遵守し、税金だって納めているのに給付金などを受け取ることができないのはおかしい、という声を聞いてきた。確かに、納税などの義務を果たしている事業者も、不真面目な者たちも「同じ不健全なもの」として判断されては、当事者は理不尽だと思うだろう。

「お金の問題ではなく、私たちの存在自体が否定される、人権の問題になってしまった」

 こう話すのは、都内の派遣型風俗店経営者・藤田勝さん(仮名・40代)。昨年4月の緊急事態宣言時、都の「休業要請対象業種」に自社が含まれている事を確認。感染拡大防止協力金が支払われるものだろうと思っていたのだが、その後、都は派遣型事業者には支払われないと説明を変えた。

「協力金だけでなく、持続化給付金もダメ。法律に従って届出も出しているし、税金も払っている。働いている女性も税金を支払い、確定申告も行っている。みなさんと同じように働いて、税金を納めているのに『不健全な業種だから』と言われて……。暴力団でもないし、人を騙しているわけでもない、法に触れる罪を犯しているわけでもないのに不健全と一方的に言われて、社会から追い出されようとしている。不埒な輩が多い業界だから不健全なのか、こういう商売が不健全だと言っているのかもわからない」(藤田さん)

 藤田さんがいう「協力金(感染拡大防止協力金)」と、持続化給付金は別である。前者は緊急事態宣言下の休業、時短営業について地方自治体から支払われる協力金であり、後者は国が支給する「事業の継続を支え、再起の糧として、事業全般に広く使える給付金」である。藤田さんは、いずれも受け取ることが出来ていない。裁判で争われているのはこのうち、国が支給する持続化給付金についてである。

 そこでの国の主張は、その業界で働く人たちにとって残酷な内容だった。感染拡大防止のために仕事をするな、でも金は払わないし事業が継続される必要もない、と宣告されたと受け取らざるをえず、暗い気持ちにさせられたという。

「国民全員に配られた一律の給付金は受け取りましたが、それ以外については、私は何ももらえていない。申請以前に、どこに問い合わせをしても門前払い。窓口の担当者に接客業と言うと、どんな接客かと詳しく聞かれ、性風俗というと『あー』と鼻で笑われたこともある。子供も育てていて、懸命に働いています。税金も払っています。なのになぜ……」

 埼玉県内在住の性風俗店従業員・持田真由美さん(仮名・20代)は、冒頭の「国の主張」をネットニュースで見て絶句した。元々、人材派遣会社に登録し工場で働いていたが、身篭ったことで就業が困難になった。派遣社員に産休はない、と会社に言われたためだ。子供の父親は妊娠がわかった直後に連絡が取れなくなったが、産まれてくる子供に罪はないと思い、出産を決意した。頼れる親族も近くにおらず、食べるため、子供の生活のために始めたのが風俗店での仕事だった。

「お店で働く人のほとんどが、さまざまな事情からやむを得なく働いている状況。ひとり親や困窮家庭を支援する策がないからです。それなのに不健全と言い切るなんて、人間として認められていないとしか感じません」(持田さん)

 働くために子供を預ける場所を探していた持田さんの場合、公立の保育園や幼稚園の抽選にも漏れ、保育料が高い民間の認可外保育施設を利用せざるを得ず、それに見合った収入が必要になった。ところが、事務職など一般的な昼の仕事では子育てしながらでは給与が低く抑えられてしまう。それでは最低限度の生活ができる見込みも立たないため、比較的高給な業界を選ばざるを得なかった。

 正直なところ、給付してもらえるなら欲しいと今も思っている。だが、その願いを自分で訴える余力はない。目の前の生活で精一杯なのだ。

「今回の訴えのように、風俗業従事者で必死に声をあげる人たちは少ない。もう諦めたという事でしょう。私にできることは、今も働いてお金を稼ぎ、子供を育てること。感染に怯える前に、今日を生き抜くしかありません」(持田さん)

 大きな目標で言えば、給付金は「感染拡大防止」と「終息」を目指すための政策だというならば、業種にかかわらず広く支給されるものだと思っていたし、期待もしていた。そのぶん落胆させられたが、子供を育てるためには嘆きも怯えも振り払い、働くしかない。

 新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい続けるなか、もともと大きな資産を持つ人はさらに豊かになり、コツコツと労働を積み重ねることで暮らしてきた人たちが苦境に追い込まれている。目の前の生活のために必死で働く人を助ける仕組みが作られることに、反対する人はいないだろう。しかし、現実は性善説通りにいかないのか。

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