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米警察の射殺標的、低年齢化

Kamil Krzaczynski/Getty Images写真:警察によりアダム・トレード君(享年13歳)が射殺された 出典:Kamil Krzaczynski/Getty Images

岩田太郎(在米ジャーナリスト)

【まとめ】

・米国で18歳未満の未成年者が警察に射殺されたとの報道が増加。

・背景に司法、社会風潮、犯罪厳罰化による警察の増長あり。

・次世代の若い人たちの幸福に関心を失った社会に未来はない。

近年、米国において18歳未満の未成年者が警察に射殺されたとの報道が増加している。背景には、司法による警察への生殺与奪権の付与と完全免罪、子供を子供として尊重しなくなった米国の社会風潮、さらに政治家や政党による犯罪厳罰化の立法が警察の増長を引き起こしたことに対する検証や反省が欠如していることが挙げられる。

■13歳の少年も無慈悲に殺害

中西部イリノイ州シカゴで3月29日深夜2時半、ヒスパニック系少年のアダム・トレード君(享年13)が警官に射殺された。発砲の通報を受けて容疑者のトレード君らを追跡した警官は、「警察だ!止まれ!今すぐ止まれ!両手!両手!両手を上げろ!」と叫び、「(武器を)捨てろ」と怒鳴った後、命令通りに両手を上げ、その際には武器を所持していなかったトレード君の胸を無慈悲に撃ち抜いたのである。

同市のロリ・ライトフット市長は、「率直に言って、私たちはアダムの力になれなかった」と述べ、「これ以上、市内で若者を1人たりともこのように失うことがあってはならない」と言明した。トレード君のような低年齢の少年が深夜に街をうろつき、銃さえ持っていたことは異常である。親がきちんと養育をしていないのは明らかであるし、地域社会の見守りや包摂力が崩壊しており、さらに行政側の非行少年補導システムがうまく機能していないことも確かだ。

だが、なぜここまで事態がエスカレートするのか。そこには、警察官が「犯罪を解決することで社会をよくする」という本来の職務の執行を目的とするのではなく、「従わない者は、法の手続きや更生のチャンスなど与えず、虫けらのように殺してもよい」という肥大した生殺与奪の権力を司法から与えられており、その権力が腐敗している結果であると言える。

さらに、警察官が裁判抜きのインスタント処刑人のように振る舞う背景には、「射殺という手段を用いても、案件を終わらせなければならない」という、必然的にエスカレーションを引き起こすパフォーマンス主義がある。警官は武装して逮捕権を持つのだから、後ろめたさのある人たちの一部は逃げ出し、抵抗する。だが、たとえば家庭内暴力の通報で呼ばれた警察が、子供の目前で、抵抗した父親を射殺する案件が頻発するのは異常だ。社会を改善する能力に欠ける警察はもはや「解決」ではなく、「ザ・問題」になっている。

市民側にも問題がある。ホームレスや精神疾患を持つ人を見れば、住民は排除のために警察を呼ぶ。学校は問題を起こした子供に懲戒処分を下す代わりに、警察に逮捕を求める。近所や家庭内のつまらない口論を、人々は警察に通報して大事(おおごと)にする。これには、当事者同士の解決努力を何でも公的な争いに仕立て上げる訴訟文化が大きな役割を果たしている。「どんな些細なことでも通報を」とするジェンダー論的な警察肥大国家の末路であり、更生のチャンスが与えられるべき非行少年たちは、大人たちの無責任さの犠牲になっている面がある。

▲写真 アダム・トレード君射殺への抗議者行進に際し、ロリ・ライトフット市長宅付近を警備する警察官 出典:Kamil Krzaczynski/Getty Images

■子供の幸福のための努力を放棄

警察による同様の非行少年の射殺に話を戻そう。未成年者の射殺はシカゴで過去にも起こっているだけでなく、全米で今なお増加している。日本ではあまり注目されなかったが、ハワイ州ホノルル市で4月5日に、ミクロネシア連邦共和国のチューク諸島(旧日本委任統治領である南洋群島のトラック諸島)にルーツを持つアイリメンバー・サイカップ君(享年16)が盗難車を運転して逃走中に、ハワイ大学マノア校にほど近いマッカリー地区で追跡中の警察により射殺された。

白人(ハワイ語ではハオレ)女性であるホノルル市警のスーザン・バラード本部長は、「サイカップ君ら14歳から22歳の少年6人の一団はモデルガン強盗を働き、盗難車のホンダ・アコードで逃走中に対向車線にはみ出し暴走した。その時点で3人の警察官が複数回発砲し、車ははずみで運河に落下した」と説明した。だが、バラード本部長は、本当に少年たちが他人や警官の命を危険にさらしたのか、彼らがその時点で武装していたのか、警官は何発を発砲したのか、サイカップ君の身体のどこに弾丸が命中したかなど、詳細をまだ明らかにしていない。

サイカップ君は4歳の時に、英語を話せない母親や祖母と共に、ホノルルでも特に治安が悪いカリヒ地区に移住。学校では教師たちが、言葉の通じない親とうまくコミュニケーションが取れず、サイカップ君が中学生になる頃には問題児のレッテルを貼られていた。彼には16歳にして、複数の前科があったとバラード本部長が発表している。

しかし、ハワイではそうした故人を貶める発表が、警察による正当化できない発砲を糊塗する目的を持つものだとして、現地社会で差別されることが多いミクロネシア系の人々を中心に抗議の声が上がっている。

サイカップ君たちが名うての不良少年であったことは、疑いを入れない。しかし、ホノルル市警が事件の詳細をすぐに明かせないところを見ると、発砲が正当化できないものであった可能性がある。また、百歩譲って発砲が正当化できるものであったとしても、社会として次世代の子供たちを支え、更生させる意思や努力に欠けていたのではないか。シカゴのトレード君の案件と併せ、米国社会がもう子供たちの幸福のための努力を放棄したのではないかと思わせる。

■司法と民主党が作ったディストピア社会

このような傾向には、司法の判断が大きな役割を果たしてきた。たとえば、米連邦最高裁判所は1985年の判決で、丸腰の黒人少年エドワード・ガーナー君(享年15)がテネシー州で強盗犯と誤認され、警察官に射殺された事件の判決で、「容疑者が死や重大な傷害をもたらすと信じるに足る相当な理由がある場合、射殺は合憲」とした。

これ以降、「殺されると思った」と証言すれば、容疑者が丸腰であろうが、未成年であろうが、殺害が合法とされることになったのである。「法の支配」は、警察官など公務員にも平等に及ぶはずだが、それは建前に過ぎない。仕事の基礎部分を警察に依存する検察は警察官に頭が上がらず、訴追できないし、実際に訴追はほとんどしない。訴追されても有罪になることは稀だ。米国の警官は、神のような万能感で権力を振りかざすようになった。

だが、どのような国であれ、次世代の若い人たちの幸福に関心を失った社会に未来はない。警察に殺害される未成年者たちが、有色人種に大きく偏っているのであれば、なおさらである。そのような結果を招いた「対麻薬戦争」や犯罪厳罰化の流れには、カマラ・ハリス副大統領エイミー・クロブシャー上院議員をはじめ、民主党やその政治家たちが大きな役割を果たしてきた。警察による、未成年者を含む丸腰の有色人種の人々の射殺の大半が、民主党地域で起こっているのは、偶然ではない。

その過去に直面することなくして、問題の解決は望みようがない。しかし、厳罰化を推進した者たちは、保身の責任逃れに終始している。そのため米国では、これからも更生の可能性がある若い人たちが、警察に射殺され続けるだろう。

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