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不動心「松井秀喜」引退に思う

松井秀喜選手(38)が引退表明した。通算20年の現役生活に本日、ピリオドを打ったのである。ニュース映像を見ながら、さまざまな思いがこみ上げた。

どんな名選手であろうと、必ず迎える「その時」を、松井はニューヨークで迎えた。巨人、ヤンキースなど、5球団で20年。怪物もついに「バットを置く」のである。

私は、今年7月26日のブログで、「松井よ、日本に帰って来い」と書いた。かつて選手生活の晩年を巨人で過ごしたメジャーの名選手レジー・スミスを例にとり、松井選手に「日本球界復帰を」と願うファンの気持ちを代弁させてもらったのだ。

しかし、ファンの声も虚しく松井は引退の道を選んだ。それもまた、松井らしい。今日の会見で私が最も心を揺さぶられたのは、自分は「命がけでプレー」をしたというくだりだった。

そう、松井は「命がけ」でプレーした野球選手だった。松井は、1992年夏の甲子園で明徳義塾の河野和洋投手に5敬遠されて悲劇のヒーローとなり、そのままスターへの道を歩んだ。

この5敬遠の物語は、拙著『あの一瞬 アスリートはなぜ奇跡を起こすのか』(新潮社)に書かせてもらった。あれから20年経った今、その松井がバットを置くのである。

彼の野球人生は、実は茨(いばら)の道だった。松井には、バッターとして致命的な「膝が硬い」という欠点があったからだ。私は、プロではそこを突かれて、松井が大成できないかもしれない、とさえ思っていた。

しかし、入団3年目に、松井はその欠点を克服していた。私は、なぜ彼が変わったのか、そのことが長い間、不思議でならなかった。彼にそのことを聞けたのは、2007年1月のことだった。

当時、週刊新潮のデスクだった私は、松井選手にそのことを問うた。彼は、これを克服した入団2年が過ぎたオフシーズンのことを語り、「それ以後、それまでの自分とは、まったく違ったものになった」と表現した。

「膝元もそうですが、身体に近いコースを徹底的に攻められました。肘(ひじ)が畳めないとか、インサイドアウトのスイングとか、そんなことだけではなく、当時の僕は、バットの軌道がワンパターンだった。これは、腕がどうというより、身体全体にかかわることです。当時、そのことを考えて寝つけなかったり、いろいろ悩みました。夜中にガバッと飛び起きて、バットスイングを繰り返し、どうすればこの欠点が克服できるのか、と考えたことを思い出します」

そして、日々の練習では、「身体に当たるようなボールを打つ練習」までおこない、「そのイメージをしたスイングをつづけた」というのである。そういう“極端な練習”を反復してやった結果、苦手だった膝元を突く球も打てるようになったというのである。

バッターは3割打てば、強打者だ。つまり7割は打ち取られる。「僕は、この7割の失敗をずっと生かそうとしてきました。失敗をどう生かすか、あるいはどう活用するかによって“次への一歩”として大きく差が出てくるものだと思います」

私がさせてもらったこの松井選手へのインタビューは、今でも彼の著書『不動心』を出版した新潮社のホームページに出ている。あの時、私には、松井が「大選手」である意味が、少しだけわかった気がした。松井は、まぎれもなく“努力”と“執念”の人だった。

一方、松井を甲子園で5敬遠した明徳義塾の河野和洋選手のことも、私は今年の5月7日付のブログに書いている。「たかが野球、されど野球 松井5敬遠から20年」というものだ。

大学で野球を教える河野君とは、今も時々、話すことがあるが、二人の人生については、折に触れて、今後も紹介する機会があるだろう。今は、「ご苦労さん、これからが本当の人生の勝負だ」という言葉を松井君にはかけてあげたい。長い間、お疲れさまでした。

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