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『ビブリア古書堂の事件手帖』や『謎解きはディナーのあとで』がウケる理由

前々回の記事で紹介した田端信太郎『MEDIA MAKERS』。紹介したとおり、まだまだいろいろ使えるところがある。


その中でも特に、コンテンツにおけるリニア/ノンリニアという二元論は、ここ最近考えていたこととすごくつながる。

リニアとは「線上」という意味で、田端さんのいう「リニアなコンテンツ」とは、「初めから終わりまで一直線に連続した形で見てもらえることを想定したコンテンツ」のことである。リニアなコンテンツの典型例は、劇場で観る映画だ。これに関連して、映画監督がなぜ「偉い」のか? という話も興味深いが、ここでは本筋ではないので省略。

これに対して、ノンリニアなコンテンツとは、「読者側に時間軸のコントロールが委ねられており、最初から見なくてもいいし、どこからどう見ても成り立つように断片化されてバラバラになっているコンテンツ」ということになる。


本文でも述べられているが、デジタルメディアの性質上、ノンリニアなコンテンツが時代の趨勢となっていることは間違いない。たぶんDVDよりもっと前に、家のVHSで映画が観れるようになったときから、この傾向は強まり続けているのだろう。

ぼくには、デジタルメディアとノンリニアなコンテンツの相性のよさを「痛感」した実体験がある。

今、友達と電子書籍で何か面白いものを作ろうと考えているのだが、アイデアを出す段階で気づかされたことがある。単線的なコンテンツというのは、電子書籍に全くもって不向きなのだ――というより、ただの長編小説など、リニアなコンテンツなら、電子書籍でやる必要がない。

それよりは、リンクを踏んでいろんな場所に飛べるコンテンツや、辞書のように個別のインデックスが集積しているコンテンツの方が、水が合っている。実際、いまでもウィキペディアなどでキーワードをとりとめもなく行き来することが、最強の暇つぶしツールであったりする。


田端さんはさらに、メディア環境の特性だけでなく「現代の生活者」の側にもその傾向が強まっていると続ける。

リニアなコンテンツというのは、連続した時間を費やすことを視聴者に要求しますが、現代の生活者に対して、連続した時間消費を強いること自体の負荷が高くなりつつあると思います。例えば、映画を1本見る、つまり連続した2時間を一つのコンテンツに捧げることの方が、毎日15分、朝の連続ドラマを2週間にわたって見るよりも、ずっと心理的コストは大きく感じられるというのが現代のメディア状況かもしれません。これは必ずしも、のべ時間の総量の問題ではありません。割り込みが入らない形で、連続した時間を確保することがどんどん難しくなっているのです。

pp95-96


ここでぴんときたのは、小説もそのような傾向があるのではないか? ということだ。

前回のUSTで取り上げた『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズや、第一回でとりあげた『謎解きはディナーのあとで』シリーズは、いずれも昨年、今年とベストセラーになった作品だ。


とくに『ビブリア古書堂』のときには述べたが、よくできた小説であるが「好きじゃない」ということを強調した。というのも、どちらの作品も世界観、トーン、起きる事件がみな「軽すぎる」のである。どちらも事件や事故が起こるが、おそらくこの小説を「怖い」とか「気持ち悪い」と評する人は、100人中一人もいないんじゃないだろうか。それくらいあっさりしている。小説に、グロテスクなものや、わいせつなものを欲しているという人からすれば、好みからだいぶかけ離れているということになる。

ただ、小説にどのようなものを求めるかは人それぞれであった、繰り返すがこれは好みの問題だ。


重要なのは、こうした軽妙な小説が今ウケているということだ。この2作がここまでウケる理由はなんなのか?


ここには「ファストブック」と呼ぶことができるコンテンツのマーケットが形成されつつあるんじゃないだろうか、とぼくは推理している。

「ファストブック」とは、前回放送で@a_atsushiくんがその場の思いつきで言っていた造語だが、これは言いえて妙な表現だ。勝手に使わせてもらう(笑)

これは、ライトノベルとはちょっとちがう。読みたいときにさっと物語の中に入り込めて、また別の行動に移るときもさっと本を閉じることができる。さらにそのあとの行動に支障をきたさない、尾を引かないような内容。『ビブリア古書堂』も『謎解きはディナーのあとに』も、そういう点では共通している。

ノンリニアなコンテンツの攻勢が強まる中で、ノンリニアな需要ができる「ファストブック」をはじめとする「ファストコンテンツ」が、これからよりいっそう重宝されるんじゃないだろうか。ぼく個人としては、あまり好みではないが、どうやらそのような傾向にあるみたいだ。

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