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周囲の舌打ち、改札から乗車まで20分…健常者が知らない“車椅子移動のリアル” - ダブル手帳

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 車椅子ユーザーの伊是名夏子氏が「JRで目的駅が無人であることを理由に『乗車拒否』されたのは合理的配慮を欠く対応である」旨をブログで述べたところ、逆に「なぜ事前連絡しなかったのか」「下調べや想定が甘い」「感謝が無い」等の非難を受ける事態となった。

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 彼女が訴えたニーズ自体は、私も含め大半の車椅子ユーザーに共通している。その表現方法も、バリアフリーを求める障害者運動としては極めてオーソドックスだ。

 今回、多くの人が「自分も当事者になり得る身近な問題」と捉えた事は大変嬉しいが、駅員に感情移入するあまり、障害者を個々人の糾弾が目的のクレーマーのように誤解されているきらいもある。

 しかし障害者にも各々の生活があるので、周囲を虐めて楽しもうと敢えて揉め事を起こす程暇な人は稀だ。にも関わらずそうしたステレオタイプが根強いのは「普段何に困っていて、それをどう処理しているのか」という素朴な実感が共有されてないからだろう。

 本稿では利害対立・権利の有無・要求の是非・責任の所在といった大きな話の遥か手前にある細部を記述したい。具体的には、私の日々の移動風景だ。

スロープの設置が必要な「乗車」

 まず最寄り駅に向かう。車椅子は駆け足ができず最速でも小走りより遅い仕様のため、30秒でも家を出るのが遅れたら取り戻す術は無い。

 ほぼ全ての駅でスロープ(ホームから車両に渡す板)の設置が必要なため、乗車には事実上駅員の許可が必須だ。直前にではなく8~10分前に着いて依頼する。それでも駅員が改札から離れていたりして乗れないこともよくある。

 乗車前に駅員が到着駅に連絡をするが、連絡が付かなければ乗れないため、必然的に次かその次の電車に乗ることになる。目前の電車を見送るのは結構ストレスだ。

©️iStock.com

 とりわけJRは時間を要する。大阪駅を例にすると、まず改札から案内役に連絡を入れてもらいお迎えを待つ。案内役が到着駅に電話をかけ始めるのは基本的に乗車位置に着いてからなので、改札から乗車まで20分くらいかかることはざらだ。高い規範意識の裏返しなのだろうが、時間がタイトな中でJRを利用するのは大きな賭けである。

乗り換え時間のロスも大きい

 車椅子は乗り換えの時間ロスも大きい。階段ならすぐの所もエレベーター(以下、EV)を2~3回乗り降りして遠回りする。仮にスムーズに乗り換えられそうな時でも殆どは駅員の側から「大事を取って10分後の電車で」と指定される。

 ちなみに歩ける知人達と話して初めて分かったのだが、車椅子で、特に一人で出歩いている時に、電車内や街中で舌打ちされたり露骨に嫌な顔をされたりする頻度はご想像よりずっと高いと思う。

 さて、私が会社員として毎日通勤していたころは、こうしてかかる時間を考慮し、出社したい時間の50分前には家を出ていた。今、グーグルで自宅から当時の勤務先までの経路を調べたところ、所要時間は24分とある。およそ倍だ。

車椅子のルートはわかりにくく複雑、さらに誤った情報も…

 疎い場所の移動にはさらにハードルがある。駅や施設ごとの情報はあっても、車椅子のルートの全貌が分かるバリアフリーマップはまだまだ少ない。数年前から更新されておらず全く当てにならないこともある。従って、駅・商業施設・グーグル等を注意深く見比べて読み解く根気が要る。歩行者より遥かに複雑な行程を覚えるのは一苦労だ。

 入ってもEVが無い改札も多く、別の階などの改札へ大回りせねばならない。サインに従ったら急に階段が現れて10分ぐらい引き返すということもよくある。駅ではなく商業ビルのEVから入らねばならない事も多く、当然ビルの営業時間しか使えない。こうした罠には予備知識が無いと確実に嵌る。

 今でも思い出すのは、日本の中枢たる国会周辺での経験だ。溜池山王駅、国会議事堂前駅、南北線、千代田線、銀座線、丸ノ内線が複雑に入り乱れ、相互の行き来は階段に阻まれる。サインに従うと誤ったルートに誘導されてしまう。私が行った時は工事中のEVもあって混乱に拍車を掛けていた。手あたり次第に人に声を掛けて「向こうから入って」「隣の駅で乗って」などと色々聞き、10回くらいEVに乗り30分以上彷徨った。

 私にとってこの類の事は日常茶飯時だが、同行してくれた健常者は「異常だ」と衝撃を受けていた。車椅子のルートが分かるサインもあればいいのにな、というのは常々思う。

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