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同調圧力の限界

 最近のCOVID-19対応に「政治的思惑」が増えて来た事がとても気になっています。ある程度は仕方ないとは言え、科学的な視点が欠如した対応は何処かで行き詰ります。2点だけ挙げておきます、「まん延防止等措置(と緊急事態)」と「第4波」です。

 「まん延防止等措置」については、よく「緊急事態と何が違うの?」と聞かれます。私は「まん延防止等措置」は「緊急事態ライト」と位置付けています。細かな所を捨象すると、「休業要請・命令がやれるかどうか」にほぼ帰結するでしょう。まん延防止等措置を導入した背景には、緊急事態という言葉は強いので避けたいけども、ある程度の強い措置は取れるようにしたいという意向を見て取る事が出来ます。緊急事態は都道府県毎に出される事が想定されている(法律上はそうなっていませんが)ので、財政支出への跳ね返りが強いという事も懸念もあるのだと思います。結果として「今、どれくらいの状態なのか」がどんどん分かりにくくなっています。

 「第4波」についても同様です。第3波の際の緊急事態解除を比較的早目にやったため、現状を第4波と言ってしまうと、緊急事態解除の政治的責任を問われるという考慮があるため、なかなか第4波という表現を使いたがらないのでしょう。

 これは昨年5-6月に北九州市(と東京都)のみで感染が広がった時に同様の経験をしました。当時の官房長官が「第2波ではない」と言った事と、北九州市長が「第2波」と記者会見で言った事でその食い違いがかなり注目されました。恐らく市には官邸からお叱りめいたものが飛んできた事でしょう。ただ、後付けでデータを見てみると、どう見ても北九州市に起こった事は「第2波」であり、「第2波と呼びたくない官邸」の姿の方が違和感があります。政治的思惑で「第1波の継続なのか、第2波なのか」が弄ばれた印象があります。

 「政治的思惑」が絡む事をすべて排する事は難しいですが、科学に基づかない形で「緊急事態」、「第4波」といった言葉の使用を避ける事によって国民に誤解を与えるおそれがあるのであれば、それは危険な事だと思います。

 そして、現状を見ていると、私は「同調圧力」の限界を感じます。私は当初から「現在の対策は同調圧力によって補完されて機能している」と指摘して来ました()。改正前の新型インフルエンザ等対策特別措置法は、緊急事態時であってもほぼすべての措置が「要請」でした。要請に従っていただけない方には「名前の公表(つまりは見せしめ)」が用意されていました。つまり、ピア・プレッシャーを掛けるという事ですが、日本的に言うとこれは「同調圧力」であり、「村八分」です。

 このような手法は欧米ではまず機能しません。なので、当初は日本が法制度上強い措置を取っていないのに、そこそこ感染者が抑え込めているのを欧米メディアは興味深く取り上げていました。政権幹部も日本的手法を礼賛する向きが強かったように記憶しています。

 しかし、繰り返しになりますが、制度を保管しているのは文化としての「同調圧力」と「村八分」です。私は当初から「この同調圧力が機能しなくなる時は制度そのものが機能しない」と指摘して来ました(再掲)。そして、現在起こっているのは正に同調圧力が機能しなくなった状態です。コロナ疲れでもう外出や移動の抑制に従ってもらえなくなっています。同調圧力くらいでは「もう生活や仕事が厳しくなって来ていて、そんなものには従えない」というのが現状でしょうし、それを世の中全体も是としているように見えます。

 多分、現政権の考えは「だからと言って、オリンピック開催の可能性を残す中、今更法改正の上、強い措置は取れない。ワクチンが広まれば収まるので、そこまでの我慢。」という事でしょう。私も現状を前提とするなら、その考えは理解します。「今からでも法改正して強い措置を取るべき」とまで言っているわけではありません。

 ただ、将来同様の事が起こる時のための検証として、極めて厳格な要件の下での時限的な私権制限を導入しておくべきではなかったのかと思います。具体的には外出禁止や休業命令、更には個人情報保護法の一部停止による(スマートフォン等の活用による)感染状況の把握です。台湾のオードリー・タン大臣がやったような対策を礼賛するのであれば、個人情報保護法を時限的に停止せざるを得ないはずです。

 私は基本的人権の尊重という事をとても大切に考える人間です。「私権制限を考えて強権政治を目指す悪魔」ではありません。そこに制約を掛ける事の重大さをきちんと理解しています。そして、やらずに済むのであればやりたくないとも思っています。一度やってしまうと「慣れ」が出来てしまう事への恐怖感は、戦間期ドイツの歴史を学んでよく知っています(なので、私は憲法に「緊急事態条項」を入れる手法にはかなり懐疑的です。)。

 ただ、こういう危機的な時にすべてが自主的な措置(+同調圧力)だけでやっていけると思えないのです。集中的にそのような私権制限を含む措置を導入して、徹底的にCOVID-19の広がりを叩いてしまう事で早期に平穏な世の中が取り戻せるのであれば、それを国民各位は評価していただけるのではないかという思いだけです。しつこいですが、同調圧力が機能しない中では今のコロナ対策の制度はほぼ機能しません。

 私の見解には争いがあるでしょう。御批判がある事も重々承知をしています。

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