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【読書感想】ニッポン 未完の民主主義-世界が驚く、日本の知られざる無意識と弱点

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佐藤:そんな小泉(純一郎)さんが、最高権力者になってから推し進めたのが、「ポピュリズムの政治」でした。国民の絶大な支持を背景に、「骨太の」政策を断行する。それは、表向きには民主主義を貫徹しているように見えて、実はそうとは言えなかったのではないか、というのが私の小泉政権に対する評価なのです。

 では、健全な民主主義というポピュリズムは、どう違うのか? ポピュリズムという言葉が多用される際に、なかなかうまい定義がされていないように思うのですが、私は次のように切り分けています。

 すなわち、ポピュリズムは、基本的には多数決原理で50%プラス1票を取ったら、その人は「総取り」して問題ない、という発想です。とにかく「数は正義」なのだ、と。それに対して、「本当の民主主義」には、多数派がいたずらに数で押し切ることをせず、少数派の意見を最後まで尊重して議論を尽くす姿勢が貫かれている。そういう違いがあると考えるのです。

池上:小泉政治は、まさに「数は正義」でしたね。少数派は最初から「抵抗勢力」で、議論の余地なし、とされましたから。

佐藤:そして、そのやり方を多数の国民が一生懸命、後押ししていたわけです。

 いまから考えると、郵政が民営化されたことで、国民は幸せになったのだろうか?
 あのときは、「自民党」や「郵便局員」という、「これまで甘い汁を吸ってきた既成勢力」を打破することが「正しい」と僕も思って、投票所に行ったのです。

 正直「いい気になっている連中に一泡吹かせてやった、ざまーみろ」みたいな気持ちでもありました。
 その結果生まれたのが、より格差が広がった社会ではあったわけですが。
 ただ、それも「世界(アメリカ)基準に日本を近づけた」だけであって、小泉改革がなければ、日本は経済的に今よりも世界の成長から取り残されていた可能性もあるんですよね……結局、何が「正解」だったのか、そもそも「正解」なんてあったのか……

 民主主義というのは、「いい気になっているヤツを引きずり下ろす力が働きやすい」というのは、世界史で習った、ギリシアの「陶片追放」の時代からの伝統なのです。

 新型コロナ禍のような危機的な状況になると、「少数派の意見を尊重する」よりも、「とにかく早く、効率的に」と考えがちにもなります。

 新型コロナ禍に対して、日本では法的な規制ではなく、「自粛の要請」がなされていました。
 「自粛」というのは自発的にやることで、それを「要請」するのは言葉として矛盾しているのです。
 日本という国は、そこで国が強権的に「外出禁止」「営業禁止」の命令を出し、違反者を取り締まる、ということをためらう「民主的な国家」ではあったのです。

 国が取り締まらなくても「自粛警察」として、人々が自発的に「迷惑をかける人」をつまはじきにする「国民性」あればこそ、だったのかもしれませんが。

池上:ジョー・バイデンが大統領選の開票作業のさ中、なかなか当確が打たれない段階で、支持者に対して「ペイシェンス、ペイシェンス」と繰り返していましたよね。私は、民主主義を守るために今何が必要かと言えば、まさに「忍耐」ではないかと思うのです。膨大な票を最後の一票まで数えなければならないのは、面倒臭い。けれども、民主主義はそういうものだとある意味開き直って、それを守っていく覚悟こそが大切なのだということを、まざまざと見せつけたシーンに、私の目には映りました。

佐藤:日本人の感覚からすると、どうして結果を出すのにそんなに日にちがかかるのだ、ということになるのだけれど、民主主義という観点から見たら、なんら異常な光景ではない。

池上:そういうことです。戦後民主主義のなかで育った私たちは、小学生の頃から、とにかく、みんなで話し合って決めましょう。決まらなかったら多数決です。多数決で勝ったほうの考えに従いましょう──というのが民主主義で、とにかく素晴らしいものだと教えられ、そう信じ込んできたのだけれど、実はとても面倒臭くて忍耐が必要なものなのです。「私はこうする」という人間についていったほうが、楽にきまっていますよ。

佐藤:私が尊敬する芥川賞作家の大城立裕さんは、『普天間よ』『辺野古遠望』などの作品で、まさに「我慢すること」を描いているのです。私は亡くなった大城さんとメールのやり取りをしていたのですが、基地問題については、沖縄の負担軽減について聞く耳を持たない日本政府と「我慢しながら闘う方法を考えなくてはいけない」という言葉が、非常に強く印象に残っています。これこそが民主主義で、なにか敵を打ち負かして「ああ、気持ちが良かった」という感じになってはいけないのだ、ということをあらためて教えられた気がしました。

池上:理不尽とも言える状況下での言葉だから、説得力があります。同時に、「闘うこと」というのも、真情が溢れた言葉です。民主主義は平和を実現する手段でもあるのですが、それを勝ち取ったり守ったりというのは、大変な戦いなのです。

 「悪者」とされる相手をやっつけて、「ああスッキリした!」という気分になりたいのを抑えて、「面倒な手続きをきちんとやる」「忍耐強く交渉を続けていく」のが「民主主義」なんだよなあ、とあらためて考えさせられる対談本でした。

fujipon.hatenadiary.com

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