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小室圭さん文書「上昇志向」と「理想の皇室像」のミスマッチ 紀宮さまと黒田慶樹さんの結婚が祝福された本当の理由 - 河西 秀哉

 小室圭さんが4月8日に発表した文書が大きな反響を呼んでいる。A4用紙28枚にもわたって書かれたこの文書には、いわゆる金銭トラブルと呼ばれるものの経過が詳細に記され、自らの主張の正当性が展開されている。

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2017年9月3日、婚約内定会見での眞子さまと小室圭さん ©JMPA

文書からは小室圭さんの「自負心」も見えてくる

 この文書には、いわゆる金銭トラブルに発展する前の、小室さんと母親が置かれていた環境についても詳しく書かれている。父親が亡くなった後、母一人子一人で集合住宅に住んでおり、「元婚約者の方がお食事に連れて行ってくださるお店が応分の負担を求められる母にとっては金額の高いお店であることが続いたため、ある時期から母は困難を感じ始め、今後もそのような状態が続くのであれば家計に支障をきたす心配があると思い悩むようにな」ったという。必ずしも裕福な状況ではなかったことがうかがえる記述である。そして、この文書では元婚約者から金銭的なバックアップの申し出があったとの主張が展開されていく。

 ただしここからは、そうした金銭的援助をした元婚約者への感謝の気持ちを読みとることは難しい。あくまで、元婚約者が自発的に援助をし、その後にお金を返して欲しいと言ってきたという論理が展開されている。そしてこの文書からは、決して楽ではない環境のなかで、留学して弁護士になるために勉強する立場になったのは、まわりの助けがあったからではなく、自身の努力の結果なのだという意識があるのではないか、とも感じてしまう。自身や母親と一緒になって困難な環境を克服し、自らの力で上昇してきた――そのような小室圭さんの自負心も見えてくるのである。

上昇志向を常に持ち、自己実現を果たしたという意識

 ただし、こうした小室さんの意識は必ずしも彼特有のものでもないように思われる。

 高度経済成長の時代、自身の環境を打破するために努力を重ね、高学歴となって一流企業に勤めるのはむしろあるべき姿とされたのではないか(美輪明宏が歌う《ヨイトマケの唄》の世界もまさにエンジニアとして出世した子どもが困難な環境を振り返ったものである)。

 もちろん現在の社会は、こうした右肩上がりの時代ではない。皆が皆、上昇志向を展開しようとしているわけでもない。しかし、90年代から2000年代にかけて世界や日本で新自由主義的な政策が強化されて世に広まっていくなかで、個人主義的な風潮は高まり、自己実現が重要視され、かつてとは比べものにならないくらいの上昇志向を持った人々も増加したのではないか。

 高度経済成長期のような上昇志向は持ちつつ、一方で「一億総中流の社会」として皆が平等・同じであるという感覚(まさに映画『ALWAYS 三丁目の夕日』の世界と言えるだろうか)は薄れ、上昇のムーブに自身も乗らなければ、むしろ二極分化していく下降のスパイラルにはまってしまうことを恐れる感覚。

 だからこそ、上昇志向を常に持ち、それを隠そうとせず、そして誰の助けも借りることなく自己の努力によって今の地位を獲得した(自己実現を果たした)という意識を持つ人々はいるように思われる。

対極にある「皇室像」が人々の支持を得てきた

 ところが、平成・令和の皇室はこうした姿とは対極にあり、むしろそうした姿が人々の支持を得てきた。

 頻発する自然災害のなかで、人々から忘れ去られてしまう可能性がある被災地に関心を寄せ続け、高齢にもかかわらず訪問を続け被災者の声に耳を傾けた平成の天皇・皇后の姿は、自己実現とは異なる姿のように見える。

 二極化していく日本社会のなかで、むしろ自分自身に何ら責任がないにもかかわらず下降せざるを得ない人々に寄り添い、忘れかけている私たちにその問題を注視するようにうながしていたとも言える。そうした姿に、ある種の無私の意識や公平性を感じ、象徴天皇制の道徳性や権威性は高まっていたのである。

 私たち自身、そうした天皇・皇后こそあるべき皇室像としてハードルを上げたとも言える。

紀宮さまと黒田慶樹さんの結婚を人々が歓迎した理由

 2005年、紀宮清子内親王(現・黒田清子さん)と結婚した東京都職員の黒田慶樹さんに対し、今回のような批判はなく、人々はその結婚を歓迎していた。長く内廷皇族として天皇・皇后を支えていた清子内親王は36歳で、世間には結婚を待ち望む声もあった。しかも、新潟中越地震の被災者に配慮して婚約内定を延期したことも、自身たちのことよりも被災者のことを思う平成の皇室の姿として、評価された。

 婚約時の「これまで紀宮さまの側近の間では、『紀宮さまには、例えば研究者のような、地道にその道一筋を貫く人がふさわしいかもしれない。財力もある程度あれば』などの言葉が多く聞かれた。地方自治体職員の黒田さんとの婚約内定は、こうした関係者にも新鮮な驚きを提供している」(「毎日新聞」2004年11月15日)という表現からは、清子内親王が世間的には堅実な職業にある男性と結婚することになったことに対して、今まで以上に親近感を覚え評価している様子が見てとてる。

 黒田慶樹さんが上昇志向の結果として清子内親王と結婚するわけではなく、都庁職員として勤めつつ、「恋愛結婚」したことが歓迎されていたのである。黒田慶樹さんが「清々粛々と仕事に取り組」む(「毎日新聞」2005年1月5日、本人の言葉)姿を見せたからこそ、婚約から結婚に至る過程でも多くの人々からの祝福を受けたのではないか。

 小室圭さんからは、上昇志向のエネルギーを強く感じる。それは、現代の競争社会において勝ち残るためには必要な要素であろう。ただし、人々が皇室に抱き理想としていた姿は、むしろそれとは対照的なものであった。だからこそ、小室圭さんの文書に強く反発するのではないか。

(河西 秀哉/文藝春秋 digital)

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