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坂本龍一さん、どうして音楽家なのに脱原発なんですか?:前篇

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もんじゅ君の建つ白木という場所は、すごく自然がゆたか

もんじゅ:ところで、坂本さんの著書『縄文聖地巡礼』(中沢新一との共著・木楽舎)にも出てきますけど、ボクの地元の敦賀にいらっしゃったことがありますよね。

坂本:うん、そのときももんじゅ君に会ったよね。あのあたりはきれいなところだよね、ほんとうに。

もんじゅ:そうなんです。原発って人が少ない場所をねらって建てるから、たいていまわりに自然が残ってますね。海に入ってみても、砂も水もすごくきれいです。

坂本:『縄文聖地巡礼』には、もんじゅ君の建っている白木村の話も出てくるでしょ?

もんじゅ:はい。大陸に向かいあった土地だから、かつて渡来人がやってきて、新羅から白木という地名になったという話も書いてありました。

坂本:土地の人の話しを聞くと、自分たちは新羅から来たと考えているみたいですね。他の地域とくらべるとやっぱりちょっとちがっていて、お国のために土地を差し出しましょう、という気持ちが強いのかな、と思ったり。

もんじゅ:中沢新一さんが、諏訪と比べてずいぶんメンタリティがちがうと話されていますね。この本で印象に残ったのは「原発には、本来の意味でのサクリファイスがない」という坂本さんの言葉です。原子力発電っていうのは、自然に対してプラスマイナスでみてゼロにするんじゃなくて、すごく欲張りにエネルギーを取り出してこようとしているんだな、と。

自然エネルギーについて勉強していくと、自分のいまいるところで小さく使って、また戻して、というふうに、小さなサイクルを回せるところを新鮮に感じます。そこが旧来の大規模発電とは大きく違いますよね。70年代くらいまでは、みんな「原子力=夢のエネルギー」って考えてたけど、なにもないところから無限にエネルギーを取り出せるわけではなくて、けっきょく代償が大きすぎたという……。

坂本:そうだよね、ダムもそう。生態系や人間の生活まで破壊して、みんなに迷惑を強いて巨大ダムをつくって、都会に電気を送るっていうのは、20世紀型の大量生産の発想だよね。こういうのはもうダメで。

ソーラーとかいっている人にも、まだまだそういう考えの人は結構いるんだよね。宇宙空間に巨大なアンテナを建てて、巨大エネルギーを地上に送ろうという……、そういう巨大ビジネス型の発想をする人がまだいますけど、ダメだろうな。

もんじゅ:再生可能エネルギーの本を書くときに、飯田哲也さんに相談したら、「大きい夢を見せよう、みたいなつくりはダメだよ」「再生可能エネルギーのポイントはそこじゃないから」みたいなことをいわれて、ハッとしました。


送電だって、ロスが大きくてもったいない

坂本:僕もしつこくいっているけど、工場、家庭、オフィス……と、電気を使う場所それぞれで、すこしずつでも発電するようになるのがいいんじゃないかな。大規模に電力が必要なところもあるわけだけど、そこも含めて自家発電設備を持つようにする。送電するっていうのは本当にロスが大きいことだから、遠くで発電して運ぶというのはなるべくやめて、使う場所でつくる。

もんじゅ:地方じゃなくて、都市部でも一部では電力の地産地消ができるかもしれませんよね。六本木ヒルズの地下にも大きな自家発電の設備がありますよね。コジェネ(熱電併給)もありますし。

坂本:そうそう。だから、3.11の直後は、六本木ヒルズから東京電力にも電力を供給していたそうだよ。

もんじゅ:災害への備えにもなりますよね。

震災の影響がアートに昇華されるには、きっと時間がかかる

もんじゅ:ところで、ものをつくる人――アーティストと呼ばれる人の中でも、ミュージシャンの方が突出して原発について発言している印象があります。音楽、映画、美術、デザインなど、いろんな領域があるわけですが、坂本さんから見てどう感じますか。

坂本:僕は、この震災や原発事故っていうのは、むかし第二次世界大戦に負けたときとおなじくらいのショックを与えたんじゃないかなと考えてる。だからものをつくる人間は、それを時間がかかっても咀嚼して、なにかに表現していくべきだし、そうするんだと思うよ。

去年からそういう映画もいくつかできてきているし、ポスト3.11文学っていうジャンルがすでにあるという話も聞いたけれど、これは進行中のできごとでもあるわけだし、まだ悶々としていていいと思うんだよね。

もんじゅ:そうですよね。そして、その表現っていうのは、震災や原発事故にかならずしも作品の中で直接ふれる必要もないんだろうと思います。と思っていたら、「くるり」の新譜(『坩堝の電圧』)ではけっこう直接的に震災や福島、原発のことがふれられていて、それがよいアルバムで、驚いたというか。

坂本:うんうん。うちの親父がまさに戦後文学の担当の編集者だったんだけど、戦後文学の生まれた期間っていうのは20~30年ぐらいあったんだよね。戦争に負けたことというよりも、戦争が引き起こしたもの、あるいは戦時中の生と死に関わる体験とかが、戦後になってドーンといっきにいろんな表現で出てきたわけですよね。少なく見積もってもそれが20年ぐらいは続いて、そういうものかなと思っているんですよ。でも、それにしてはまだ(震災に関しては)あまり表現の厚みがないよね。きっとこのあとから出てくるのかもしれないけど。

おなじように、イラク戦争はいちおう終わったわけでしょう。だから、僕は表現という面でイラクに注目しているの。あれだけ一方的に爆撃されて、占領もされて、後味悪いけど、いちおう終わったというかたちになって、米軍が引き上げて。「あれはなんだったんだ?」というんで、イラクからは、音楽とか文学とか映画とか、これからおもしろいものが出てくるんじゃないかなと思うんだけどね。

震災後に読み返したくなったのは、坂口安吾と丸山真男

もんじゅ:文学と聞いて思い出したんですけど、太宰治が戦時中の昭和17年に書いた『十二月八日』っていう太平洋戦争開戦の日を描いた小説があるんです。それは戦時中でも出版できるように、一見すると戦争が始まった高揚感みたいなものを主婦目線で肯定的に書いているんですけど、引いた目で読めば、ものすごくシニカルな表現なんです。それが3.11のあとの、「危険だ」といっちゃいけない雰囲気とか、異様に「絆」を強調する空気とすごく似ていると思いました。

ただ、当時の小説家で、戦争が終わってから書いた人はいるけれども、戦争中に書いて発表してた人ってじつはすごく少ないんですよね。だから、そのできごとがまさに進行している最中に描くっていうのは、すごく難しいことなんだろうと思います。

坂本:ああ、僕は3.11のあとにまず読み返したいと思ったのは、丸山真男と坂口安吾でしたね。

もんじゅ:そうですね、安吾の『戦争と一人の女』とか、しみじみきます。あと、夏目漱石の『三四郎』の冒頭で、主人公が「(日本は)滅びるね」ってたまたま汽車で乗り合わせた人にいわれますよね。日本が一等国に憧れてどんどん進んで、だけどその先に発展はない、という意味のくだり。そこを震災後に読み返したんですけど、原子力を持ちたい気持ちってそれに近いと思うんです。欧米列強に憧れて、みたいな。

坂本:まったくそうだよね。

もんじゅ:でも、そういう真似事や憧れではうまくいかないということが、もう原発事故ですごくはっきりわかってしまったのかな、って。

坂本:日露戦争に勝ったことで、当時の日本の雰囲気が一変したらしいよね。それで自分も列強の一員なんだと思ってどんどんやりだして、いろんなところに石油を求めて侵略していった。でも、気がついたらまわりを囲まれていて、引っ叩かれた感じで。だからやっぱりエネルギー問題というのは、もうそのときから関係していたんだよね。

もんじゅ:そうみたいですね。ボクもそのABCD包囲陣のときの危機感と、70年代のオイルショックの危機感というのは、エモーショナルな部分でちょっとつながっているのかなと想像することがあって、そういうことを『さようなら、もんじゅ君』という高速増殖炉としての自伝にも書きました。

そういう古い思いこみ――「我が国にはエネルギーがない、欲しい!」とか「一等国になりたい」的な飢餓感というか劣等感みたいなコンプレックスから、自由になっていけたらいいですよね。

坂本:うん。ほんとうにそうだよね。

もんじゅ:原発をなくしていくっていうのは、たんにエネルギー源の切り替えというだけじゃなくて、みんなが自分の意見をいって政治参加するようになるかどうかとか、大量につくって大量に消費するライフスタイルから卒業するとか、そういう深いところにかかわってくるんだと思います。

坂本:そう。だからこそここはふんばらないといけないな、って思うよね。すこしずつ雰囲気も変わってきていると思うし。

もんじゅ:そうですね。あきらめずに声をあげていくのがだいじですね。

坂本:そう、声をあげつづけることがだいじ。

もんじゅ:きょうはどうも、長時間ありがとうございました。

前編を読む
なお、NO NUKES 2013は、下記の通り開催されるとのことです。
日時:2013年3月9日(土)・10日(日)/場所:Zepp DiverCity(東京)
公式HP http://nonukes2013.jp/

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