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介護負担の軽減に勝るものはありませんが

家事や介護に1日4時間 中高生の5%がヤングケアラー(朝日新聞)

 大人の代わりに家事や介護といった家族の世話を担う子ども「ヤングケアラー」が、中学・高校生でおよそ20人に1人いることが、厚生労働省が12日に発表した初の全国調査で明らかになった。世話に割く時間は1日平均4時間に及び、当事者からは学校生活や将来への影響を心配する声も出ている。

 調査は全国の公立中学の2年生と公立高校(全日制など)の2年生を対象に昨年12月以降に実施し、1万3777人から回答があった。世話している家族がいると答えたのは中学2年で5・7%、高校2年(全日制)で4・1%。文部科学省の統計にあてはめると、中学2年で約5万5千人、高校2年(全日制)で約4万2千人がヤングケアラーという計算になる。

 調査では親や祖父母の介護に加え、幼いきょうだいの世話も含めて尋ねた。その結果、世話の相手はきょうだいの割合が最も高く、中学2年は61・8%、高校2年(同)で44・3%。父母は中学2年で23・5%、高校2年(同)で29・6%だった。世話の内容は、中学2年で相手が父母の場合、「食事の準備や掃除、洗濯などの家事」(73・3%)が最も多かった。相手がきょうだいの場合、「見守り」(68%)が最多で「家事」は37・6%、「きょうだいの世話や保育所への送迎など」も34%いた。

 この厚労省の調査が発表されるに先立って、いくつかのメディアでは俄に「ヤングケアラー」が取り沙汰されるようになったわけですが、調査結果を見るとどうでしょうか。新聞やニュースで事例として紹介される「ヤングケアラー」は、専ら祖父母や病気の親などのケアに忙殺される子供たちでした。しかるに厚労省の調査では「きょうだい」の割合が最多と伝えています。

 どうにもメディアに登場する「祖父母や親の介護に追われる子供」と、厚労省の発表するところの多数派である「兄弟姉妹の世話をする子供」とで、ずいぶんと温度差があるように感じるばかりです。前者であれば世間の同情なり共感なりも集めやすく、だからメディアも意図してピックアップしたものと推測されますが、真の多数派である後者はどう受け止められるのでしょうね。

 いわゆる団塊の世代の一つ上の世代ともなれば、厚労省の言う「ヤングケアラー」であることが一般的であったように思います。私の祖父母も子供の頃は兄/姉が弟や妹の面倒を見るのは当然という空気の中で育ってきたもので、それがヤングケアラーなどと特別な呼称を与えられることなど考えられなかったわけです。まさに隔世の感、と言ったところでしょうか。

 少子化が進み、世帯における子供の数も減少する中、弟や妹を世話するという経験は希少なものとなりました。そして、この経験の喪失はむしろネガティブに扱われがちであったように思います。一人っ子であったり、弟や妹がいても母親がすべて引き受けてくれる――そうした「ヤングケアラー」とは縁のない環境は、祖父母の世代の比べて必ずしも肯定的に評価されては来なかったはずです。

 また極端な子だくさん家庭がテレビ番組に登場することがありますけれど、そこに登場する子供たちが自分の時間を取れているようには全く見えないわけです。両親だけでは子供たち全員の面倒を見られないのは当たり前、代わって年長の兄姉が弟や妹の面倒を見る姿も微笑ましい家庭の絆として取り上げられるところですが、これも立派なヤングケアラーの家庭ではないでしょうか。

 何が価値のある経験と見なされるのか、何が人生の浪費と見なされるのか――最近は、そういうことをよく考えています。政府が保証すれば紙切れは「金」になり、高名な評論家が保証すれば落書きは現代アートの傑作になるものですが、この「ヤングケアラー」の、兄弟姉妹に加えて祖父母や両親の世話をしてきた経験は、どうすれば価値あるものになるのでしょう。

 親もしくは祖父母の介護で仕事を続けられなくなる大人なんてのは、同じ理由で進学できなくなる子供なんかとは比べものにならない規模で存在します。そして介護のために離職した人は、要介護者の死去によって荷が軽くなった後こそ復職への高い壁に突き当たり、そのまま労働市場から排除されてしまうことが少なくありません。身内の介護の経験は、再就職に当たって何らプラスにはならないわけです。

 同様に身内の世話に忙殺される経験は子供にとってどうでしょう。進学や就職に当たってはハンデになっている様子が見受けられないでもありません。一方で、ボランティアとして地域の子供たちの面倒を見たり、地域の高齢者の世話をしたりと、そういう活動実績は推薦入試や就職の際に有利に働きそうなイメージがあります。両者の印象の違いはどこから来るのでしょうね。

 天動説は言うまでもなく間違った説ですけれど、天動説の正しさを証明するために積み立てられた理論は実のところ結構な精密さを持っています。落書きを現代アートに化けさせるための理論付けだって、作品の価値とは裏腹に学問体型としては立派なものです。ならば「身内のケア」を価値のあるものに変えるための研究や論理も、あって良さそうな気がしますね。

 「受験勉強ばかりでなく、高校時代にやっておくべきこと、例えば音楽とか、恋愛始め人間関係の葛藤とか、幅広い経験をしてきた人に入試のバリアを少し下げる」とは、2013年当時の京都大学総長であった松本紘氏の発言です。こういう「勉強」を軽視して人物重視を訴える論者は枚挙にいとまがありませんけれど、いかがなものでしょうか。

 ペーパーテストの点数だけで合否を決めると、学力「以外」は不揃いになります。結果として京都大学は勉強はできるけれど人間性はバラバラな、奇人変人の集まりとして知られてきたわけです。その辺を憂慮した総長の発言であったと思われますが、何を経験すれば京都大学の入試でプラスになるのかは興味深いところです。

 総長の挙げた「音楽とか、恋愛」とは、いかにも月並みで京都大学にふさわしくないという他ありません。そして今から振り返れば、「身内の介護経験」はどうなんだろうと思うわけです。身内の介護経験が京都大学の入試に当たってハードルを下げるにふさわしいだけの誉れあるものとして扱われる世の中であったならば、いわゆるヤングケアラーも少しは救われることでしょう。

 結婚しているかどうかで社会的信用が変わる社会もあれば、兵役経験の有無で扱いの変わる国もある、勉強よりも音楽活動や恋愛経験に高得点をつけたがる大学もあります。どのような経験が有意義なものとして扱われ、どのような経験が人生の浪費と扱われるかは、結局のところ恣意的なものです。では身内のケアはどうなのか――介護士のように世の中に欠かせない仕事が薄給で知られているあたり、転換すべきものは多そうです。

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